閑話.盗賊Cの独白。
読まなくても問題はありません。
俺は盗賊C。
いや、盗賊だったのは元、だな。
しかも初犯で失敗。
俺が生まれたのは、西方のとある国で、数ある国の中でも魔王領に1番近かった。
家族は両親、兄、俺の4人家族だ。
たまに魔物の襲撃はあるが、そこそこ平和に暮らせていた。
だが、数年前、いきなりすごい数の魔物が住んでいる街を襲ったんだ。
必死で抵抗した。
だけど、魔物は多すぎた。
騎士団も各地に派遣されたみたいなんだが、到底魔物共を殲滅する力はなかった。
最初に両親が俺達を逃がす盾になった。
俺と兄貴は必死になって走った。
もう少しで街を抜けれる、というときに魔物に出会ってしまったんだ。
震える俺に兄貴は「あいつは俺が止めるから。お前だけでも生きろ」と言った。
……兄貴だって震えてたのに!
兄貴は俺の頭をなでて「行け!」と魔物に向かっていった。
俺は我武者羅に走った。
そこから先はあんまり覚えていない。
気がついた時には次の街で、避難民たちと一緒にいた。
結構大きな街だったのに、逃げられたのはほんの一握りだったみたいだ。
ここで俺はお頭とアニキに出会う。
お頭は魔物共が襲って来たとき、丁度街の外に用事があって出ていたらしい。
街にいるはずの家族のもとへ戻ったらしいんだが、家は破壊されていたそうだ。
家族の生死は不明。
この避難所に来ていないだけかもしれないが……。
お頭は生きて再会出来ることを願っている。
アニキは俺と同じで街の中にいた。
アニキと両親と弟妹、全員で逃げていたが、途中で魔物に遭遇。
とても大きな魔物で、前足のひとふりで周囲の建物を崩壊させたらしい。
周りには、アニキの家族の他にも逃げ惑う人がいっぱいいたようだ。
アニキは奇跡的に瓦礫の隙間にいた。
だけど、アニキの近くにいた家族は……。
その後、暴れていた魔物は騎士団が討ち、アニキは避難所に保護された。
こうして避難所で出会った俺達は、気がつけば一緒に行動していた。
互いの欠けたものを埋めあうように……。
最初は配給で生活していたが、この街にも沢山物資があるわけではない。
避難民は、数グループに分けられ、各地に送られた。
俺達は流れに流れた。
国内を転々として、日雇いとかでなんとか働いた。
だけど、余所者を雇うのが嫌なのか、日雇いの仕事もあまりなかった。
鬱憤の捌け口に殴られたり、面白半分に石投げられたり、陰口言われたり。
お頭とアニキの悪口を言うヤツがいて、つい我慢出来ずに殴ってしまった。
そこそこ有力者だったみたいで俺達は慌てて国を飛び出した。
さらに数ヵ国を転々と移動する。
他国の町もあまり状況は変わらなかった。
むしろ、他国人ということで、さらに待遇は悪かった。
ほんの僅かな給料で、過酷な労働。なんとか生きて来たが、それも限界に近かった。
普通に生活出来ている奴らが羨ましかった。
家族そろって笑いあう姿が羨ましかった。
自分たちの居場所があることが羨ましかった。
俺達は、どんどん追い詰められていった……。
普通に暮らせている住人、生きるのにカツカツな俺達。
なぁ、これだけ持っているんだから
少し、俺達に分けてくれないか?
ついに、俺達は道を踏み外す。
少しでいいから。
全部じゃなくていい。
少し奪うだけでいい。
生きたいんだ。
生きたいんだ!
道を踏み外したその日、
そこで俺は最高に変な女に出会った。
***
金色のふわふわの髪に空色の瞳の顔だけは可愛らしい女だった。
商人の悲鳴を聞いてやって来た女は
やってくるなり全員を殴り、倒した。
あの細い腕から、お頭が吹っ飛ぶ威力のパンチとか。
どんだけ。
意味わからん。
なんだあの女。
オイ待て殴るな。
手が早すぎだろ。
つか悲鳴を聞いて駆けつけるとか、
どこのヒーローだよ。
普通他人の悲鳴を聞いたら逃げんだろ。
少なくとも俺は関わりたくない。
超逃げる。
しかしコイツはブッ飛んでいる。
盗賊と商人の区別がつかなくて全員殴るとか初めて聞いたよ。
つかいねぇよ。
頭大丈夫か?
しかもさらにブッ飛んでるのは、
俺らの事情を聞いて、しかも襲った商人に雇わないか聞くんだぜ?
ねぇよ。
普通に考えてねぇよ。
雇うわけねぇだろ。
て、オイオイ商人さんよ、
何悩んでるんだよ?
え、雇ってもいい?
いいわけねぇだろ、どんだけ良い人なのよ。
しかも2人も?
ない、ないわ。
こんな
良い人を
襲ってしまったなんて。
ホント、無いわ。
土下座で謝った。
許してくれた商人さんマジ寛大。
んで結局お頭とアニキが商人さんと一緒に行商することになった。
俺は、お嬢の下僕になることになった。
どうしてこうなった!
しかし、差し出された手は温かかったんだ。
読んで頂きありがとうございました。
そろそろ、名前をつけたほうがいいのでしょうか……




