32.脳筋少女、宿屋のおやじの依頼を完了する。
つるりと光る頭。
キラリと光る白い歯。
暑苦しい笑顔。
そうです。
そこにはつるっ○ゲ……いやいや、スキンヘッドの筋肉オヤジがいました。
流石宿屋のおやじの兄弟。
見事な血縁を感じます。
***
宿屋を見つけたあと、盗賊Cは素晴らしい反射神経で、少女が開ける前に扉を開けました。
少女は少し不満そうにしておりましたが、盗賊Cは無視します。
「いらっしゃいませ」
扉が開く音に気がついたのか、おぼんを抱えた男の子が走ってきます。
睫毛がパサパサの儚げ美少年です。
「二名様ですね! お食事ですか? お泊まりですか? あ、動物は中に入れないようお願いします」
「いや、その前にお父さんはいるかな? 依頼で届け物があるんだ」
盗賊Cはしゃがみこみ、目を合わせながら会話します。
看板息子は眼をぱちぱちさせてから、少々お待ち下さいと奥へ引っ込みました。
そうして出てきたのが、筋肉の塊でした。
なんだかデジャブを感じる光景でした。
***
「おぉ! ありがとうなぁ!! ちょうど切らして困ってたんだ。ほら、これが報酬だ」
「お父さん、それ何なの?」
看板息子が宿屋のオヤジに質問します。
盗賊Cは“よくぞ聞いた!”と内心ガッツポーズしました。
どうやらまだ中身が気になっていたみたいです。
「これか? これは弟特製の調味料なんだ。コレがあるとないとじゃ味に随分差が出ちまう」
「あ、これ叔父さんの“繊細調味料”なんだ」
なるほど。
あんなに厳重に梱包されていたのは、繊細な調味料だったからだそうです。
「アイツはなぁ、小さいころ病弱で、だからなのか随分と繊細な感性をしているんだよなー」
「病、弱?」
盗賊Cは言葉の意味を理解出来ませんでした。
どうやら頭が理解することを拒んでいるみたいです。
「そうそう。コイツにそっくりだったな」
なんという……ことなのでしょう。
この儚げ美少年と宿屋のおやじがそっくりだったなんて。
この世は不思議に満ちています。
「そういえば、お嬢さんたちは今日の宿屋は決まってるのか?」
「いいえ、まだよ」
「じゃあ、ここにしろよ! サービスするぞー」
「いや、そうしたいけど、クロを入れられないのは困るんです」
「ん? んー、本来はダメなんだが、弟の依頼品を持ってきてくれたしなぁ。部屋から出さないなら入れていいぞ」
「ご配慮ありがとうございます」
「ニィちゃん、カタイな!」
***
『我は別にどこでだってよかったのだぞ?』
「そんな訳にいくか」
「そうよ。いくら暖かいからって、クロだけ外で寝かせるなんてないわ」
『……そうか』
素っ気なく返事をしつつも、クロのしっぽはパタパタしています。
少女と盗賊Cはほっこりしました。
「はい。お待ちどうさま」
しばらくしたら、看板息子が料理を運んできました。
ほかほか湯気が立つ、美味しそうな料理です。
早速食べてみます。
「おいしい!」
「美味いなぁ」
『ぬぅ。やるな』
どうやら宿屋のオヤジも料理が得意なようです。
わいわいと食事を楽しみます。
新たな国での一日目の夜は、こうして更けていきました。




