閑話.魔獣様の独白。
我はクロ。
以前の名は棄てた。
魔族の中にあっても力が強い、誇り高き黒狼族の出身だ。
魔王にケンカを売って負けたがな!
ことの起こりは数年前、魔王が代替わりしたことから始まる。
前魔王は穏健派でなぁ。人間との共存を目指していたのだ。
だが、当然それを嫌がる……人間など滅びればいいという過激派もいた。
我は興味なかったが。
まぁ、強いていうなら、穏健派よりの中立ってとこか?
魔族は“力こそ正義”みたいなところがあるからな。
前魔王に不服を持つものは、次第に増えていった。
その中の一人が、現魔王だ。
ある日のこと、現魔王は前魔王を不意討ちで倒したことを知った。
しかも、現四天王と一緒に。
我はそれが気に入らないんでな、現魔王にケンカを売ったのだ。
割りと好き勝手に生きている魔族だが、
魔王の代替わりには、「一対一で魔王に挑み、勝たねばならぬ」という不文律がある。
それを現魔王と現四天王は汚したのだ。
魔王だけならば、我だけでも始末出来たのだが、あと少しのところで四天王がしゃしゃり出てきた。
四方向から、不意討ちで攻撃を加えられ、不覚をとってしまったのだ。
あのときの我には、全員を相手に勝つ程の力は無く、命からがら逃げ出すしかなかった。
今思い出しても腸が煮えくり返るわ!
この屈辱は、いつか必ず晴らす!!
こうして、東の方へ我は逃げ延びたのだ。
***
しかし、そこで“主”に出会うとは、なんとも皮肉に満ちたことだ。
主は人間なのだが、本っ当に性能がおかしくてなぁ。
我は世界が広いことを知った。
逃げ延びた山で我は傷を癒していた。
魔力が豊富に満ちていた山で、いい場所を見つけたな!と思っていたのだが、ある日人間がやってきた。
なんかを採取していたようだが、我の姿を見るだけですっころんで逃げていきおったのだ。
あ、なんかこれヤバめ?人間の里が近いのか?とも思ったが、もう少しで傷も完治するし移動するにしてもここに住み着くにしても、とりあえずは傷を治してからにしようと思っていた。
傷が完治して、さてこれからどうするかと思っていたある日。
またしても人間がテリトリーに侵入してきた。
今回は男女二人だ。
『我が領域に踏み込む愚かなる人間共よ。何故この場所へ来たのだ』
少し脅してやろうと威圧しながら重々しい声を出す。
男の方は、素直に怯えてくれた。
しかし、少女の方は────
このあと、我は魔王と四天王など目じゃなかったと思い知らされる。
あれはヤバい。
かなりヤバかった。
人間の少女が拳で我をぶっ飛ばすとか。
我は結構重いと思うのだが!
本能が警鐘を鳴らし、やがて屈服した。
今まで生きていた中で、一番の戦いだった。
負けた我はこの少女に服従したのだ……。
しかし、だからといって酷い扱いを受けたわけではなかった。
主は文句無く規格外だが、男の方も実は規格外だった。
最初に威圧したときは、あんなに怯えたくせに少女との戦いが終わったあとは、我にも普通に接してきたのだ。
怖くはないのか?
そう疑問に思うも、特に無理している様子は見受けられない。
主にも我にも態度は変わらない。
度量の広い男に、素直に凄いなと思った。
こうして、この二人と一緒に行動することになったのだ。
小さな姿になると人間は喜ぶことを知った。
大抵の人間……特に女が撫でてくる。
新しい事を知り、世界は広いのだなぁと、改めて思った。
まぁ、撫でられるのは悪くないな。うむ。




