61.脳筋少女、泣き虫店員に事情を話す。
「なんだって!? コイツが四天王!!?」
盗賊Cの驚愕した声が辺りに響きました。
少女と青い髪の青年も眼を丸くしています。それだけ火竜の長の言葉は衝撃的でした。
『そうヨ。でもなんだってこんなトコロにいるのかしら? 普段は魔王のそばにいるのに』
「まさか……散歩?」
『散歩ではないでしょうネェ』
少女の言葉に火竜の長は苦笑します。普通に考えて散歩はないでしょう。
そんな二人のやり取りを見ていた青い髪の青年が、火竜の長の方を凝視します。少しの間茫然としていた青年が、わなわなと身をふるわせ口を開きました。
「え、な、なんで? トカゲが喋ってる!?」
その顔は蒼白で、今にも泣きそうです。少女は、青年をなだめるように言いました。
「あなた、知らないの? この世界には喋るトカゲがいるのよ?」
なんということでしょう。
喋るトカゲがいるのが普通だと、少女が首を傾げながら断言しました。真顔で言い切られたからか、青い髪の青年が“え、自分が知らないだけで世の中には喋るトカゲがいたのだろうか?”という顔になりました。
信じやすい青年です。きっと素直な性格なのでしょう。
それを見て、盗賊Cも一つ頷き、真顔で畳み掛けました。
「そうだぞ。知らないのか? 最近では喋るトカゲくらい珍しくないぞ?」
「ええっ!? そ、そう……なんですか?」
「あぁ。だって現にここにいるだろう?」
盗賊Cは火竜の長を手で示します。火竜の長は『そうそう。いるのヨ~?』と言いながら手を振りました。とてもイイ笑顔(?)です。
「確かに……ここにいますね」
「あ、大丈夫よ。この子は噛まないから」
「そうですか。なら……」
いいのでしょうか。
少女の言葉に、青い髪の青年はほっと安堵の息を吐きました。何か動物に噛まれた経験でもあるのでしょうか。
その青年の様子に、盗賊Cと少女は満足そうに頷きあいました。
そして、それを横目で見ていたクロは、キリッとした表情で一歩前へと進みます。
『……実はな、最近は犬も喋るんだぞ?』
「流石にそれは信じませんよ!?」
クロが真摯な態度で嘘情報を告げましたが、半泣きになった青年に即座に否定されてしまいました。
***
『まぁまぁ、細かいことはイイじゃないの』
火竜の長が、色々な衝撃にいっぱいいっぱいな様子の青年を慰めるように優しく声をかけます。
目尻に涙を浮かべた青年が火竜の長の方へ顔を向けました。
『ワタシたちは、アナタを傷つけたりしないワ。だから……無闇に怖がらないでほしいノ』
火竜の長の言葉に、青い髪の青年はハッと目を見開きます。
言われたことを真剣に受け止めたようです。
「……すみません。失礼な態度をとってしまいました」
ペコリと頭を下げる青年を見て、火竜の長はやわらかく笑いました。
『いいのヨ。アナタはとっても素直なイイコね』
「いいえ、そんなことありません」
『ウフフ……まぁいいワ』
「それで……貴方たちはどうしてここにいるのですか?」
目尻に浮かんでいた涙を拭き、しばらく落ち込んでいた青年が、もっともなことを聞きました。
こんな人気のない場所へ来るのは、余程の迷子以外は用事のある者だけです。
「実はね、あなたを探しに来たのよ」
「えっ?! 僕ですか?」
少女の言葉に心底驚いた表情になった青年はわたわた慌てだしました。慌てすぎて再び涙目になっています。
盗賊Cが落ち着かせるように背中をポンポン叩きました。
「落ち着け。“黄金の筋肉亭”の主人に頼まれたんだ。あんたを見つけたら帰ってくるように言ってほしいってな」
『帰還予定日を過ぎちゃってるみたいじゃないノ。何かあったんじゃないかって心配していたワヨ』
『ふむ。怪我はしていなくてよかったな……』
クロが青い髪の青年の周囲をグルグルまわり、鼻をヒクつかせて血の臭いなどがないかを確認しました。先ほど少女たちも確認していましたが、どうやら問題はなさそうです。
少女たちの言葉を聞く青年は、徐々に青ざめ、最終的に頭を抱えてしまいました。
「ああああご主人ごめんなさいー!!!!
今年は“活力のキノコ”が豊作だったみたいで、たくさん見つかったんです。それで次は取りに来られるかわからないので、もう少し、もう少しって思っていたらこんなに時間が経ってしまいまして!」
“黄金の筋肉亭”の主人に心配をかけてしまったことを後悔しているのでしょう。青年の両目からはドパッと涙が溢れ、頬を滑り落ちていきます。
あまりの勢いに盗賊Cはビックリしました。
「ちょ、泣くな泣くな。早く帰って安心させてあげよう。ここは魔物も出るし。な?」
「はいぃ……」
「そういえば、なんであの魔物に襲われていたの?」
「わかりません。偶々じゃないでしょうか?」
『うーん。でも、コイツがこんなトコロにいるってことは、何か理由があると思うワ』
少女が緑色の魔物のもとまで歩いていきます。
すると、倒れていた魔物が微かにピクリと動きました。なんと、まだ生きていたようです。
「あら、生きてたわ。ちょうどいいので喋ってもらいましょう」
少女がにっこり笑って拳を握りました。




