48.脳筋少女、町へ戻る。
「うるさいわよ。静かにしなさい?」
「あ、お嬢すみませんでした!」
少女が静かに微笑みながら拳を握ります。
盗賊Cはそれを見て即座に謝りました。完璧な土下座です。
火竜の長も呆れたような面白がるような声を出しました。
『変な人間ネェ』
「すみません。あの……それで、ヤっちゃった……って具体的にはナニを?」
盗賊Cはドキドキしながら問いかけました。
何を想像しているのかはわかりませんが、顔が少し青ざめています。少年も同じように顔を青ざめさせて“それは聞いてはいけない”と首を横に振ります。
しかし火竜の長はあっさりと答えました。
『四天王のうちの一匹、氷竜の長がケンカ売ってきたからしばらく立ち直れないくらいにボコボコにしちゃったのヨー。それで現魔王サマが今ピリピリしちゃってネ。心が狭いわよネ!』
「え」
「──え?」
盗賊Cと少年はポカンとした顔で首を傾げます。
『アラなぁに?』
火竜の長も首を傾げます。
盗賊Cと少年は己の勘違いに気がつきました。
しかし流石は盗賊C。
何事もないように続けました。
「ケンカしたのか?」
『そうなのヨォ。まぁ元々ワタシの一族と氷竜の一族は仲が悪いんだけど、アイツら暑いの苦手なくせにしつっこいのヨネェ』
火竜の長の言葉に興味をひかれたのか、少女が気になったところを聞いてみます。
「へぇ。勝てないのに挑んでくるの?」
『そうヨォ。大抵氷竜の長って冷静沈着なタイプが選ばれるんだけど、なぜか今代の長はアレなタイプで“融かされる前に突っ込んでいけば大丈夫! 火竜の長よ勝負だぁー!!”とか根性論でどうにかなると言っている奴なのヨネェ』
な、なんということでしょう……!
氷竜の長は脳筋だったようです。氷竜の印象とは随分ズレています。
火竜の長の言葉を聞き、少女は言いました。
「ふぅん。もうちょっと頭を使えばいいのにね?」
“お前が言うな”。
この場にいるメンバーの心は、今一つになりました。
***
「こほん。さて、僕たちが頼まれた依頼は【火山に住み着いた火竜を退治すること】なんだけど……」
両方の事情を聞き終えた少年が、まとめに入ります。
すかさず顔を輝かせた少女が口をはさみました。
「そうだったわね。退治する?」
「いやいやいやいや! お嬢、ちょっと待とうか!?」
嬉々として拳を握りしめる少女を盗賊Cは慌てて止めます。
クロも顔をひきつらせつつ、提案しました。
『領主に今回の事情を説明すればいいのではないか?』
「そうだね! 火山のことや火竜の長の事情を領主様にご報告するよ!」
少年はクロの提案に急いで頷きました。
ここで改めて火竜の長に戦いを挑まれたら堪りません。
さらにクロは火竜の長を見ながら聞きます。
『ふぅむ。そうすると、火竜の長は力の転換が終わったらどうするのだ?』
『現在進行形で転換作業を頑張ってるからネ、あとちょっとで終わるワヨ。でも今魔王城に戻るのはマズイでしょうネェ。きっと現魔王サマはカンカンよー。困ったわぁ』
あまり困ったようには聞こえませんが、火竜の長は困っていました。
クロたちもどうすればいいのか考えます。
そんな火竜の長に提案したのは──少女でした。
「じゃあほとぼりが冷めるまで私たちと一緒に来る?」
『え?』
「なにかやっちゃった時は、謝るかほとぼりが冷めるまで時間をおいた方がいいのよ」
なにやら少女が言うと説得力があります。
少女の言葉を聞き、火竜の長も考えました。謝るのは論外だとして、今戻っても面倒臭いのはわかりきっています。それなら、この少女たちと旅をするのも面白そうだ……と。
『いい案ネ! なら、ほとぼりが冷めるまでご一緒させてもらおうかしら』
「決まりね。あ、でもその大きさだと大変よね食事代とか。小さくなれる?」
『それくらい簡単よ』
言うが早いか火竜の長は小さくなります。
パッと見は羽のついたトカゲです。パタパタ飛びながらポッと炎を吐き出します。
「か」
『か?』
「可愛いわ! ツルツルひんやり!!」
『エェッ!?』
少女が両手で持ち上げました。
なんだか以前にもあったパターンです。
火竜の長が力の転換を終えるまで、少女はツルツルの鱗を撫で撫でしました。
「よし、町へ戻るわよ」
行きのときとは比べ物にならないくらい涼しい気温の中を陽気に歩きます。
少女一行は町へと戻りました。




