41.脳筋少女、南の町に到着する。
順調に旅が進み、少女一行は南の町に到着しました。
火竜のいる火山に一番近いせいか、通りを歩いている人々の服装は薄着で涼しそうです。
「あら?」
少女は何かに気がついたようにパチリと一つ瞬きして、足早にある露店に近づいていきます。盗賊Cたちが追い付くころには少女の手に新鮮な果実水の入ったコップと冷やした果実盛り合わせが握られていました。
「……お嬢」
「自由だなぁ……」
盗賊Cと天才剣士の少年は、少女のあまりの素早さに遠い目をしています。
少女は果実水と果実盛り合わせ全員分買っていたようで、一行は露店の近くにある木陰で少し休憩することになりました。とても大きな木で三人と一匹が座ってのんびり寛ぐことが出来ます。
「ふぅ。この果実水美味しいわね」
少女はゴッゴッと果実水を一気飲みしました。
なんとも気持ちいい飲みっぷりです。
そんな少女を横目に盗賊Cと少年は普通に飲んでいます。クロはコップではなく平べったいお皿に果実水を入れてもらい、ペロペロと美味しそうに飲んでいます。
「そうだな。よく冷えていて美味いな」
「ふー、本当だね。あ、そういえばこのあとはどうするの?」
少年の問いかけに少女は少し考えてから答えました。
「まずは宿屋を探すわよ。今日出来ることはあまりないしね。ゆっくり休んで明日から行動しましょう」
少女はキリッとした真面目な表情で提案します。
そんな少女に盗賊Cはたずねました。
「本音は?」
「食べ歩きしたいから」
キッパリと言う少女は通常運転でした。
さて、宿屋探しです。
果実水を売っていたおばさんに宿屋街のある場所とオススメの宿屋を聞きます。
おばさんは値段やサービス、立地はどこそこがいいと何軒かのオススメ宿屋を教えてくれました。
その情報をもとに少女一行は宿屋街を目指します。もうすぐ夕方になる時間帯のせいか、旅人とおぼしき人々が宿屋にドンドン吸い込まれていきます。早く決めないと宿屋がいっぱいになってしまいそうな勢いです。
オススメされた宿屋の一つ。その宿屋を見た瞬間、少女は断言しました。
「宿屋はここにしましょう! 絶対ここがいいわ!!」
宿屋街を歩いていて、少女はオススメされたとある宿屋を見てパッと顔を明るくします。少年は少女の勢いに不思議そうな顔をしていましたが、盗賊Cとクロは嫌な予感がしました。恐る恐る宿屋の名前を確認します。
そこには────
“黄金の筋肉亭”と書かれた看板が夕陽に照らされてキラキラと輝いていました。
なんだか既視感を覚える宿屋です。
盗賊Cとクロは顔を見合わせました。
そして盗賊Cたちが一歩遅れたことにより、悲劇は起きてしまいます。
「入るわよ」
「あ! お嬢、ちょい待っ──」
少女が扉に手をかけています。盗賊Cが制止しようとしますが時すでに遅し。
ガッ!
しかし扉は開きません。少女は首を傾げます。
「あら? 開かないわ」
少女はもう一度扉を開こうとします。
ガツッ!
しかし扉は開きません。少女は首を傾げます。
「え?! ちょっと──!!」
不穏な気配を感じた少年が少女を止めようとしましたが、少女は止まりません。
ガッ!! ギシィ!!!
とうとう扉が悲鳴をあげます。少女は手応えを感じました。一つ頷くといっそう力を込めました。
「ふんっっ!」
バキィイイイイイイイ!!!!!
「開いたわ」
「開いたわ、じゃないからぁああああ!!!」
盗賊Cの叫びが宿屋街に響きました。




