38.脳筋少女、火竜退治を頼まれる。
「一応理由を聞くが、なんでだ?」
盗賊Cが静かな無の表情で、優しく少女に訊ねます。
普通に考えて火竜退治とかありえません。命を捨てにいくようなものです。
しかし、少女は普通ではなかったのです!
「火竜の素材はね、とてもとても稀少で……売れるのよ」
少女は、この世の真理を解き明かす学者の如く厳かに説明します。
そして無知なるあわれな子羊に教え諭すかのような慈悲深き表情です。
「……」
盗賊Cは痛む頭と胃を押さえました。
“あぁ、これはよくないパターンだ”と。あわれなる子羊は理解しました。
この旅の決定権は、少女が持っています。
少女が行くと言えば、その場所になんとしてもいくでしょう。
「わかったわね? 火竜退治に行くわよ?」
「……わかった」
『…………』
盗賊Cとクロは、少女と共に行くという運命を受け入れました。
しかし、他の人はそうはいきません。あまりにアッサリと火竜退治に同行すると言った盗賊Cのことを天才剣士の少年も賭けの胴元も役人の男性も唖然と見ています。
「何を言ってるんだ!? 火竜退治なんて危険だよ! やめておいた方がいい」
天才剣士の少年は、至極真っ当に止めます。
少女のことも心配ではありますが、一緒に行くと言った盗賊Cは明らかに戦闘向きではありません。
だけど少年の言葉を聞いても少女は止まりません。
「私はあなたに勝ったのよ? あなたが行けて私が行けないのはおかしいわ」
「うぐっ……」
少女は的確に少年の柔らかな心をえぐりました。
少年は胸に手を当てて呻きます。
それを見た賭けの胴元は、“若い者だけに任せちゃおけない”と少女の前にズイッと進み出ます。
「まぁ、待てや嬢ちゃん。コイツの言うことももっともだ。確かに嬢ちゃんは強い。だが……まだ若いし、なにより女の子だ。止めといた方がいい」
「? おじさんの言っている意味がよくわからないわ?」
「おじ──!! ぐふぅ……」
賭けの胴元の繊細な男心にクリティカルヒットしました。
“俺はまだ若い。若いんだ”と繊細な三十代の心が傷を負いました。
「どうしたの?」
「お嬢……酷いな……」
盗賊Cは目頭を押さえます。盗賊Cの心にも響くものがあったようでした。
場の惨状をキレイに無視して、役人の男性が少女に確認を取ります。
「火竜退治には、非常に危険を伴います。よろしいのですか?」
「えぇ、かまわないわ」
少女は自信満々に頷きます。
それを見た役人の男性は、続けます。
「でしたら、剣士殿と協力して退治して下さるのなら、報酬も同じように出しましょう。いかがですか?」
「もちろん。かまわないわ」
「え!?」
やっと復活した天才剣士の少年が、またもや固まってしまいました。
しかし、そんなことを気にする人はこの場にはいませんでした。
役人の男性は、少女に向かって深々とお辞儀をします。
「では、よろしくお願い致します」
「引き受けたわ」
少女は重々しく頷きました。
こうして、少女一行は、天才剣士の少年と一緒に火竜退治に行くことになりました。




