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59.脳筋少女、泣き虫店員を探しにいく。


「さぁ、出発するわよ」

「消耗品とか食料とか食料とか食料とか……できる限り準備したし。後はなるようになるか」

『ネェ、そんなに持って大丈夫ナノ?』

『ふむ……人目がなくなったら我が大きくなるので、背に乗せていいぞ?』

「火竜の長、心配してくれてありがとう。クロもありがとな。人目がなくなったら手伝ってくれると嬉しい」

『あぁ。まかせろ』


 盗賊Cが大きな荷物を背負い、泣き虫店員を探しに少女一行は出発しました。



***



 翌朝、早くに起き出した少女たちは、盗賊Cが買い出しを済ませてから出発することになりました。

 盗賊Cが買い物をしている間は、クロと火竜の長が少女の見張りです。しかし、二匹の奮闘むなしく、盗賊Cが帰ってきたときには宿の食堂で皿を積み上げている少女がいました。

 盗賊Cは遠い目をしましたが、少女が食べてしまったものは仕方ありません。諦めて自分も一緒に朝食を済ませ、代金を支払いました。


「…………財布の中身が心許ない」


 ぽつりと呟いた盗賊Cに、少女は目を見開きます。買い出しと朝食で結構お金を使ってしまったようでした。もともと残りのお金は少なかったので仕方がないでしょう。少女は少し考える仕草をした後、盗賊Cに真っ直ぐな眼差しを向けました。


「そういうことね。大丈夫よ。私にいい考えがあるわ」

「いい考え?」


 少女の言葉に盗賊Cは首を傾げます。いい考えとはなんでしょう。少女が得意そうな顔で指を一本立てます。


「えぇ。まず店員を探し出す。見つけたら“黄金の筋肉亭”の主人から報酬をもらえる。ここまではいいわね?」

「あぁ。そうだな」

「それで、よ。店員が探してる物はなに?」

「えぇっと“活力のキノコ”だったか」


 盗賊Cは聞き込みのときに聞いたキノコの名前を言いました。

 少女は一つ頷きます。


「それよ。店員を連れ帰る前に私たちもそのキノコを探すの」

「えっ。でも、幻って言われるほど見つからないキノコだぞ」

「心配ないわ。うちにはクロがいるもの」

『えっ。主!?』


 突然の無茶ぶりにクロが驚いた顔をしました。そんなクロに少女は慈愛のこもった微笑みを向けます。


「私はクロならできると思うわ」

『しかし……』

「私はクロを信じてる」

『────主っ!! わかった。我が必ず見つけてみせる!』

『ちょ。……えぇ~……アンタ、ちょろ過ぎでしょ。そんな性格だったかしら?』


 クロのあまりのちょろっぷりに、火竜の長は苦笑してしまいます。でも、昔より確実に面白い性格になっているので、「まぁ、いいことかしら?」と放置することにしました。


 こうして、宿屋を後にした少女たちは門へと向かうのでした。




 門の向こうへと出ていく人はあまりいないみたいです。

 やはり魔物を恐れているのでしょう。門を出ようとした少女一行はかなり目立ってしまい、昨日の聞き込みの時にもいた門番に止められてしまいました。


「君たちまで行くのか!? この先は魔物がいて危険だぞ」

「大丈夫。魔物は貴重な収入源よ。むしろ出てほしいわ」


 心配そうな顔で親切にも忠告をしてくれた門番に、少女は笑顔でキッパリと言い切りました。そして、唖然とする門番の横を通り、さっさと門を出てしまいます。盗賊Cは心配してくれた門番にペコリと頭を下げてから、少女を追いかけました。


 街道をしばらく歩き、周囲に人の気配がないことを確認してから、少女はクロに話しかけました。


「クロ。泣き虫っぽい臭いを探してほしいの。わかるかしら?」


 なんということでしょう。

 少女がいきなり無茶を言い出しました。

 クロは困惑した顔で言います。


『……残念ながら、我は泣き虫っぽい臭いというのはわからないな』

「そうなの……。火竜の長はわかる?」

『エッ。ごめんなさい。ワタシも泣き虫っぽいのはわからないワネ』

「そう……周りに泣き虫がいなかったのね。困ったわ」


 憂い顔になる少女に対し“それは違う”と少女以外の心が一致しました。

 少女の無茶ぶりにびっくりしていた盗賊Cは、クロと火竜の長を助けるために一つ提案してみました。


「お嬢、とりあえず街道を歩きながら店員を探してみて、いなさそうなら“活力のキノコ”が採取できると聞いた場所に行ってみるのがいいんじゃないか? 向こうの目的は“活力のキノコ”を探すことなんだから、その道のりで会えるかもしれないし」


 盗賊Cの提案を聞いた少女は、パッと顔を輝かせます。


「それはいい考えね。それでいきましょう」


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