54.脳筋少女、迷子の事情を聞く。
「なんで急いでいるの?」
「どうして……と訊いてもいいのか?」
少女は真っ直ぐに、盗賊Cは控えめに訊きました。
緑髪の少女は二人のことをじっと見つめ、頷きました。
「実は私は聖職者なのです」
「ふぅん?」
「聖職者!!!?」
きょとんと首を傾げる少女の言葉と驚愕の叫びを上げる盗賊Cの言葉は同時でした。明らかにわかっていなさそうな少女の声を聞き、盗賊Cは“まさか……”と恐る恐る少女を見ます。
「まさかお嬢、聖職者を知らないってことはないよな?」
「何を言っているの。常識よ? 知らないワケがないでしょう」
少女が自信満々に頷きます。それに盗賊Cはホッと安堵しました。
「だよな。いくらお嬢でもそれくらいは知っていて……」
「教会で昼寝してる人でしょ?」
「違う!」
「違いますよ!?」
盗賊Cと緑髪の少女が同時に突っ込みます。
ふぅ、と気持ちを落ち着けてから盗賊Cは少女に常識の確認をしました。
「お嬢の村にも教会があるだろ?」
「えぇ、あるわ」
「教会はどこの町や村にも一つはあるんだ」
「へぇそうなの」
「そして普通の教会には下位教会員が数人と上位教会員が一人いる。大きい街にはもっといたけど」
「そうなの?」
盗賊Cの説明を聞いた少女は、緑髪の少女に確認しました。
「えぇ。小さめの教会では下位教会員数名と上位教会員が一人で運営しています。上位教会員は下位教会員を指導する立場でもありますね。そして、教会で一番偉いのは聖教皇様……まぁ国でいう王様みたいなものです。次に聖者、聖女が続きます」
「いっぱいいるのね」
「え、いぇ、上の階級の人は人数的にはそれほど多くはないです。……それで、その次に位が高いのが聖職者なのです」
「ふぅん」
つまり教会の中で結構位が高いのが聖職者なのですが、少女の反応は薄いです。
それに慌てたように盗賊Cが説明を加えます。
「あと! 聖職者以上の階級にある方たちは“癒しの力”を持っている!」
凄いことです。
“癒しの力”持っている人は限られた一部の人だけなのです。
その力の希少性もあり、聖職者以上のものたちは一般の人々から尊敬されています。
「凄いのね?」
「そう。凄いんだ」
少女の言葉の後ろに疑問符がついていたようですが、盗賊Cはもう諦めました。
緑髪の少女は二人のやり取りを苦笑しながら見ています。
「それで、私はこの先の国にいる魔王軍の被害を受けた人々を癒すために向かうのです」
「教会が動いたってことか?」
「えぇ。聖職者数人が派遣されています」
「そうか……」
盗賊Cが何やら考え込んでいます。
「どうしたの?」
「いや、聖職者の方には俺も助けられたから、恩返しをしたいなと思って」
どうやら盗賊Cが避難民になったとき、聖職者に傷を癒してもらったことがあるようです。
「そのときの聖職者はアンタじゃないが、お礼を言わせてくれ。あのときは……自分のことでいっぱいいっぱいで、お礼が言えなかったんだ。聖職者の方に助けてもらえたことで、俺は今も生きていられる。……助けてくれてありがとう」
「……いえ。貴方が無事でよかったです」
緑髪の少女は、ふわりと笑って盗賊Cの感謝を受け入れました。その様子をじっと見ていた少女が口を開きました。
「癒すために行くなら、早く行った方がいいのよね?」
「えぇ、なるべくなら早い方がいいですね」
緑髪の少女の言葉を聞いた少女は、真面目な顔で考え込んだあとで一つ頷きます。盗賊Cは嫌な予感がしました。しかし、少女を止めることはできません。
「決めたわ」
「え?」
「……お嬢?」
「クロ!」
『いいのか?』
「え? 犬がしゃべって……」
「あああ、やっぱり。仕方ないか」
「ええ。行くわよ」
『わかった。主の言葉に従おう』
巨大化したクロに緑髪の少女は大混乱しています。
「さぁ、乗って」
「えっ」
ついていけていない緑髪の少女をクロに乗せ、全員でクロに乗ります。
「出発!」
「え、ええ? ……ひゃあああああ!?」
人気のない森に緑髪の少女の悲鳴が響きました。




