姉とエフライムの初対面
ヒルダさんが入り口へ移動する間に、姉さんは自分の顔を軽く手で揉んで、表情と気持ちを変え、女王様モードになる準備。
アルネとフィリーナは、貴族の孫と聞いて、居住まいを正した。
エフライムとレナが相手だから、そこまで構える必要はないと思うんだけどなぁ……姉さん以外。
姉さんは女王様だから、仕方ないとは思うけど……というか、俺の部屋にいるままでいいのかな? まぁ、いいか。
「どうぞ」
「リク、来たぞ」
「リク様ー!」
「エフライム、無事に城に入れたみたいだね。おっと、あはは……レナ、もう少しおとなしくした方が、いいんじゃないかな?」
ヒルダさんが入り口を開けると、エフライムとレナが部屋に入って来る。
俺は座っていたソファーから立ち上がり、入り口に向かっていたから、すぐエフライムが俺に気付いて言葉を交わす。
貴族の孫であるエフライムが、入場を拒否される事はないだろうけど、少し安心。
その後ろから、レナが飛び出してきて、俺の所へ。
元気なのはいいけど、ここには俺以外もいるからね、レナ。
「ん、そちらは?」
「あぁ、えっと……」
「クレメン・シュタウヴィンヴァー子爵の孫、エフライム・シュタウヴィンヴァーと、レナーテ・シュタウヴィンヴァーだな。子爵から報せは受け取っている。初めて会うか……私が、マルグレーテ・メアリー・アテトリアだ」
俺に抱き着いたレナを見て、恨めしそうな視線を向けてたエフライムが、後ろにいる姉さんに気付く。
部屋にヒルダさんのようなメイドさん以外に、他の人がいるとは考えてなかったんだろう。
どう紹介したものかと悩んでいると、姉さんの方が立ち上がり、女王様モードでエフライムへ自己紹介をした。
俺の後ろを見て首を傾げていたエフライムだが、姉さんの言葉を理解するにつれて、段々と表情が変わって行く。
最後には、顔面蒼白になり、汗をだらだらと流している……ちょっと面白いと思うのは、エフライムがかわいそうか。
この分だと、アルネとフィリーナは視界に入ってても、そちらに意識を向ける余裕はなさそうだね。
「し、し、し……失礼致しました! 女王陛下がおられるとは思わず、挨拶が遅れてしまいました! 非礼の程、お詫び申し上げます……」
姉さんが女王陛下だと理解したエフライムは、ガバっと音がする程の素早さで、立膝をついて胸に手を当て、頭を垂れる最敬礼をした。
「よい、我がここにいるとは知らなかったのだろう。それに、りっく……リクとは親しいようだしな。慣れぬ王都に城。親しい者と会って緩むのも、仕方のない事だ。気にせずともよい、顔を上げよ」
「はっ、陛下の広い御心、感謝致します」
「うむ」
「エフライム・シュタウヴィンヴァーと申します。重ねて、失礼をお詫び致します。……レナーテ」
「はい、お兄様。陛下、失礼をお詫び申し上げます。私が、レナーテ・シュタウヴィンヴァーと申します。兄、エフライム・シュタウヴィンヴァーと共に、祖父クレメン・シュタウヴィンヴァーの名代として、参りました」
女王様モードの姉さんが、驚いて謝るエフライムを許すように声をかける。
その中で、俺の名前をりっくんと、いつものように呼びそうになってたけど、なんとか持ち直した。
さっきまで機嫌が悪かったのもあるし、色々油断してて、意識の切り替えが完璧じゃなかったんだろうな。
姉さんも、俺と一緒で間違えないよう練習が必要かな?
顔を上げたエフライムは、改めて自分の名前を名乗り、俺に抱き着いたまま姉さんに驚いていたレナを呼び寄せ、名乗らせる。
エフライムの隣に移動したレナは、スカートの裾を軽く持ち上げ、左足を斜め後ろ内側に引き、右足の膝を曲げて、背筋を伸ばしたまま挨拶をする。
エフライムはまだしも、レナはシュタウヴィンヴァーと何回も言ったのに、一度も噛まなかった……すごい。
緊張した状態で、礼をしながらの挨拶とか……俺だと噛みまくる姿しか想像できない。
「ふむ……そなた達は、リクとは随分親しいようだが?」
「はっ、リクは私達を助け、子爵家をバルテルの配下から解放して下さいました。また、年も近い事から、同年代の友人として接させて頂いております」
「リク様は、私達を救って下さった素晴らしい方です。憧れています!」
「そうか……ヒルダ?」
「……陛下の御心のままに」
姉さんが質問を投げかけ、エフライムがそれに答える。
レナは……子供の無邪気さで俺を賛辞してるけど、さっき名乗った時の、貴族令嬢としての凛々しさはもうなくなったね。
まぁ、年相応と考えればその通りだし、レナもまだまだこれからって事だろう。
それはともかく、姉さんの目の前でこんなに褒められるってのは、照れくさいなぁ……元とはいえ、家族の前でいる時特有の照れくささってあるよね。
エフライムが俺の事をちゃんと友人として見てくれてたというのは、嬉しいけどね。
俺が照れてるのがわかるのか、姉さんの表情がちょっと怪しくなって来た。
頬がピクピクしてるけど……完全に油断してたところから、女王様モードを維持するのは難しいのかな?
エフライムとレナがの返答を聞いて、ヒルダさんに声をかける姉さん。
ヒルダさんは、仕方ない……とでも言いたそうに首を左右に振った後、姉さんに許可を出した。
ちなみにこの様子は、ヒルダさんがエフライム達の後ろにいるため、見えていない。
「よし、ヒルダの許しが出たわ! はぁ~、いきなり意識を切り替えるのは疲れるわねぇ……」
「は……え?」
ヒルダさんが許可をしたため、一瞬で相好を崩した姉さんは、大きくため息を吐きながら、ソファーに座ってカップに注がれていたお茶を飲む。
女王様モードだった時の、覇気とも言える雰囲気は完全になくなった。
いきなり姉さんの様子が変わったから、戸惑っているエフライム。
レナに至っては、口を開けてポカンとしている……そりゃ、いきなりこうなったら驚くよね。
「陛下、いきなりそれはないんじゃないですか?」
「いいのよ。りっく……リクの友人だからね。それに、子爵家の者だから、モニカの両親とは違うし。あ、あと、呼び方はこのままね」
「まぁ、うん、わか……りました。エフライム、レナ。驚いただろうけど、これが陛下の素なんだ。公の場でなければあまり畏まる必要もないと思うよ」
「え、いや……しかし……」
瞬時に女王様モードを解除した事に、注意するように言うが、姉さんはどこ吹く風だ。
呼び方は、陛下、リクで行くようなのは、元姉弟という説明を今はする気がないからだろう。
まぁ、練習にはちょうどいいから、それはいいんだけど……ここに来るまで姉さんと会うのに、構えて緊張して、思わぬ状況で遭遇したエフライムがかわいそうになって来た。
俺が安心させるように声をかけても、立膝をついたままで戸惑って、どうしたらいいかわからない様子だし。
「そうよそうよ、リクの言う通り、あまり畏まる必要はないわ。公の場では別だけどね」
「いきなりそんな事言われても、戸惑うのが普通だと思う……思いますよ?」
「そうかしら?」
「……リクは、随分と陛下と仲が良いのだな?」
「ん-まぁね……」
姉さんと元姉弟……というのは、詳しく話そうとすると、異世界がどうの……という事を話さないといけないから、今は隠しておく事にしておくけど……姉さんとの関係をどう言ったらいいのか……。
リクと姉の関係は複雑なのです。
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