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37.脳筋少女、火竜退治に名乗りをあげる。


「いい試合だったぞー!」

「二人とも強かったな!!」


 今の試合について、観客たちは大いに盛り上がりをみせています。

 盗賊Cとクロも少女が怪我一つなく勝利したのを見て、ほっとしました。




 天才剣士の少年は、弾き飛ばされた剣を拾うと鞘に納めます。そして少女に向き直ると、話しかけました。


「ありがとう。僕もまだまだだね。君と戦って、目が覚めたよ」


 少年は、憑き物でも落ちたかのように、さっぱりした顔をしていました。

 少女は、その表情を見て一つ頷きます。


「えぇ。わかってもらえてよかったわ。私が女の子に見えないなんて、医術師に診てもらったほうがよかったもの」

「え、ちょっ!!?」


 少女が明後日の方向に納得していることに気づいた少年は慌てます。それでは自分が馬鹿のようではないか……と言う間もなく、少女はさっさと賭けの胴元のもとへ行ってしまいました。

 賭けの胴元は身なりのいい男の人と話していましたが、少女が近づいてくるのに気がつくと話を中断し、片手をヒラリと振りました。


「おー、おめでとさん。まさか勝つとは思わなかったぞ」

「私は負けないわ」


 少女は胸を張ります。

 そして、ワクワクしながら両手を差し出します。


「賞金をもらいに来たのよ」

「あー……。それなんだがな……」


 賭けの胴元は何やら歯切れが悪いです。視線をさ迷わせ、頭をガリガリ掻きました。どうやら困りごとがあるようです。その様子を見た盗賊Cとクロ、そして天才剣士の少年が近寄っていきます。

 少女は目を細め、拳を握りしめました。


「……まさか、賞金が出せないとかじゃないわよね?」

「いやいやいやいや、ちょっと待てや嬢ちゃん!! 出さないとは言ってない!」


 賭けの胴元は慌てて言葉を発します。少女の強さは今さっき見たばかりです。何て言おうか考えていると、賭けの胴元と話していた男性がスッと一歩前に出てきました。


「説明は私が致しましょう。まず、私はこの街の役人です。そして、先程の試合を観戦させてもらったのですが、貴女が試合中にこの街の領主様の像を破壊したのが問題なのです」


 な、なんということでしょう!

 役人の男性の話によると、少女が粉砕した像は、この街の領主様の像だそうです。普通なら、領主様の像を壊すなど犯罪です。その場で罪に問われて投獄されてもおかしくありません。

 しかし、観戦していた役人の男性は、弁償するのなら今回は罪を不問にすると言っています。どうやら、不可抗力であったのは観戦していてわかったので、穏便に済ませようとしてくれたみたいです。

 盗賊Cは胸を撫で下ろしました。問答無用で捕まえないで、弁償で済ませてくれるのはかなりの温情です。

 難しい顔をした少女が問いかけます。


「それで、いくらなの?」

「百二十五万Gです」

「え゛!? 百二十五万!!?」


 盗賊Cは驚愕の叫びをあげました。賞金よりも高いです。ここで、賭けの胴元が何で困っていたのかわかりました。

 盗賊Cは頭を抱えます。

 賞金の百万Gを出したとしてもあと二十五万G足りません。そんな大金は、財布の中にもありません。必死で考えていた盗賊Cは、ハッとしました。


「あ、賭けの分配金! あれ、どうなりました!?」

「!! ニイちゃん賭けたのか! ちょっと待ってろ。今計算する」


 盗賊Cは“どうか足りますように”と、今までにないくらい神様に祈ります。


「お、ぉお!? 三十万Gだ!! ……嬢ちゃんは大穴扱いだったからなー」

「え、三十万G!? アンタどれだけ賭けたんだよ!」


 賭けの胴元が安堵の声を上げました。

 何とか足りそうですが、盗賊Cはどれだけ少女に賭けたのでしょう。天才剣士の少年もびっくりしています。

 盗賊Cは真顔で言いました。


「財布の中身を全部賭けた」

「はぁ!? 馬鹿じゃないの!!!??」


 天才剣士の少年は愕然としました。

 盗賊Cは少女に全額賭けていたようです。無謀です。負けたらどうしたんでしょう。

 盗賊Cは驚く天才剣士の少年に向かって堂々と言い放ちました。


「お嬢が負けるところが想像出来なかったんだ」

「あら、わかってるじゃない!」


 少女は嬉しそうです。

 しかし、勝ったから良かったものの盗賊Cは少女と接しているうちに随分と大胆になったものです。普通は全財産を賭けたりしません。

 コホンと役人の男性が咳払いします。


「足りたようでよかったです。では、頂いていきます」


 賭けの胴元が賞金と分配金を役人の男性に渡しました。これで財布の中身がほとんどなくなってしまいました。

 少女たちは役人の男性に渡されるお金を寂しげに見送ります。

 お金を受け取り終わった男性が、少年の方に向き直りました。


「さて、ここからが本題なのですが、私がここに来たのは剣士殿をお迎えに上がったからなのです」

「迎え?」


 天才剣士の少年ではなく、少女が聞き返します。

 役人の男性は、頷きました。


「そうなのです。火竜退治の件でお話したいことがありましたので──」



「そうよ! それだわ!!」



「……はい?」


 男性の言葉が途中で遮られてしまいます。

 どうやら少女が何かを思いついたようです。



「私たちも火竜退治に行けばいいのよ!!」



 呆気に取られる一同。

 少女だけが自信満々に笑っていました。


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