再度覚悟の確認
「あー、成る程ね。帝国、帝国ねぇ。あそこは本当、どうしようもないわね。昔は、そうでもなかったのだけど、ここ数年は随分様変わりしたし、言われてみれば納得だわ」
ララさんは商取引からの観点だけど、そちらでも最近の帝国は以前とは全く変わっていたようだ。
まぁララさん自身というよりは商人仲間との話で色々聞いていた、って事らしいけど。
簡単に言うと、アテトリア王国の商人に対して色々と吹っ掛ける事が増えていて、帝国側に善良と言える商人が減ったうえ、帝国上層部との取引があるという人達が表立って出てくるようになったとか。
さらにそういう人達は、上層部との取引がある、国が後ろ盾にいるなどという事をひけらかし、色々と商売のマナーみたいなのを無視する事も多かったとか。
そこからの繋がりで、帝国内の情勢などもある程度入ってきていたようで、商人さん達の中ではきな臭い感じを濃く感じていたみたいだね。
国力の差から、大国であるアテトリア王国に対して戦争を吹っ掛けるような馬鹿な真似はしないだろう、と楽観視する人が多かったみたいだけど。
……成る程、俺はヴェンツェルさん達軍とか国、それから冒険者ギルドとの話で色々聞いているけど、こんな風に商人さん達は商人さん達で、独自の情報網を持っていて色々知っているんだね。
王城に戻ったら、そちら方面での情報収集をするように提案してみるのもいいかもしれない。
俺なんかが考える事だから、既に行っているのかもしれないけど。
「商人の中には、帝国との取引を打ち切るのも多く出て来ているわね。まぁ、全てではないんだけど。他国とは言え、これまで行っていた取引がなくなれば危ういという商人もいるからねぇ。私みたいに、細々とやっているだけならほとんど関係ないのだけど」
まともな取引ができない相手なら、手を引く人が多くなるのも当然か。
他にもララさんからは、アテトリア王国だけでなく周辺国の一部商人が組んで、帝国相手の取引を止める動きがあるのだとか。
その際、互助として協力商人にはその中で取引の融通を利かせるといったのも考えられているらしい。
国が主導ではないけど、商人さん達がまとまって経済封鎖を仕掛けるようなもの……なのかな?
とはいえ、地球程貿易が盛んなわけでもなく、輸出入で国が成り立っているわけではないので、ある程度の影響力はあるとしても、国が傾くという程ではないようだけども。
「とはいえ、帝国が国内で乏しい資源なんかも滞るから、長期的に見れば国力の低下――はっきり言ってしまえば軍事力の低下が見込めたのでしょうけどね」
「軍事力も低下させられるんですか?」
「軍需物資、という物があってね。わかりやすいのは戦争時に必要な食糧だけど、それ以外にも必要な物が多くあるのよ」
「まぁ、一概に戦争と言っても、ただ人を集めて戦わせて、というだけではないですからね。帝国が乏しい資源の中に、その軍需物資があるって事ですか」
「そうよ。帝国はアテトリア王国と違って鉱山などが少ないの。ほとんどないと言っていいかもしれないわね。要は、金属の産出がないわけなのよ。そうなると……」
「装備品が作れない?」
「えぇ。まぁ、一部は魔物の素材などを使えるから、枯渇するわけではないのだけど、最低限の金属資源は必要なの」
つまり、経済封鎖をしておけばいずれ鉄などの武具に使う資源が少なくなり、自然と軍の弱体化が見込めるってわけか。
だから帝国は他国に侵略、もっと言えば資源が豊富なアテトリア王国に仕掛けようとしている、と考えられるけど……まぁ、動機なんかは他にもあるだろうし、レッタさんの話を聞いていればむしろそれよりもクズ皇帝の独断な部分が大きいとは思う。
ともあれ、軍が弱体化すれば他国に対しての牽制も弱まり、防衛力が下がる。
戦力イコール国力というわけではないけど、まともに考えられる人がいれば国の危機に繋がると考え、他国に対する商取引も見直そうと動く可能性が高いと見込んでいるようだ。
ただし、魔物を核から復元するなどで戦力を整えているのを考えると、そう簡単にはいきそうにないけども。
いや、そういった資源が乏しいのを自覚しているからこそ、魔物を利用する事で軍事力を上げようと考えたのかもしれないね。
ぶっちゃけ、素材を得るという意味でも復元すればいくらでも得られるわけで、その利用価値は計り知れない。
命を弄ぶとか、倫理的な部分は差し置いておけばだけども。
「そういうわけで、ここ最近の噂や雰囲気などからある程度察していたのもあるけど、帝国が相手という事なら戦争に踏み切るのも驚く事じゃないわ。ちょっと時期尚早ではあるけど……」
「それは――」
アテトリア王国、というか姉さん達だって戦争をしたくてやっているわけじゃないからね。
国を守るためにはと考えての結果だし。
……他にも何か手段があるかもしれないけど、既に獣王国を含めて大量の魔物をけしかける、爆破工作を仕掛けるなどで、先制攻撃されているような状態だから。
