28.脳筋少女、引きこもり魔女の依頼を完了する。
翌日朝。
本日も空高く、よく晴れているようです。
宿の外の通りからは、朝の喧騒が届いてきます。
そんな中、少女と盗賊Cはテーブルを囲んで朝食を摂っています。
クロはテーブルの下にお皿を置いてもらい、ご飯を貪っております。
少女は“おやじの筋肉特盛スペシャルAセット”、盗賊Cは“おやじの愛情入りDセット”、クロは“おやじの気遣い入りBセット”をそれぞれ頼んでみましたが、どれも美味しかったようです。
満足のため息を付きながら、食後のお茶を飲んでいます。
「今日も美味しかったわね。お茶を飲み終わったら魔女のもとへ行きましょ」
「あぁ。今回も美味かったな~」
ネーミングセンスはやはり微妙でしたが、ご飯はすべて美味しかったのです。
盗賊Cはあとはネーミングセンスさえまともなら……と無い物ねだりなことを考えています。
クロは無言で皿を舐めていました。
***
そしてやってきました魔女の家。
今日も素敵に不気味な外観です。
カラスは前回より増えていました。
屋根の上にずらりと並ぶカラス……怖いです。
「……なんか、迫力が増してないか?」
「そう? こんなものじゃない?」
『我が見てもヤバい感じなのだが』
盗賊Cとクロが言うなか、少女は全然気にしておりません。
ドアには今回も張り紙があります。
『命を惜しむ者よ。この先に楽園はないと知れ』
「だからこえぇよ!!」
「薬が無いので、薬が欲しい人はちょっと待って下さいの意味ね」
「絶対オカシイ!」
ギャアギャア騒いでいたら、扉がバタンと開きました。
「やかましいわ! 命が惜しくないようね!!」
魔女です。
白い髪を振り乱して、血走った目で睨み付けてくる様子は、地獄の鬼のようです。
その瞳が少女を映したとたん、目を見開きます。
少女はいつも通り挨拶しました。
「ただいま」
「……お帰りなさい」
魔女は、無事に帰ってきた少女に、ゆるく笑いかけました。
***
「はい、これ依頼の品」
前回と同じく魔女にお茶を入れてもらい、ちょっと寛ぎつつ依頼の品を渡します。
「うん、確かに。助かったわ。少し多めに入っているから、報酬も色をつけるわね」
「あ、それなんだけど。報酬のほとんどは、西の村に渡してほしいの」
「……なんで?」
魔女は激しく嫌な予感がします。
「あそこの門、脆かったのよ」
「やっぱりね! そうだと思ったわ」
予想通りでした。
「……それで、さっきから気になってたんだけど、その犬は?」
「あぁ、この仔? クロって言うのよ」
『うむ。我はクロ。よろしく頼む』
しゃべるクロに、魔女はぽかんとします。
「しゃべったわ! 絶対普通の犬じゃないでしょ!?」
「うん。犬じゃないわ、狼なの」
「違う! そこじゃない!」
盗賊Cはうっかり突っ込んでしまいました。
魔女も同意します。
「そう。そこじゃないわ! ……えぇと、そうね。もしかして……もしかしてだけど、この仔、向こうで出た魔獣……とか?」
「えぇ、そうよ」
少女は軽く目を見張りました。
その表情は、「よくわかったわね?」と言っています。
魔女は脱力しました。
この少女はどこまでいっても規格外。自分の思い通りになることのほうが少ないです。
「……そう。この様子じゃ仲間になった……ってことでいいの?」
『うむ。我は主に従うことにしたのだ』
魔女はクロの瞳を覗き込みます。クロも真っ直ぐ魔女の瞳を見返します。
濁りのない瞳に、魔女は安堵の息を吐きました。




