40.脳筋少女、第3の街を出て南の町を目指す。
この街から火竜のいる山まで歩いて行くと、普通の人で約三週間かかります。
南の山に一番近い町までは大体二週間です。その町に着くまでの間にも町や村が何ヵ所かあります。
今回は天才剣士の少年もいますので、クロに乗るか乗らないか夕食の後に少女たちは部屋で話し合いました。
「話せばいいんじゃない?」
少女の第一声はこれでした。クロはちょっとビックリした顔をしています。
『いいのか?』
「ずっとしゃべれないんじゃ、クロが大変でしょ?」
『我は構わないが……』
クロは遠慮しようとしますが、少年と一緒にいるときにずっとしゃべれないのでは大変でしょう。クロは盗賊Cの方を向いて“どうする?”と首を傾げます。
「んー……、真面目なイイヤツっぽいし大丈夫な気がする。とりあえずタイミングをみて一回しゃべってみてくれ。一回くらいなら誤魔化すことも出来るだろうし」
『わかった』
実際に少年がどう出るかはわかりません。しかし、今日接してみて少なくとも悪いヤツではないと盗賊Cは確信をもっています。
一回くらいなら試してみても大丈夫だろうと考え、話し合いを終わりにして盗賊Cはお茶を貰いに食堂へ降りていきました。
***
翌日早朝。
街の外で待ち合わせしていたのですが、少年はまだ来ていませんでした。しかし、すぐに街の中から歩いてくるのが見えます。少年の方も少女たちを見つけて、小走りで駆け寄ってきました。
「すまない、待たせた」
『いや、構わない』
「早いからあああああ!」
突然しゃべったクロに少年はポカンとしています。盗賊Cもツッコミを入れてしまったので誤魔化せません。
固まる一同。すかさず少女は言います。
「つまりはそういうことよ」
「え、どういうこと?」
「現実を見なさい」
少年はしばらく考えたあと、何を思ったのかコクリと頷きました。
『改めて、我はクロと言うよろしく頼む』
「……よろしく。それにしても魔獣とは思わなかったよ」
現実を直視し、色々なものをのみ込んだ少年はクロと挨拶をしたあとはすっきりとした顔になりました。今はしゃがんでクロの頭を撫でさせてもらっています。
それを見て、少女はうんうん頷きます。
「予定通りね」
「お嬢……」
自信満々に頷く少女に盗賊Cは遠い目をしますが、もう慣れたものです。すぐに再起動しました。
「よし。じゃあ出発するか」
「そうね。二人とも! 行くわよ」
クロに撫でさせてもらっていた少年はパッと立ち上がりました。クロが少女の元へタタッと走ってきます。
『我の出番だな!』
「待て待て待て」
「それはもうちょっと後ね」
自分の出番に張り切って大きくなろうとしたクロを、盗賊Cが慌てて止め、少女はのんびり止めます。
天才剣士の少年に受け入れられて喜んでいるクロは忘れていますが、ここはまだ街からそんなに離れていません。こんなところで本来の大きさに戻ったら、確実にクロが討伐対象にされてしまうでしょう。
止められてクロも冷静になったのか、おとなしくなります。一人だけわかっていない顔の少年に説明しようとする盗賊Cを少女が止め、少年に声の届かない場所までグイグイと引っ張っていきました。
「お嬢? どうしたんだ?」
「説明は後でいいわ。彼を驚かせましょう。きっといいリアクションをとってくれるわ」
「お嬢、それは……」
ニヤリと笑う少女に呆れた視線を向けます。盗賊C常識人なのです。そんなことをしてはいけないと、きっぱりと言うことでしょう。キリッとした顔になった盗賊Cは言いました。
「……それは、面白いな」
二人は共犯者の笑みを浮かべました。
哀れなる少年は、不思議そうな顔で少女たちを見ています。
「さて! 今度こそ行くわよ!」
目的地まで、時間はたっぷりあります。
少女たちは元気よく出発しました。




