女性に年齢の事は禁句
「……そろそろ戻っても良いのだわ?」
エルサが広場に集まったエルフ達の様子に若干引きながら聞いて来た。
「エヴァルトさん、そろそろエルサが小さくなっても良いですか?」
「……そうですね。集まった皆はもう疑う事は無いでしょう。それに、この大きさならここに居ないエルフも離れた場所から十分に見えたでしょうから。もう大丈夫だと思います」
「わかりました。エルサ、もう戻って良いぞ」
「……ようやくなのだわ」
大きい姿のまま、エルサが溜め息を吐いた後、再び体が光始めて段々と小さくなる。
いつもの小型犬くらいの大きさになると、翼をはためかせて飛んだまま俺の頭へコネクト。
「やっぱりここが一番落ち着くのだわー。目立つのはあまり好きじゃないのだわ」
俺の頭にくっ付いて落ち着くのは良いけど、人間の頭に犬のような見た目のエルサがくっ付いてるのはかなり目立ってるようだけど……それは良いのかな?
エルサが頭にいるため、脳内で首を傾げてるとエヴァルトさんから声がかかった。
「リクさん、エルサ様、わざわざありがとうございます。これで、集落のエルフ達は今回の話を信じられたはずです」
「あの姿を見たら確かに信じざるを得ませんよね」
「そうですな……。それではリクさん、こちらへお願いできますかな?」
「? 何処へ行くんですか?」
「リク達が休めるところよ。それにこの集落の状況も説明したいし。エヴァルトと私、それとアルネが案内するわ」
「わかった。モニカさんもユノもソフィーさんもそれでいい?」
「そろそろ休みたいから丁度良いわ」
「リクについて行くの!」
「私は構わない。この集落の状況を知るのは大事な事だしな」
皆の許可も取り、俺達は先を歩き出したフィリーナの案内について行った。
広場のエルフ達は俺達が去る前から拝むような事をしてる人や、何故か感謝をしてる人等、ドラゴンを見られた事に皆感動してる様子だった。
歓迎されてるようで良かった。
フィリーナの案内で俺達は集落の中を歩く。
歩く途中に見た集落の建物は、周りを囲んでる柵のように、所々壊れていたり崩れてたりしてる。
多分、これも魔物の襲撃で壊されたんだろう。
怪我人が多かった事から、集落の中にまで魔物が入り込んで戦闘になっていたんだと思う。
広場から集落の入り口の方へしばらく歩いて、途中で横の道に入ったり、さらに道を曲がって歩いたりと、結構複雑な道筋だった。
建物自体が割と適当に建てられていて、それが道を複雑にしてるんだと思う。
しばらく歩いてると、先を歩くフィリーナが話しかけて来た。
「ごめんね、複雑な道を歩かせてしまって」
「いえ、それは良いんですが、何故ここまで複雑に?」
「私達エルフは本来森で生きる種族なの。だけど、数も増えて森の中だけでは暮らせなくなって来たのが私が産まれる前の事ね」
「フィリーナが産まれる前……」
「リク、はっきりとフィリーナの年齢は聞かない方が良いが……大体300年前くらいの事だ。フィリーナはその頃に産まれた」
フィリーナの年齢を邪推するつもりは無かったけど、どれくらい前の事なのか考えていたら、横からアルネが教えてくれた。
300年……という事は……?
「私はその後に産まれたのよ! アルネ、変な事をリクに吹き込まないで!」
「おっと、怒られてしまったな」
アルネは笑ってるが、フィリーナはアルネを睨んでる。
女性の年齢はデリケートな問題という事はわかる。
さっき、エルサやユノで実感したからね。
とは言え、フィリーナの年齢はつまり300歳近いという事か。
あまり考えていてはいけないと思いつつも考えてしまう。
エルフは長生きという事は良く聞く話だ。
地球での物語に登場するエルフでもそうだった。
フィリーナを見てみると、整った顔にスラっとした体型。
……見ただけだと地球の人間で言う、大学生くらいのお姉さんにしか見えない。
……これで実は300歳近く……おっと、これ以上考えるのは辞めよう、フィリーナが睨んでる。
「まったくアルネは……ろくな事を言わないんだから。……まぁそれでね、森から溢れたエルフは、森に続いてるこの場所に住み着き始めたの」
「この集落の成り立ちだな」
「あの頃は森で住みたがるエルフと、増えすぎたから追い出したいエルフとで諍いが絶えなかったな……」
「エヴァルトさんはその頃を知ってるんですか?」
「もちろんです。私はあの頃……ちょうど今のフィリーナくらいの歳でしたからな」
今のフィリーナの歳で、さらにそこから約300年……600年近く生きてるのかぁ。
すごいねエルフ。
「エルフは森で木に住んで生活をしていたから、地面に建物を作る知識があまりなかったの。それで試行錯誤しながら建物を建てては崩しを繰り返して、ようやく集落として住めるようになった頃にはこんな風に道が複雑になってたの」
「そういう事だったんですね」
建物を建てて、建て直してを繰り返して、家の間を通る道を作る事なんて考えずに建ててたから、最終的にこんな複雑な道が出来たんだ。
歩いてる途中にも、家の間に小さな小道があったり、とある小道をチラッと覗いてみたら、すぐに行き止まりになってたりしてた。
これは、フィリーナ達の案内が無かったら絶対迷ってるよね。
「集落として住めるようになるまで苦労しました。そこからエルフの一部が森から出てこちら側に住み始めた事で、森の方にも余裕が出来て、ようやくエルフ同士での諍いが無くなったんです」
「そうして、この集落は半分が森の中、もう半分が森の外で一つの集落になったってわけだ」
「そうね。集落としてまとまった頃に私が産まれたのよ」
「……もう少し前だったような……なぁ、アルネ……」
「……エヴァルト……それ以上はまずい」
「何か?」
エヴァルトさんとアルネが小声で話してるのを聞きとがめるフィリーナ。
見た目は綺麗なお姉さんなのに、そんなに年齢って気になる物なのかなぁ?
男にはわかんない事かもしれないね。
モニカさんとソフィーさんは我関せずで黙って歩いてる。
ユノはニコニコしながら「そんな事もあったの、懐かしいの」なんて言ってるけど、神様って事を話してないんだから、そういう事を言っちゃ駄目だぞ。
それからも、複雑な道を歩いて行った。
広場を出てから大体30分くらいかな? 色々曲がったりと複雑だったから、どれくらいの距離移動したかはもうわからない。
「……ふぅ、相変わらず複雑ね……っと。リク、モニカ、ソフィー、ユノちゃん、着いたわよ」
「ここが……」
案内されて辿り着いた場所は木の建物に囲まれてる場所。
それ自体は今まで通って来た集落の風景と何ら変わりはないんだけど、一つだけ今まで見た建物とは違う建物があった。
「私達エルフが、人間と関わりを持ち始めて学んだ建築技術を結集して造った建物よ」
「へぇー」
その建物は、他と違って石で造られていた。
レンガではないけど、十分に頑強そうな石が積み上げられて造られていて、森とエルフというイメージからはこんな建物を造る事はあまり想像してなかった。
大きさも、木で造られてる家よりも大きく、20人くらいは暮らせそうだ。
街にある宿やよりも大きいかもしれない。
「さ、入って。中はしっかり寝泊まりできるようにしてあるから」
フィリーナに促され、俺達は入り口のドアを開けて中に入った。
案内された道のりは迷いの集落と言える複雑さだったのかもしれません。
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