12.脳筋少女、宿屋のおかみに怒られる。
「ああぁぁあ!! アンタまた扉を壊したのかい!」
凄い剣幕で、宿の中から40代くらいの恰幅のいい女性が出てきます。
どうやらこの宿屋のおかみさんみたいです。
「アンタ、何回宿の扉を壊せばすむんだい! アンタが毎回押し扉を壊すから引き扉に替えたのに!」
「それのせいね」
「何で今回だけ押したんだい!」
「私も学習するのよ」
「全然学習出来てないじゃないか!!」
おかみさんの雷が落ちます。
どこかで覚えのあるやり取りです。
「今回もここに泊まらせてもらうわ」
「わかったよ。今回も宿代に修理代も上乗せだからね!」
「えぇ、お願いね」
かなりスムーズな会話です。
まるでいつもこのようなやり取りをしているかのようです。
「お! 凄い音がしたからもしかしてと思ったら、やっぱり嬢ちゃんか!!」
宿から男が出てきます。
弾ける胸筋。うなる上腕二頭筋。
そこには筋肉がいます。
「おやっさん!」
「おぅおぅ、今回も派手にやったな!」
白い歯をキラリと光らせ、ニカリと笑うのはこの宿の主人です。
ガシッ!
腕と腕をぶつけ合い、挨拶をします。
なんとも暑苦しい挨拶です。
「そうだ、おやっさん。今回は泊まり2人ね!」
「2人?」
少女は盗賊Cを指します。宿屋のおやじは盗賊Cを見るなりグワリと目を剥きます!
「あ゛ぁ!? この野郎は嬢ちゃんのイイ人かぁ!!?」
「いい人? まぁ、そうね。いい人ね」
少女は“イイ人”を“良い人”と変換したようです。
返事を聞いた宿屋のおやじは筋肉を盛り上がらせ、憤怒の形相になります。
少女のことを第2の娘と思っている宿屋のおやじは、大事な娘の“好い人”と聞き、鬼神のごとき眼光で盗賊Cを睨みます。
トラウマ待ったなしの光景です。
「ひぃぃぃ! ちがっ、違います!!!」
ヤバい、コロされる!!
と、パニックになった盗賊Cは慌てて自分はただの荷物持ちなのだと説明します。
それを聞いて宿屋のおやじはただの筋肉に戻ります。
「なんだよ、ニィちゃん。びっくりさせるなよ!」
宿屋のおやじはニカリと笑います。
びっくりしたのはこちらです。
盗賊Cは愛想笑いを浮かべつつ、冷や汗を拭いました。




