57.脳筋少女、またしてもナンパ男に出会う。
ご飯を食べ終えた少女一行。
食後のお茶を飲みながら、少女たちはどのように探すか話し合いました。ですが、全員人探しなどしたことはありません。なので、『とりあえず聞き込みをしながらこのあたりをウロウロする』ということに決まりました。
相手の名前と特徴しか知らないので、出来ることには限りがあります。妥当なところでしょう。すると、真剣な表情で何事か考えていた少女が口を開きました。
「良いことを思いついたわ」
「……どんな?」
「全員一緒になって探すなんて非効率的だと思うの。ここはふたてに別れて探す方がいいんじゃないかしら」
少女が何だか難しい言葉を使っています。
『ふむ、なるほど。それもアリだな』
『そうネェ……良いんじゃない?』
少女のまともな提案を聞いたクロと火竜の長も賛成の声を上げました。
しかし長い付き合いの盗賊Cは冷静です。
「お嬢、財布は俺が持っているが。それでもふたてに別れるか?」
「あっ!!?」
少女が大きく目を見開きました。少女はあまり気にしていませんでしたが、路銀の入った財布は荷物持ちの仕事として盗賊Cが持っているのです。
そして盗賊Cは気づいていました。
少女の目当てが、この宿屋に来る途中にあった屋台であろうことを。
『主……まさか』
『貴女って……とても残念なのネェ』
二匹の憐れみの視線に、さしもの少女も項垂れます。
結局全員で探すことになりました。
「あー、君たち!」
宿屋を出たところで、声をかけられました。
かけられた声に振り向くと、いつぞやの黒髪の少年がいました。あの三人の女の子たちとは別行動なのか、周囲に姿は見えません。
また一人でナンパでもしていたのでしょうか?
「……何でこんなところにいるのかしら?」
「気持ち悪いな……」
『『…………』』
黒髪の少年を見て少女は首を傾げ、盗賊Cはぼそりとつぶやきました。いい思い出がないので当然の反応です。
黒髪の少年は嬉しそうに駆け寄ってきました。前回あんな風に別れたというのに気にしていなさそうです。笑顔で少女を見ています。
「こんなところで会うなんて凄い偶然だね。
やっぱり運命なのかな。あ、そうだ。ちょっといい?
この辺で淡い緑色の髪の毛に琥珀色の瞳をした女の子を見かけなかった? それか迷子っぽい女の子。あ、顔は結構可愛いよ。実はその子もおれと一緒に旅をしていた子なんだけどさ、もの凄い方向音痴ですぐ迷子になっちゃうんだよね。まぁ、そんなところも可愛いんだけど。あ、もちろん君の方が可愛いよ?
前の国からこの国へ移動するってときに迷子になっちゃってさぁ、探しても見つからなかったからこっちの国へ来てみたんだけど、まだ何も情報がないんだよね。君たちは何か知らない?」
な、なんということでしょう。
“ちょっといい?”と聞きながら少女たちの返事を聞く前に喋りだしたのも驚きですが、この量を一息に話し終えたことにも驚きました。以前よりさらにレベルアップした凄い肺活量です。
そして何より驚いたのは、黒髪の少年が探している人物に当てはまる女の子を知っていることでしょう。
この黒髪の少年は、緑髪の少女と一緒に行動していた仲間だったようです。
気持ち悪さと言葉に圧倒されていた盗賊Cは、この黒髪の少年にどう返答するべきか悩みました。
緑髪の少女の仲間であろうことは間違いなさそうですが、あまり気が合わなかったようですし、教えなくてもいいような気がします。判断に迷った盗賊Cは少女を見ました。
盗賊Cの視線を受けて、少女は力強く頷きます。どうやら“任せろ”と言いたいようです。盗賊Cもわずかに頷き、少女に任せました。
「そうね。その特徴に合う子を知っているような気がするけど……今はお腹が空いていて頭がまわらないわ。お腹いっぱい食べたら何か思い出すかも」
「えっ」
『『…………ぇっ』』
「えっ? 一緒にご飯食べようって? もちろんいいよ!」
嬉しそうな顔をした黒髪の少年に、少女は綺麗な笑顔を浮かべました。




