31.脳筋少女、宿屋を発見する。
さて、南西の国ですが、南に位置するだけあって、少し暑いです。
通りを歩く人々の服装も薄手で涼しそうです。
大通りに屋台が並んでいるのは、以前の国と同じですが、中身は変化がありました。
あちらの国はあっさりとした軽食やちょっとしたオヤツなどが売っていましたが、こちらの国では、スパイシーな匂いのする食べ物や果物、冷たい飲み物などが人気みたいです。
すぐにフラフラと寄っていこうとする少女をなんとかなだめ、盗賊Cは宿屋のおやじに聞いた、兄弟のやっている宿屋を探します。
「見つけたわ」
「え、どこだ?」
少女が指差した方には香ばしい匂いの焼き鳥を売っている屋台があります。
『我には焼き鳥の屋台に見えるが』
「そうよ。この国に来たら食べたいおやっさん十選」
「関係ねぇじゃないか」
盗賊Cが突っ込みますが、少女は聞き入れません。
逆に堂々と反論します。
「だって、考えてみなさいよ。あのおやっさんの十選よ? 絶対美味しいわ」
「それは……」
盗賊Cは自分の喉がゴクリとたてた音を聞きます。
誘惑に負けそうになっていた、その時──
「本日は焼き鳥残り十本で店じまいだ! 買わなきゃ損するぞー」
「買うか」
屋台の店じまいの声。
盗賊Cは誘惑に負けました。
「うっま!!」
「美味しいわね」
『我はまた一つ世界の広さを知った。美味だ』
ギリギリで三本買えました。
仲良く一人一本です。
一口、口の中に入れた瞬間から舌の上に広がる豊かなスパイシーの香りと味。
咀嚼して飲み込むのが勿体ないと思うほどの逸品でした。
一行は口をもぐもぐさせながら、宿屋探しを再開します。
この後も色々とありました。
少女がナンパされ、相手の顔面を陥没させたり。
騒ぎを聞き付け、やってきた警邏を返り討ちにしたり。
クロが子供に群がられ、撫でられたり。
盗賊Cがすべての後始末を任されたり。
そうして、やっとのことで、宿屋を発見しました。
宿屋の名前を見た少女が歓声を上げます。
「あら、素敵な名前ね!」
「…………あぁ、確かに兄弟だな」
『……』
“歌う筋肉亭”
ただでさえ暑い国なのに、余計に暑いです。
盗賊Cは遠い目になりながら、看板を眺めました。




