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55.脳筋少女、第四の国に着く。


「着いたわ」

「つ、つきましたね……」

「……大丈夫か?」

「はぃ、なんとか……」


 いつも通りの少女に真っ青な顔色をしている緑髪の少女、そして小さくなったクロと火竜の長を腕に抱える盗賊C。

 少女一行は無事に第四の国へとたどり着きました。

 人目につかない場所で巨大化したクロから降りた少女一行ですが、混乱しっぱなしだった緑髪の少女は、どうやら乗り物酔い(?)をしてしまったようでした。

 ふらふらしている緑髪の少女を盗賊Cが支えながら歩いています。


「それで? このあとはどうするの?」

「宿を探して一旦この子を休ませた方がいいんじゃないか?」


 首を傾げる少女に、盗賊Cが提案します。ちらりと横目で支える人物を見ました。緑髪の少女はまだ青い顔をしてふらふらしているので、休ませた方がいいでしょう。


「そうね。……あら? でも癒しの力があるのなら、自分のことを癒せばいいんじゃないの?」

「いぇ、それはできません。この力は、困っている人のために使うと教会で誓いをたてていますから……」


 疑問を抱いた少女に、緑髪の少女は青い顔をしつつもきっぱりと答えました。

 その言葉にクロと火竜の長は感心し、盗賊Cは感激しています。

 

「なるほど、立派ね。でも、あなたがそんなにフラフラしてるんじゃ、治してもらう方も不安に思うんじゃないかしら?」

「それもそうだな。顔色も青いし、逆に心配になる」

「うっ……」


 少女が正論を言いました。そしてそれに盗賊Cも同意します。

 確かに、治す方が青い顔をしてふらふらしているのでは人々は不安になるでしょう。

 二人からの指摘に、緑髪の少女はおろおろしています。


「ど、どうしましょう」

「あなたが早く行きたいのもわかるけど……ねぇ、どうにかできる?」


 困ったときの盗賊Cです。

 少女たちに見つめられ、盗賊Cは顔をひきつらせました。


「えっ。うーん……どうにか……どうにかかぁ…………あっ!!!」


 なにやら思いついたようです。

 盗賊Cが荷物を置いてガサゴソあさり始めました。そして、目的の物がすぐに見つかったのか、パッと顔を輝かせます。


「これだ!」

「なにこれ?」

「何ですか?」


 盗賊Cが取り出した袋を見て、少女たちは首を傾げました。


「これは、魔女さんがくれた薬だ!」

「魔女さん?」


 緑髪の少女が不思議そうな顔をします。

 盗賊Cが得意気に取り出したのは、白薬樹の魔女が餞別にくれた“疲労回復薬”と“胃薬”でした。“胃薬”はかなり量が減っていましたが、緑髪の少女が使う分には問題ないでしょう。

 盗賊Cは一回分の薬を緑髪の少女に渡しました。


「なるほどね。あの子の作った薬ならよく効くでしょう。よかったわね」

「えっと……どういうことでしょう?」


 薬を受け取ったけれど、よくわかっていない緑髪の少女に、盗賊Cが説明を加えました。


「この薬は魔女協会の正式な生薬術師が作った“疲労回復薬”と“胃薬”なんだ。効き目は俺が保証する」

「え゛っ。こ、この薬って、生薬術師が作ったものなんですか!? 滅多に手に入らない最高級品じゃないですか」

「あぁ。普通の薬とは全然違う。凄い効き目だぞ」


 少女もクロも火竜の長も薬が必要だったことはありません。いつも薬を使うのは盗賊Cです。

 なので、この薬の凄さは盗賊Cが身をもって知っていました。


「い、いいんですか? これを私が使っても……」

「お嬢、いいよな?」

「えぇ。かまわないわ」

「で、で、でも生薬術師の作った薬ですよ!? なかなか手に入らなくて、売られていたとしても目玉が飛び出るような値段の、アノ、貴重な生薬術師の薬ですよ!!?」


 震える手で薬を持ち、だんだん興奮してきたのか声が大きくなる緑髪の少女を、盗賊Cが慌ててなだめました。生薬術師の薬を持っていることを悪い奴らに聞かれたら、奪うために因縁をつけられてしまうでしょう。


「落ち着け。声が大きい」

「あっ。すみません」


 そのことに緑髪の少女も気がついたのか、申し訳なさそうに謝ります。


「確か生薬術師の薬が高いのは、“元気なヤツに売る薬は一つもない。それでも欲しいのなら金出しな”って感じの理由だったわ」

「そ、そうだったのか……」

「知らなかったです」


 少女の過激な言葉に盗賊Cと緑髪の少女は顔をひきつらせました。

 そんな二人には構わず、少女は続けます。


「生薬術師は人を助ける薬を作る。本当に必要としている人にはそんな高値で売りつけないわ。あの子も『病気でもないくせに効果が高い薬を買い占めようとするヤツは大っ嫌い。せいぜい大金を落としてもらって役に立ってもらうわ』って言ってたし。だからね、いいのよ。怪我で困っている人を助けようとしているあなたにこそ、あの薬を使ってもらいたいの」


 少女の真摯な言葉を聞き、目を見開いた緑髪の少女はグッと唇を噛みしめました。

 込み上げる熱い思いを胸に、そっと薬をにぎります。


「……はい。では、ありがたく使わせていただきます」


 緑髪の少女は、貰った薬をグッと一気に呑み込みました。

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