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51.脳筋少女、第四の国へ向かう。

「なにコレ?」

「人間、だろ。多分」

『ふむ……匂いは人だぞ』

『いやぁん、なんかボロボロねぇ』


 街道からそれなりに離れた森のなか、少女一行は真っ黒な物体を発見しました。

 少女は首を傾げながら適当に拾った枝で物体をツンツンしています。


「お嬢……ヘンなモノをつつくな。危ないぞ」


 何が危ないのでしょう。

 盗賊Cの注意にツッコミを入れる者はいませんでした。



***



 天才剣士の少年と別れた少女一行は、南の町から行ける第四の国を目指して旅をしていました。

 火竜の脅威もなくなったのに、南の町で働くのではなく次の国へと行く決意をしたのには、もちろん訳があります。


 それは天才剣士の少年と別れる前、南の町にある“黄金の筋肉亭”でのことでした。



「よぉ、嬢ちゃん。今日も元気そうだな」


 少女に声をかけてきたのは、老いてなおムキムキの筋肉をもつ宿屋の主人でした。


「ええ、元気よ」

「単刀直入に訊くが、お前さんは筋肉に興味があるか?」


 単刀直入すぎて意味がわかりません。


「もちろん」


 そして少女は即答しました。

 素晴らしい反射速度です。

 宿屋の主人は、満足気に頷きました。


「実はな、お前さんを見込んで頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」

「えぇ。いいわよ」

「助かる。実はな……この先の国で採れる幻のキノコがあるんだが、それを採取しに行った店員が帰還予定日を過ぎてもまだ帰ってこないんだ。

 採取に夢中になっていて帰還が遅れているのならいいんだが、もしかしたら何かあったのかもしれない。見かけたらでいいんだが、帰ってくるように言ってもらえないか?」

「……それは会える確率の方が低いのでは?」


 盗賊Cが真っ当な意見を出します。

 宿屋の主人も困った顔で腕を組みました。


「まぁ、それはそうなんだがな。オレは店から離れられないんで信用できるやつに頼むしかねぇ。もちろん報酬は出す。前払いでこの宿自慢の“筋肉モリモリ! 宿屋の主人オススメ裏メニュー”を。店員が帰ってきたら捜索代金を支払おうと思うんだが、どうだ?」


 “筋肉モリモリ! 宿屋の主人オススメ裏メニュー”と聞いた時点で顔を輝かせた少女に、嫌な予感がした盗賊Cは「お嬢」と声をかけようとします。


「──乗ったわ」

「ちょ、お嬢!?」

「即決!!?」


 しかし、即決した少女に盗賊Cの制止は間に合いませんでした。

 天才剣士の少年も唖然としています。


「……お嬢、もう少し考えてからの方がいいんじゃないか?」


 なんとか少女の意思を変えてもらおうと、盗賊Cは悪あがきします。

 しかし、一度決めたことを曲げる少女ではありません。


「考えは変わらないわ。行くの」

「しかし、あの国は結構魔王領に近いぞ?」

「私が一瞬で出した答えは、長々考えたとしても変わらないわ。わかるでしょう?」

「うわ……そうだな。わかった」


 少女の言わんとすることがわかった盗賊Cは、大人しく付き合うことに決めました。確かに少女が考える長さを変えたところで、考えを変えるわけがないのですから……。


「ではその店員の特徴を教えてもらってもいいですか?」

「まぁ、見たら『コイツだ!』ってわかると思うんだが……」


 気持ちを切り替えて質問した盗賊Cに宿屋の主人は大きく頷きます。まずはその店員の名前、次に目の色、髪の色、その他特徴を教えてくれました。


「……なるほど。わかりやすいですね」

「だろ? 見かけたらでいいからよろしく頼む」

「えぇ、わかったわ」


 少女たちは力強く頷きました。



***



 そんなこんなで次の国を目指していた少女一行ですが、彼女たちの目の前にはうつぶせに倒れた人影があります。

 少女はサクッと人影をひっくり返しました。


「うぅ……」

「女の子ね」

「何でこんなところで倒れていたんだ?」

「まぁ、本人に聞いてみればわかるでしょ」


バシンバシン。


「う゛ぅ……」


 往復ビンタをされた女の子が呻きます。


『主よ……もう少し優しく起こした方がいいのでは?』

「これ、痛いんだよな……」


 盗賊Cもこうやって起こされた時を思い出してしまいました。トラウマです。


「これでも結構優しく起こしていると思うのだけど。……もう一回くらい?」


 少女が首を傾げながら手を振り上げた、まさにその瞬間──倒れていた女の子は目を開けました。


「起きましたぁ!」

「そう。よかったわ」


 倒れていた女の子は、淡い緑色の髪に琥珀色の瞳の可愛らしい女の子でした。


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