「話はわかったわ。生まれ育ったこの国は好きだし、国のために協力するのもやぶさかではないわ。でもねぇ……」
「何か、不安があるんですか?」
悩むように、頬に手を当てて俯くララさん。
国に協力したくないわけではないけど、気にかかる事がある様子だ。
「多少鍛冶仕事の手伝いをしていたし、リク君の依頼で調理道具を作ったりもしたわ。ただ手伝いの時は基本的に鎧だとかの方ばかりだったの。けど、戦争のためとなれば、当然武器も作る事になるのよねぇ」
「まぁ、そうかもしれません。兵士さん達の装備と言えば、鎧だけでなく剣や槍もありますから」
ワイバーンの素材は主に鎧や盾に使われるとはいえ、武器に使われないという事はない。
ララさんが協力するのであれば、一部の武器を作る事もあるだろう。
「うーん……私が武器を、ねぇ……」
「ララさんは、武器を作りたくないんですか?」
「作りたくない、と言えばそうね。はぁ、仕方ないわ。ちょっとだけお姉さんの長い話に付き合ってちょうだい――」
モニカさんの問いかけに応えるようにして、語られるララさんの過去。
元々鍛冶職人として活躍していたララさんだけど、そのララさん自身が受けて作った武器が、色々と問題だったらしい。
問題というのは、別に武器自体に問題があったわけじゃない。
ただそれが、罪のない人を殺してしまう道具として使われた事だ。
最初は魔物を討伐する冒険者からの依頼だったらしく、その冒険者の人も腕が確かで、役に立つのならと意気込んで作ったララさん。
だけど、その冒険者さんが依頼の途中の不幸な事故で亡くなり、ララさんの作った剣が行方不明になった。
冒険者が亡くなるというのは、まぁ言葉を選ばなければよくある事なので、悲しい出来事ではあるけど、特にララさんは気にすることはなく日々が過ぎていたらしい。
けどその後、野盗の集団が一つの村を襲撃、多くの村人が犠牲になる事件があった。
その野盗の集団は、すぐに壊滅したらしいけど、問題はその集団のリーダーが使っていた武器。
その武器が、ララさんの作った物だったようだ。
武器を作ったからってララさんに罪があるわけじゃないけど、その武器が優れた物だったため、どこからか入手したその武器を使っていた人物が野盗の中で集団を率いるリーダーにまでのし上がったのが悪かった。
その経緯を聞いて、ララさんは自分が武器を作った事が原因で、罪のない村の人達が犠牲になったと、その頃は自分を責める事もあったとか。
「もちろん、今は以前程自分を責める事はなくなったわ。手伝い程度で、武器以外なら鍛冶の手伝いくらいはしているしね。でも、武器というのは巡り巡ってそういう事も起こると考えれば、昔のように打ち込む事は考えられなくなったのよ」
色々と偶然が重なっただけで、ララさんは一切悪くないし、道具はその物が悪いのではなく使う人次第だと思う。
ただ、その頃のララさんは自分が作る物が喜ばれていたため、そこまで考えず、職人としての腕を磨く事ばかり考えていたとか。
ちなみに、ララさんの作った物だとわかったのは、その頃腕の確かな鍛冶職人として有名になっていたため、作った物には全て銘を入れていたようだ。
だからララさんが作った物として、ララさんの耳に入る事になったのかもしれない、と考えるとどう返したらいいのかわからなくなる。
「若かったのよねぇ……」
なんてララさんは自嘲気味に言うけど、物を、特に武器など殺傷力の高い物を作り、その性能を追求する人ならばいつかはぶつかっていた事だろうと思う。
もちろんその中でも、ララさんのような人だけでなく、割り切れる人も多くいるのだろうけど。
「まぁでも、こうしてリクちゃんやモニカちゃんに話して、昔程いやーな気持にならないのがわかったわ。多分、今なら昔のように打ち込む事まではできなくても、ちゃんとした物は作れると思うの」
「そう、ですか。でも、それなら武器だけは作らないようにして、というのはどうでしょう? ヴェンツェルさんからの依頼も、主に鎧の制作ですし」
「リクちゃんは優しいのね。けれど、本腰を入れて鍛冶をするとなれば、武器の制作に関わらないではいられないの。これは、私の鍛冶職人としての魂にも関係しているかもしれないわね。だから、やってみようとは思うわ。ヴェンツェルちゃんのように、懐かしい人からっていうのもあるけど、リクちゃん達のおかげで話せて楽になったわ」
そう言って、俺にウィンクをするララさん。
俺達に話す事で、自分の中で過去の事が整理できたのかもしれない。
「でも、私の懸念は私がなんとか捻じ伏せるけど……」
と言いつつ、俺を見るララさん。
捻じ伏せるとか、方向性が脳筋方面なのはあまり気にしない方がいいのだろう。
「条件って言うわけじゃないけど、リクちゃんの方が心配ね。これまでの活躍は色々聞いているけど、リクちゃんは優しいから、私みたいにならないかって。もちろん、やる事は私とリクちゃんじゃ違い過ぎるけれども」
「俺がですか?」
俺が心配って、なんの事だろう?
