44.脳筋少女、火竜のいる山へ向かう。
さて、少女一行は火竜のいる南の山に出発しました。
町の周囲はそこまでではありませんでしたが、南の山に近づくごとに段々と気温が上昇していくようです。
「暑いな……」
「本当に暑いわねぇ。この先に火竜がいるから暑いのかしら?」
盗賊Cはぐったりしつつ歩いていきます。反対に、少女は「暑い暑い」と言いつつも元気いっぱいに歩いています。その様子を納得いかないように盗賊Cは見つめていました。少女は汗一つかいていません。
「……おかしいね」
『おかしい、とは?』
しばらく黙って歩いていた天才剣士の少年が疑問の言葉をこぼします。
小さく呟かれた言葉を拾い、クロは首を傾げました。前を歩いていた少女たちも後ろを振り返ります。
「いや、この辺りがこんなにも暑いとは聞いたことがないんだ。この暑さは明らかに異常だ」
「とすると、やっぱり火竜がいるからこんなに暑いのか?」
「わからない。だけどその可能性は高いね」
少年の言葉に盗賊Cは顔をしかめます。
「そうすると……、この先さらに暑くなっていくかもしれないな…………」
想像するだけでもイヤなのか、盗賊Cの目から生気が抜けていきます。彼の髪の毛も元気がありません。
『頑張れ。我の背に乗っていくか?』
「そうね。それか、私が背負ってあげましょうか?」
あまりの萎れ具合にクロと少女は善意から背負うと提案してきます。
しかし、盗賊Cも流石にそれは情けないと思ったのか首をゆるく振ります。
「……すまん。提案はありがたいが、まだ自分で歩ける」
「昨日町長に火竜の詳しい居場所を聞いたんだけど、その情報通りならもうすぐ洞窟が見えてくるはずだよ」
少しだけ生気の戻った盗賊Cに少年も励ますように声をかけました。
***
「ここが火竜のいる場所につながっている洞窟なの?」
「多分そうだと思うよ。……流石に暑いね」
「本当ね」
少女たちの前には、人が三人は並んで歩ける洞窟がありました。
ここまで来ると、周囲の空気がかなり熱されていて、息をするのも苦しいくらいです。
少年が汗をぬぐいつつ少女を見ると、少女は汗一つかいていません。少年は二度見しました。
しかし、数秒凝視したあと少女なら何でもアリだと思ったのか特にツッコミは入れませんでした。
「……とりあえず、進むか……」
「そうね」
洞窟を奥へ奥へ進んで行きます。
奥へ進むごとに気温が上がります。洞窟内部は特に複雑な分岐点はありませんでした。たまに枝分かれしていても、少女は気にせず一番大きな道を選んで歩いて行きます。
「……道はこっちで合っているのか?」
あまりにも迷う素振りがない少女に盗賊Cは少し不安になります。
少女は自信満々に答えました。
「間違っていたら引き返せばいいわ」
「ちょ、怖いからぁああああああ!!」
盗賊Cは少女にツッコミを入れる元気はあるようでした。下僕の鑑です。
しかし、少女は気にした風もなく盗賊Cに言います。
「それに、火竜が通れそうな穴ってこの一番大きな道しかないと思うのよね」
「!!?」
『!!?』
「!!? た、確かに……」
なんということでしょう!
少女がまともなことを言っています。
全員が驚愕の表情で少女を見ていました。
普段どう思っているのかが、丸わかりです。
途中で何度か小休憩を取り、少女たちは奥へ奥へと進みます。気温はどんどん上がっていきます。「一旦引き返すか?」と意見が出てきたとき、どうやら洞窟の最奥までたどり着いたようです。
「覚悟はいいね?」
「もちろんよ」
道の先がひときわ大きな空間になっている場所へ着きました。
少年の言葉に全員が頷いてその空間へ入ります。
そこには、巨大な赤い竜がいました。
少女一行はついに火竜と遭遇したのです。




