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43.脳筋少女、事情を聞く。


 少女をこってりしぼったあとで、盗賊Cは宿屋の主人に気になっていたことを聞きました。


「もしかして、他の町でも宿屋をやっていませんか?」


 宿屋の主人は怪訝な顔をします。


「おぉ。息子たちが宿屋をやっているが……それが?」

「やっぱり……!」

「あら、そうなの? ……!! もしかして……、もしかして“踊る筋肉亭”と“歌う筋肉亭”!?」


 少女が驚いた顔で宿屋の主人に聞きました。むしろ驚いた少女に盗賊Cが「今気がついたのか!?」と小声で突っ込んでいます。

 少女たちが息子のやっている宿屋にも泊まっていたことを聞いた宿屋の主人は怪訝な表情から一転してご機嫌になりました。


「なんだ、息子たちの宿屋にも泊まったのか! どうだアイツらは元気にしているか?」

「ええ。とてもいい筋肉だったわ」

「違うだろ」

「あ、歌と踊りも良かったわ」

「そこじゃないから……!」


 盗賊Cは反射的に突っ込みますが、少女は明後日の方向に解釈し、盗賊Cは撃沈しました。宿屋の主人は少女の返答を嬉しそうに聞いています。


「よっしゃ! 息子たちも世話になったみたいだし、少し宿賃をまけてやらぁ」

「いいの? ありがとう! さすが、いい筋肉を持っている人は違うわね!!」


 筋肉と関係あるのかはわかりませんが、少女と宿屋の主人は意気投合しました。



***



「それで、聞きたいことがあるんだが……」


 少女たちは、宿屋の一室に落ち着きました。

 宿屋の主人に頼んでクロも一緒に入れるようにお願いしてあります。クロは少女の膝の上に乗り、撫でられていました。その様子をうらやましそうに少年が見ています。


「……聞いてるか?」

「えっ。え、なに?」


 盗賊Cは呆れた目で少年を見ます。少年は少しばつが悪そうにしました。

 まぁいいか、と気を取り直して盗賊Cは少年に聞きます。


「そもそも何で火竜を退治することになったんだ? 町に被害でも出たのかと思ったが、そんな感じはしないし」


 盗賊Cはなんだかんだで町の様子を観察していたようです。

 少年はとても驚いた顔をします。


「え、今さら!?」


 そう。今さらです。

 もっと早くに、むしろ最初に聞いておかなければならない事柄です。

 盗賊Cは少年の驚いた顔から目をそらします。そして深刻な表情になりました。


「だってな、それどころでは……無かっただろ?」


 少年はハッとします。

 今まで出会ってから起こったことが走馬灯のように脳裏をよぎります。


 少女たちとの出会い。

 少女の起こした数々の出来事。

 そして、毎回後始末に奔走する盗賊C。


 少年は何だか目頭が熱くなりました。


「……僕が悪かったよ。何で火竜を退治することになったか、だったね」

「あぁ」


 少年は気を取り直して話始めます。


「僕が君たちと出会う一週間くらい前に、領主様のところへこの町の町長から至急の連絡が入ったんだ。“町から三日ほど南にある山で火竜が何度も目撃された。棲みついたかもしれない、住民が不安になっている”……とね」

「それで何であなた一人で退治することになったの?」


 クロを存分にモフモフした少女が、少年に聞きました。


「今、あの街には火竜を退治出来そうなほどの力を持った者が他にいないんだ。ほとんどの力を持つ者が近隣で暴れている魔物退治に遠征している。僕も何度か他の魔物退治に参加したよ。……それに、火竜相手に大勢で行っても犠牲者が増えるだけだしね」

「そうだったのか……」

「だから、君たちが名乗りを上げてくれたのは正直助かった部分もある」


 少年は少しだけ疲れたように笑いました。


「あら、でもあなたが一人で行って逆に火竜にやられたらどうするつもりだったの?」

「お、お嬢……」


 少女が、とても聞きにくいだろうことをズバッと聞きました。少年は苦笑いです。


「僕が死んだら、領主様の持っている魔宝具でわかるようになってるから大丈夫だよ。それに通信用の一番ランクが低い魔宝具も借りているんだ」

「魔宝具!? ……流石領主様だな。そんな貴重な物を持っているなんて」


 盗賊Cが感心しながらうなずきます。

 魔宝具とは、魔宝玉を使い様々な奇跡を起こせる不思議道具のことです。魔宝具にはランクが存在し、ランクが高い物ほど凄い威力を秘めています。そして物凄く高価です。ほとんどの平民には一生縁がありません。

 一番ランクが低いとはいえ、少年に魔宝具を貸した領主はとても太っ腹です。


「僕は負けるつもりはない。あとは、このあと町長を訪ねて、万が一の場合の事を話し合ってくる」

「こんな時間に行って大丈夫なの?」

「問題ないよ。領主様からの書状も預かっているしね」


 少年は懐をポンと叩きます。


「そうなの。じゃあ、気をつけていってらっしゃい」

「うん。あ、僕のことは気にせずに、君たちは先にご飯を食べていていいから」

「わかった。気をつけてな」


 少年はいつの間にか寝ていたクロをひとなでしてから部屋を出ていきました。

 

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