26.脳筋少女、第2の村を出発する。
「お前さんたち、無事だったんか! 遅いから心配したぞ!」
山を降り、村へたどり着くと、すぐに村長がとんできます。
やはり帰りの遅い少女たちを心配していたようです。
「心配かけちゃったようね。この通り無事よ」
「そうか。そうか。良かったわい」
安堵の息を吐いた村長が、少女の足下にいる黒い仔犬に目を止めます。
「この仔犬は……? 行きはおらんかったよな? ……まさか」
勘のいい村長が何か気づきそうになります。
しかし──
「山で拾ったの」
「いや、しかしこの色は──」
「山で拾ったの」
「え? だが──」
「山で拾ったの」
少女はごり押しします。
盗賊Cはひやひやしました。
どう考えても村長にバレてます。
盗賊Cはさらにひやひやしました。
このまま問答を続けさせると、そのうち少女が村長を殴って早期解決させそうで。
高齢な村長を殴ったりなんかすれば、ポックリ逝ってしまいそうです。
盗賊Cは決断し、クロに小声で耳打ちします。
「山に犬など──」
「村長。この仔をご覧ください」
盗賊Cは少女が拳を握ったのを見て、慌てて間に入りました。
村長は、訝しげにしながらも、仔犬を見ます。
うるうるとした黒い瞳で精一杯見上げる仔犬。
ピン!とたっていた耳が、今はヘニャリとなっています。
シッポは、パタ……パタ……と不安と期待に小さく揺れています。
『キュウン』
だめ押しにか細い声で鳴いた仔犬に、村長は自分の疑問を宇宙の彼方へ放り投げました。
「そう……そうだのう。こんな可愛い仔犬が魔獣だなんて、考え過ぎたわい。
ワシも耄碌したわ! 魔獣にしても、幸い死人はなく怪我した村人も逃げるときに足を捻っただけであるしの。──あぁ、いや。この仔には関係のないことだがの」
村長は仔犬の可愛さに、態度を軟化させました。
盗賊Cは胸を撫で下ろします。
これで、村長も自分たちも助かりました。
***
とりあえず、今日はまた村長のお宅に泊めていただきます。
クロは村長の奥さんにも快く受け入れられました。
頭を撫でられて、シッポをパタパタさせている様はどう見ても犬です。
村人の……特に女性が、代わる代わる村長宅にやってきて、クロを撫でます。
触られるのが嫌ではないのか?と思いますが、“可愛い”“毛がサラサラ”“スゴく美犬ね”などの言葉に満更でもなさそうです。
盗賊Cは夕食が出来るまでの雑談で、魔獣の問題は片付いたこと、また薬の素材を採取することが出来るということを伝えます。
「感謝する。お主たちが来てくれたお陰じゃ」
村長は少女たちに深く感謝します。
これで、また白薬樹の魔女様に素材を届けることが出来ると。
「まぁ、私たちもあの子に依頼されたから来たんだけどね」
「そういえば、お主らは白薬樹の魔女様とはどういう関係なんじゃ?」
「あぁ、友達よ」
「友達!?」
村長はびっくりしています。
どうやら魔女の人見知りと引きこもり具合を知っているようです。
少女が魔女の友達と知って、瞳を優しく細めます。
「なるほどのう。白薬樹の魔女様にお主のような友達がおるとは。よし! 今日の夕食は豪勢にするかの」
気分がノっていた村長は、忘れていました。
少女がどれだけ食べるのかを────
***
翌日早朝。
今日も天気は晴れました。
少女は、朝の空気に、伸びをします。
「んー! 今日も良い天気ね! 絶好の旅日よりだわ」
「……そうだな」
盗賊Cはなんだかグッタリしています。
見送りにきた村長夫妻も若干グッタリしています。
昨日の夕食は、どうやら少女が相当凄かったようです。
クロだけはシッポをぶんぶん振り回して元気いっぱいです。
「それでは、お世話になりました」
「ご飯とっても美味しかったわ! ありがとうね」
『クゥンクゥン!』
一行は、それぞれお別れの挨拶をします。
「お主らも道中気をつけてな」
「怪我などしないようにね」
こうして、魔獣騒動も無事に終わり、あとは薬の素材を届けるだけです。
一行は元気よく、村をあとにしました。




