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50.脳筋少女、天才剣士の少年と別れる。

 少女一行の前に立ちはだかる三人の少女たち。


 一人は、金髪碧眼のお嬢様っぽい少女。

 二人目は、魔術師風の格好をした少女。

 三人目は、メイドさんです。


 彼女たちはいったい何者なのでしょうか──?





「あんたたち、誰だ?」


 盗賊Cが誰何(すいか)します。

 すると、金髪の少女が一歩前に出ました。動きに合わせて、きっちりと整えられた縦ロールが揺れます。見るからにお嬢様っぽいです。


「貴方たちこそ誰ですの? わたくし達はあの方に用があるだけですわ。邪魔をしないでくださる?」


 金髪の少女は、黒髪の少年を見つめています。見た目もお嬢様っぽいですが、高圧的な話し方もお嬢様っぽいです。

 盗賊Cは本物のお嬢様っぽい金髪の少女にちょっと気圧(けお)されつつ、黒髪の少年に視線を向けます。

 黒髪の少年は、顔を輝かせて金髪の少女に話しかけました。


「キミたち、おれを迎えに来てくれたの? ありがとう。……あれ? あの子は?」

「もう! 姿が見えなくなって心配いたしましたわ。あの子はいつも通り迷子です。そのうち見つかると思いますわ。さぁ、宿の手配は終わりましたので休みましょう?」

「……それとも、お茶、する? 疲れた?」

「少し早いですが、お食事にすることも出来ますが」

「そうだなぁ。ああ、でも彼女とお茶をする約束を──」


 していません。

 しかしその言葉を聞いた金髪の少女は、キッと少女のことを(にら)み付けてきました。


「貴女、この方と一緒にお茶をしに行くんですの?」


 敵がい心を剥き出しにする金髪の少女に、


「いいえ? むしろ邪魔だからとっとと連れていってくれない?」


 少女はさっくりとお引き取り願った。


「なっ、なんですって!? この方をなんだと思って──」

「勘違い野郎」


 少女は言いたいことを言い終わったので、さっさと歩き出します。


「あ、お嬢!」

「お腹が空いたわ。どこかでご飯にしましょう」

「賛成。何食べようか」

『『……』』


 少女の言葉に誰も反対しません。みんなお腹が空いているのです。

 しかし、歩き出した少女の片手を黒髪の少年がつかみました。


「待ってよ! おれ、ずっとキミに逢いたかったんだ……!」


 ザワリと周囲の空気が揺らめきます。それだけ黒髪の少年は必死でした。

 少女はつかまれてない方の手を握りしめます。

 盗賊Cがそれに気づいて止めようか迷っている間に、少女は拳に力を込めました。


「勝手に触らないで。それ、セクハラよ!」


ドゴォ!


 少女の容赦ない腹パンが黒髪の少年に決まります。

 黒髪の少年は腹を押さえてくずおれました。


「きゃあああ! 何をなさいますのっ!?」

「……大丈、夫?」

「すぐに手当ていたします!」


 あわてて三人組の少女は黒髪の少年の元へ駆け寄ります。


「さ、行くわよ」


 こうして今度こそこの場を去りました。



***



 少女一行は“黄金の筋肉亭”に到着し、宿屋の主人に食事を注文しました。

 少女はお金がないので少年が立て替えています。

 普通の人なら食べる量を少しでも減らそうとするでしょうが、少女は自重しません。

 いっぱい頼みます。

 立て替える少年が顔をひきつらせてながら口を開きます。


「そういえば、なんなの? あの変なヤツ」


 少年の言葉に少女は簡潔な一言を返しました。


「どうでもいいわ」

「……そ、そう。ならいっか」


 心底どうでもよさそうな少女に、仲間たちは思いました。


 “黒髪の少年は、まったく脈なしだな”と。




 “黄金の筋肉亭”の素晴らしい食事を終えた少女たちは、今後の話をすることにします。


「報酬は全部あなたが持っていっていいわ」

「えっ、でも君たちの分をもらうわけには……」

「宿屋の扉の修理代と食事代と宿屋の代金とおやつ代を立て替えてもらったじゃない。報酬で足りると思うんだけど」

「あぁ……そうだね。君たち二人分の報酬を合わせれば、丁度いいくらいかな」

「そうなのよね。立て替えてくれてありがとう」


 立て替えてもらいすぎです。

 少年の言葉に盗賊Cは「立て替えてくれて助かった。ホント助かった。ありがとう」と頭を下げました。


「……そうすると、またどこかで稼がないといけないな」

『ふむ。金が無いのなら、手っ取り早く火竜の長の鱗を売ればいいのでは?』


 クロがさらっと提案します。


「それ、いいわね」

『イヤァン! 怖いこと言わないでヨォ!』


 少女の膝の上に乗っていた火竜の長が身震いしました。

 その様子を見ていた盗賊Cが疑問を口にします。


「そういえば、竜にとって鱗は人間のどの部分になるんだ?」

『爪よ』

「え……」

『人間の爪にあたるのヨォ! だから、剥がれるのはイヤ』


 爪にあたるとは予想外です。

 少し想像してみてから少女は言いました。


「それは痛そうね」

「あ、その話聞いてなんか爪が痛くなってきた……!」

「さすがにそれは……」


 少女たちの反応に火竜の長は笑います。


『ウフフ。なぁんて、ウ、ソ、よっ! そこまで痛いワケじゃないワヨォ』

「え、嘘なのか」

『ん~、そうねぇ。言うなれば、人間の髪の毛にあたるのヨ。生え変わった時に抜けたのは痛くないんだけど、無理やり剥がすとちょっと痛くてハゲになるからイヤなの』

「それはいけないっ! お嬢やっぱり地道に稼ごう」

「そうね」


 お年頃な盗賊Cの提案により、地道に稼ぐことが決まりました。



***



「それじゃあ……」


 次の日、早朝。

 南の町もまだ起き出したばかりです。


「えぇ、元気でね」

「道中気をつけてな」

『せっかく仲良くなれそうだったのに寂しいワァ』

『……やっぱり我が乗せて街まで送ろうか?』

「大丈夫だよ」


 宿屋を出たところで、少女たちは別れの挨拶をしていました。

 ここから少年とは別行動です。

 少年は火竜の長のことを報告しに街へ。

 少女たちはお金を稼ぐために新しい場所へ旅立ちます。


「また、君たちと会いたいな」

「生きてれば会えるわよ」

「そっか。そうだね」


 何てことないことのように言う少女に、少年は微笑します。

 盗賊Cも軽く言います。


「また会おう」

「うん。またね」


 少年は明るく手をふって、門に向かって歩きます。

 その背中をしばらく見送ってから、少女たちは反対側の門へ向かいます。


「次の街はどんなところだろうな?」

「ご飯が美味しければいいわ。そこが一番重要よ」

『主よ。目的を忘れずに』


 早くも食べることを考えている少女に、クロは注意します。

 だけど少女に効き目はありません。


「まぁ、なんとかなるわよ」

『アナタたち、いつもこんななのォ?』

「いつもこんな感じだな」

『大丈夫かしらァ』



「大丈夫大丈夫。さぁ、出発よ!」


 少女は元気よく、門を通り抜けました。


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