46.脳筋少女、火竜にこちらの事情を話す。
「火竜の長?」
少女の疑問の声に、クロは頷きます。
『うむ。コヤツはこう見えて火竜を束ねる長なのだ』
「へぇ。そうなの」
軽いです。
少女はあっさりと納得しました。「綺麗だものね」と言いながらクロを撫でています。
盗賊Cは“綺麗さって関係あるのか?”と思いながらツッコミませんでした。
『ウゥ……ン』
なんだかほのぼのと話し込んでいましたが、すぐ目の前に倒れこんでいた火竜の長が呻いたのでおしゃべりを止めます。
『大丈夫か?』
『大丈夫じゃないワヨ。一瞬意識がとんだワ。
人間にブッ飛ばされるなんて……あり得ないワァ』
『うむ。主の拳は重いからなぁ……』
クロは自分が少女と出会った時を思い出しました。
しかしすぐに頭を振って思い出を散らします。どうやら思い出したくないようです。
火竜の長がゆっくりと起き上がりました。
『ていうかアンタだれヨ?』
火竜の長が訝しげな声で尋ねます。
クロの知り合いではなかったのでしょうか?
クロも訝しげな表情になりました。
『何を言っている? 火竜の長よ、ボケたか?』
『ちょ、ヒドイわね! ワタシにアンタみたいな犬の知り合いなんていないワヨ!!』
クロは少し考えてから、何かに思い当たったのかピンと来た表情をしました。
そして少女たちから少し距離をとり元の大きさに戻りました。
『我の顔を見忘れたか?』
元の大きさに戻ったクロは、火竜の長の半分くらいの体長です。
火竜の長の瞳が大きく見開かれました。
『え、ちょ、ハァ!? アンタ、ええ? 何でこんなところにいるのヨっ!?』
見事な混乱ぶりです。
しかしクロが誰かわかったようです。
クロを見て、何か言おうとした火竜の長は少女に遮られました。
「待ちなさい。その話よりも前に、もっと大事な話があるのよ」
火竜の長が少女を見ます。
この少女が何を言うのか、火竜の長は緊張しながら言葉を待ちました。
「──暑いんだけど、どうにかならない?」
やっぱり少女も暑かったようです。
***
「ふぅ。快適ね」
火竜の長は、周囲の温度を操ることも出来るようです。少女たちのために温度を下げてくれました。
盗賊Cと少年もようやく肺を焼くような暑さから解放され、安堵の息を吐きます。
全員の様子を見た火竜の長は、口を開きました。
『もうイイかしら?』
「ありがとう。ちょうどいいわ」
『そう。良かったワ』
少女が笑顔でお礼を言います。
少女の笑顔に火竜の長もホッとしました。
『うむご苦労。それで、何で火竜の長がここにいるのだ?』
『……なんでアンタが偉そうにしてるのよ。ハ──』
『ちょっと待て。その名は棄てたのだ』
『えっ。……ハァ!? アンタそれ本気で言っているの!!?』
火竜の長がとても驚いています。どうやら名を棄てる行為は、それほど驚く事柄のようです。
クロは今までに起こったこと──魔王にケンカを売ったことから始まり、少女に出会いここに来るまでのこと──を簡単に説明しました。その流れで少女たちも自己紹介します。すべてを聞き終えた火竜の長は、軽くため息を吐きました。
『……そんなことになっていたなんてね』
『はぐれの火竜が棲み着いたのかと思っていたのだが、まさか火竜の長だとは思わなかったな。何故こんなところにいるんだ?』
『コッチにはコッチの事情があるのよ』
火竜の長にも事情があるようです。
少女一行は、今度は火竜の長の事情を聞くことにしました。




