60.脳筋少女、泣き虫店員を発見する。
「うわああああああん。……た、たすけてぇぇぇー!!」
遠くの方から聞こえる男の人の泣き声。
助けを呼ぶ声は可哀想なほど震えています。
「……あれか」
『あれだな』
『絶対あれネ』
盗賊Cとクロと火竜の長は、一声聞いてピンときました。
姿は見ていませんが、それはそれは見事な泣き声です。きっと探し人である“黄金の筋肉亭”の泣き虫店員でしょう。
少女一行は街道からそれた森の中を“活力のキノコ”を求めて歩いているところでした。
しかし、人にも魔物にも全く会わなかったので、四人(?)でおしゃべりをしながら歩いていたのですが、そこに先ほどの泣き声が聞こえてきたのです。
探し人だ、と思った盗賊Cは少女を見ました。
「お嬢、今の声は多分──お嬢?」
すると、なんということでしょう!
振り向いた先に少女の姿はありませんでした。盗賊Cは慌てて周囲をキョロキョロします。
『あっちだ!』
クロの声を聞き、そちらの方向を見た盗賊Cは驚きました。少女がすでに駆け出しているからです。
「お嬢っ! どこへ行くんだ!?」
「今の声の聞こえたところよ!」
少女の返答を聞いたクロが慌てました。制止しましたが、少女はどんどん駆けていきます。慌てて追いかけながらクロがさらに声をかけました。
『待ってくれ主! 微妙に方向が違う……そちらではない!』
どうやら、少女は微妙に方向を間違えていたようです。
***
「ひぇええ! こっちに来ないでー!!」
たどり着いた場所には、緑色の人型の魔物に襲われている青年がいました。
青い髪に水色の瞳、そして半泣きの顔……間違いありません。探していた“黄金の筋肉亭”の店員です。
青い髪の青年は、人が来たことに一瞬顔を輝かせましたが、その助けに現れたのが可憐な少女であるのを見ると、「こっちに来ちゃダメです!」と泣きながら止めました。
しかし少女の駆ける速さは止まるどころかさらに上がっていきます。
ふと嫌な予感がした盗賊Cはとっさに声をかけました。
「お嬢! 緑の方、魔物をやっつけてくれっ」
「……わかっているわ!」
少女が当たり前だとばかりに頷きます。ですが、少し不穏な間がありました。
盗賊Cは嫌な予感が当たっていた可能性があったのかと、無事に魔物の方へ駆ける少女を見て安堵に胸を撫で下ろします。
緑色の魔物へ駆け寄った少女は、そのままの勢いを殺さずに拳を振り抜きました。
バキィィイ!!!
『グギャアァァァッ!!』
少女に殴られた緑色の魔物は、後方へ吹き飛び木に激突します。そして地面に倒れ、ピクリとも動かなくなりました。少女の強烈な一撃にやられてしまったようです。
青い髪の青年は、心底驚いた顔で少女と魔物を交互に見ていました。少女の細腕で魔物が殴られぶっ飛んでいった光景を、自分の目で見ていたのに信じられないようです。
「大丈夫?」
「へ? は、はいぃ。大丈夫です!」
「間に合ってよかったわ」
少女に声をかけられた青い髪の青年が、あたふたと返事をしました。そして今度は助かったことに安心したのか目に涙を滲ませています。
ぐすぐす泣いている青い髪の青年に、盗賊Cが水筒を差し出しました。
「ほら、これでも飲んで落ち着け」
「ありがとうございます。貴女たちのお陰で助かりました。本当に、ありがとうございます」
水を一口飲んだら少し気持ちが落ち着いたようです。
涙目ですが、青い髪の青年はしっかりとお礼を言い、頭を下げました。
「それにしても無事でよかったわ。怪我はある?」
「いえ、大丈夫です!」
「遠慮するなよ? よく効く傷薬があるから……」
少女と盗賊Cは魔物に襲われていた青年に怪我がないか確認しています。そんな少女たちから離れ、クロと火竜の長が緑色の魔物に近寄りました。
様子を確認するため、うつ伏せに倒れていた魔物をひっくり返した火竜の長が驚きの声を上げます。
『あらヤだコイツ……魔王の四天王だわ』
衝撃の発言に周囲の時が止まりました。




