29.脳筋少女、新たな依頼を引き受ける。
クロの返答に満足した魔女ですが、そうすると次は少女の状況が気になります。
「じゃあ、このあとどうするのよ? お金あるの?」
「無いわね」
少女はきっぱりと言います。
宿屋の扉に西の村の門、この二つの修理代金で、今回稼いだお金はほぼすべて無くなっています。
魔女は心配になりました。
「もう一度依頼を出したいところなのだけど、今のところ足りない素材は無いのよね」
「あら、気を使わないでいいわよ。なんとかなるわ」
少女はあっけらかんと言います。
「……ごめんね」
「いいのに」
***
魔女の家からの帰り道、宿屋へと向かいながら、盗賊Cは少女へ問いかけます。
「どうすんだ?」
「うーん、そうねぇ。……あ」
「どうした?」
「昼食の時に考えるわ。今はお腹が空いて、頭が回らないから」
盗賊Cは“いつもじゃないか?”と思いましたが、殴られる展開しか思い浮かばなかったので、口をつぐみました。
「今日のお昼は何かしら?」とルンルンな少女に、盗賊Cは不安を覚えました。
しかし、同時に“なるようになるか”とも思います。
この短い付き合いで、すっかり少女に染まっている盗賊Cでした。
***
宿屋の食堂は沢山のお客さんで、賑わっておりました。
テーブルとテーブルの間を看板娘がくるくると動き回ります。
少女は“美しき上腕二頭筋Bセット”、盗賊Cは“弾ける大胸筋Cセット”、クロは“じっくり煮込んだ僧帽筋Aセット”を頼みました。
お腹をグーグーいわせながら待っていると──
「へい! お待ちどう!」
ドン!とテーブルに料理が乗せられます。
どうやら宿屋のおやじが持ってきてくれたみたいです。
そのまま厨房へ戻るのかと思いきや、おやじが少女に話しかけます。
「そういや、嬢ちゃん。魔女様の依頼は無事終わったんだろ?」
「えぇ、そうよ。どうかしたの?」
「あぁ……もしこの後の予定がなければ、オレの依頼を受けてくれねぇか?」
「というと?」
なんと、宿屋のおやじからの依頼です。
少女たちはきちんと話を聞く体勢になりました。
「実はな、オレの兄弟が南西の国にいるんだが、そこに届け物をして欲しいんだ」
な、な、なんということでしょう!
宿屋のおやじには、兄弟がいるようです。
果たして、筋肉の兄弟は筋肉なのでしょうか……?




