13.脳筋少女、美味しい夕食に舌鼓を打つ。
宿屋の中は1階が食堂、2階が宿みたいです。
奥にあるカウンターから女の子が出てきました。
亜麻色の髪にパッチリとした瞳のなかなか可愛らしい子です。
「あ、お父さん、お母さん。なかなか戻ってこないから、心配したよ」
「あぁ、悪かったね。いつもの子だったよ」
「今回も清々しいくらい派手にぶっ壊れてたぞ! 悪いが後で修理を頼んでおいてくれ」
「わかったわ。お姉ちゃん久しぶりね!」
笑顔で駆けよってくるのはこの宿屋の看板娘です。
筋肉の遺伝子が入っているせいか、少女にとても懐いていて、“お姉ちゃん”と呼んで慕っています。
「あれ? こっちのお兄ちゃんは?」
女の子はくりっとした瞳で盗賊Cを見上げます。
「あぁ、下僕よ」
「下僕!?」
女の子はびっくりしましたが、何かに気がついたのか、段々と目を輝かせます。
「つまり、恋人ね!?」
「なんでそうなった」
盗賊Cがツッコミます。
下僕=恋人。その図式がどこから来たのか盗賊Cは理解出来ませんでした。
類は友を呼ぶのか筋肉の遺伝子なのか、はたまた脳筋なのか。
全部あまり変わらない表現のような気がしますが、随分と残念な女の子のようです。
「なんだ、違うのかぁ。残念」
何が残念か全くわかりませんでしたが、今度は盗賊Cもツッコミませんでした。
この宿屋の食堂は、泊まり客以外も利用出来ます。
夕食時などは、仕事終わりの人が料理を食べにきます。
今も仕事が終わった人達で、食堂はごったがえしています。
あちこちで酒や料理を頼む声が聞こえ、そんな混雑した中を看板娘はクルクル働いています。
「かー、うめぇ。ここの料理はいつも美味いんだよなぁ」
「だな。これで作ってるのがあのおやじじゃなければなぁ」
「言えてる。どうせなら看板娘ちゃんの手料理が食べたいなぁ」
なんということでしょう!
料理を作っているのはあの宿屋のおやじだそうです。
あの筋肉からは想像出来ません。
酒をグビグビ飲みながら、男はさらに続けます。
「俺はむしろ、あの看板娘ちゃんを──」
「お、おい」
男は酒に酔って頭のネジがゆるんだのか、禁断の言葉を口から滑らせてしまいます。
連れの男が、慌てて止めようとしますが時すでに遅し。
ガッシャーン!!
「お゛ぉぉぉい゛、いま、なんつった? オレの可愛い娘を、え?お前が、え?なんだって? もう1回言ってみろやコラァァァアア!!! てめぇを料理してやんぞ!!!!!」
地獄耳で聞き付けた大魔人が、厨房から飛び出してきます。
ガシャーン!
皿が飛び
テーブルが飛び
おやじが飛びます。
「うわ、どこのバカが宿屋のおやじを怒らせたんだ!?」
「潰れろ!!!」
メシャァァ!!!!!!
「ぎゃあぁあ゛あ゛あ゛!!!!!」
「とりあえず、料理を避難させろ!」
ドカーン!
「カム着火インフェルノォォォオウ!!!!!!」
バキィ!!
「お許しおぉぉぉぉ!!」
こうして、夜はふけていきました……。
食堂で地獄絵図が広がっている一方その頃
少女と盗賊Cは部屋で食事をしています。
「お、この料理美味いなぁ! 今まで食った中で1番美味いかも」
「でしょ? おやっさんが丹精込めて作ってるのよ」
「ぐふ……マジか!」
盗賊Cはゴホゴホ噎せつつも料理をマジマジと見ます。
美しい盛り付けに優しい味付け、すべてに妥協などなく、とても繊細に仕上がっています。
「こんな料理を、あのおっさんが……。てっきり娘ちゃんが作ってるのかと」
「あ、それ言わないほうがいいわよ。おやっさんは娘さんのことになると、些細な言葉でもキレるわよ?」
少女の言葉を聞き、宿屋に着いた時の出来事を思い出しました。
「なるほど」
盗賊Cは世の真理を1つ学びました。
おやじが飛んだ。
「カム着火インフェルノォォォオウ」
ギャル語ってすごいな。




