16.脳筋少女、ナンパ男を撃退する。
少女の普段使わない頭はフル回転しています。
この馴れ馴れしく無礼な男をどうしてくれようかと。
パッと思い浮かぶのは、またしても3つです。
▼「離して」と言う。
▼周りに助けを求める。
▼まず、お団子の串を刺して手をどける。
少女は迷わず3番目を選び、行動に出ました。
馴れ馴れしい男の手にはお団子の串が刺さります。
男は一瞬呆けた後、自分の手の甲に刺さっている串を認識します。
「え、あ……ぎゃああ!」
驚いた男が手を離した隙に魔の手から抜け出した少女は、拳を大きく振りかぶります。
「勝手に触らないでくれる? それ、セクハラだから!」
バキィィィィィ!!!
相手がイケメンであることなど、なんの関係もありません。
不快な思いもしたので、容赦も致しません。
少女の会心の一撃が顔面にめり込みました。
「ブヒー!!」
男は鼻血を吹き出しながら、道の端までぶっ飛びます。
道のあちこちから悲鳴が上がりました。
いきなり鼻血を出した男が飛んできたら、それはビックリするでしょう。
「……また、つまらないモノを殴ってしまったわ」
ぼそりと呟いた少女は、パッパッと手の埃を払い、盗賊Cのもとへと戻ります。
「ん? お帰り。団子は? それと、向こうが騒がしくないか?」
「お団子は食べてきたわ。あぁ……向こうで鼻血を出した男が道端に寝てたのよ」
「なにそれキモ! 何でそんな事態に……」
「どうでもいいわ。さ、今度こそ行くわよ」
少女は嫌そうに喋ります。盗賊Cは別に詳細が知りたい訳でもなかったので「そうか」と言っただけで終わりました。
魔女の家まではあともう少しです。
***
ざわざわと騒ぐ野次馬の中心で、鼻血を流した男が起き上がります。
咄嗟には状況が把握出来なくて、自分に起こったことを反芻し、少女に殴られたことを思いだしました。
「あぁ、おれはあの少女に……。
……なんだ?この胸の高鳴りは……。
こんな気持ちは初めてだ。あの少女の顔が頭から離れない。
ハッ、もしやこれは……恋!?」
周囲にいる人達は、この独り言をきいてドン引きです。
そして内心“それは恋じゃなくて、殴られた恐怖なのでは?”と思いますが、誰も口にはしませんでした。
どうやら少女は禁断の扉を壊してしまったようです。




