56.脳筋少女、迷子を治療所に届ける。
少女一行は、薬で体調を整えた緑髪の少女を無事に治療所まで送り届け、緑髪の少女とはそこでお別れしました。
「酷かったわね」
「……そうだな」
宿屋の一室。
少女は椅子に、盗賊Cは寝台に座っていました。クロと火竜の長もおとなしく盗賊Cと同じ寝台に座っています。
少女と盗賊Cは、先ほど見た光景について話していました。
治療所には怪我をした人たちがたくさんいたのです。
***
少女たちは緑髪の少女を治療所まで送り届けることになりました。
本当は魔女さんの薬をあげたあとで別れるはずだったのですが、緑髪の少女が迷子になる気がする……と盗賊Cが言ったので、治療所まで送ることにしたのです。
治療所まで送ってもらった緑髪の少女は、さっそく治療所の責任者のもとへいきました。到着の報告と治療の順番を訊いて重傷者から治療していくためです。
少女たちも緑髪の少女の迷子っぷりが心配なので、治療所の責任者がいる部屋までついていくことにしました。途中、治療所の内部を歩いていると、うめき声がそこかしこから聞こえてきます。
緑髪の少女の到着に治療所の責任者は大変喜び、感謝していました。
このとき、少女たちも手伝えることがないか尋ねてみましたが、普通の人手は間に合っていたようです。
「手伝えることがないのなら、仕方ないわね」
「そうだな。なら宿屋を探しに行くか」
「そうね」
この国へ入ってから真っ直ぐ治療所へ来たので、まだ今夜の宿を取っていません。
治療の邪魔にならないように立ち去ろうとした少女たちに、慌てたように緑髪の少女が声をかけてきました。
「あの、ここまで色々とありがとうございました! 貴女たちのお陰で予定より早くここへ来られました。いつかご恩返ししますので!!」
緑髪の少女が精一杯の声音でお礼を言います。
「いらないわ。それより、あなたにしか出来ないことを頑張りなさい」
「…………はいっ!」
きっぱり返す少女の言葉に、力強く頷いた緑髪の少女は、一度頭を下げたあと治療しに戻っていきました。
***
「間に合う命が一つでも多いといいわね」
「そうだな」
ぽつりと呟いた少女の言葉に、盗賊Cも真剣な表情で頷きました。少女が「よし!」と気合いを入れて座っていた椅子から立ち上がります。
「じゃあ、宿もとったし人探しに出かけましょうか。あ、その前に……大事なことがあったわ」
「なんだ?」
盗賊Cは少女に“そんなこともわからないの?”という顔で見られました。
「ご飯よ。お腹すいたわ」
「……あぁ、そういえばご飯食べてなかったな。それじゃ、飯を食べてから人探しに行くか」
盗賊Cの言葉に全員が頷きます。そして今まで黙って話を聞いていたクロがキラリと目を光らせました。
『ここは我の出番だな。人探しなど、我にかかれば簡単だ』
『あら、でも本人を見たことないじゃナイ』
『ぬぅ……』
一度でも会ったことがあるのならクロは臭いで探せます。
しかし、今回の尋ね人は会ったことがないので探すのが大変でしょう。唸っているクロに火竜の長が言いました。
『ワタシも手伝うワヨ』
『うむ。我らに出来ることを頑張るか』
『エエ』
「ほら、二人とも。どうやって探すかもご飯を食べてから話し合うぞ」
『わかった』
『わかったワ』
「それじゃ、行きましょう。ご飯が待っているわ」
少女の言葉に盗賊Cは苦笑します。
火竜の長はさっさと歩きだす少女の腕に巻きつき、クロは盗賊Cが抱えて部屋から出ました。部屋の鍵はもちろん盗賊Cがきちんと閉めます。
人探し……よりも先にご飯を食べることにした少女一行なのでした。