まぁ戦うというのは間違いないから、危険だとかそういう心配なのかな。
「リクちゃんは、この国の英雄よ。私もそうだけど、多くの人が感謝しているし、そうだと認めているわ。私は直接見た事はないけれど、個人としての強さも含めて国がそんなリクちゃんを遊ばせているなんて事はないはず。私にこの話を――軍備に関する依頼を持って来るくらいだから、戦争にも関わるのよね?」
「まぁはい、そうですね」
「冒険者だから意思は尊重されるはずだけど、やっぱりそうなのね。それは、リクちゃんが自分で決めた事? 誰かに言いくるめられたりとかではないのよね?」
「はい」
知り合ってから、一番の真剣な表情で問いかけるララさん。
そんなララさんに、間違いないと深く頷く。
「そうなのね。リクちゃんの活躍は聞いているから、余計な心配と言われればそれまでなんだけど――」
ララさんの心配というのは、以前姉さんからも言われた戦争に参加する事に対してだ。
それは危険ってだけでなく、人を相手にして戦う事。
冒険者の依頼で時々ある野盗を相手にするなどとは違って、はっきりと罪を犯していない人間と命のやり取りをするという話だ。
要は、覚悟はしているのかという事だね。
「……ここではあまり言えませんけど、帝国がやってきた事に対して許せないって気持ちは強いです。だからってだけでなくて、俺は俺でちゃんと考えて、どういう事なのかも含めて、覚悟は決めています」
ララさんのお店に来るまでにモニカさんとも話して、城下町の人達の様子を見て改めてだけど、前に姉さんと話した時のように、覚悟すでにしている。
むしろ、さらにさまざまな事があって、今ではもっと気持ちが強くなっているくらいだ。
もちろん、簡単に考えているわけじゃないけど、実際に体験したら色々と思う事や甘い部分とかもあるんだろうけど、全てひっくるめて後悔しないように行動していると自信を持って言える。
「そう。モニカちゃんも、なのね?」
俺だけでなく、モニカさんにも聞くララさん。
昔馴染みであるマックスさんの娘というのもあって、俺と同じく心配なのかもしれない。
その表情、目の奥では真剣でありながらどこか優しい温かさのようなものを感じた。
「はい。私もリクさんと一緒に、やれる事をやると決めています。もちろん、私はリクさん程の覚悟というのは自信があるとまで言えないのですけど、それでも、リクさんのやる事を近くで、一緒に、どんな事であっても受け止めると決めていますから。それは、戦争とは関係なく」
「はぁ、こういうのは男の子よりも女の子の方が、強いのよねぇ。リクちゃんの覚悟がモニカちゃんに負けているとか、そういうのではないのだけど」
ララさんが息を吐いて、納得した様子になる。
真剣で、気圧される程の表情も崩した。
「仕方ないわね。お気に入りの若い子が、これだけ言うんだから。私も全力で手伝うと決めたわ。まぁ私は、リクちゃん達と違って直接戦うわけじゃないし、ちょっとした支援くらいしかできないのだけどね」
「でも、そういった支援をしてくれる、協力してくれる人がいてこそですから。直接戦う人だけでなく、皆がいてくれるおかげで戦える、と思っています」
準備の段階から戦いは始まっている、とも言うからね。
万端と言えるかはわからないけど、出来る限りの準備をして挑めるかどうかは、経過にも結果にも大きく影響するはずだ。
直接戦う人だけが、戦争に参加していると言えるなんてわけじゃないはず。
「んもう、リクちゃんったら男前ね! そんな風に言える人がどれだけいるか……私も頑張らなきゃ!」
「ははは……」
何故か力こぶを作りながらそう言うララさんに、苦笑する。
思いがけず、ララさんの過去を聞いてしまったけど、それを乗り越えてヴェンツェルさんからの依頼を受けてくれる事になって良かった――。
――ララさんとの話の後、正式に依頼を受ける手続きをして、書類をヴェンツェルさんに届けた。
ヴェンツェルさんからは「リク殿に頼んで良かった。おそらく私が行っても、ゲオルグ……いや今はララだったな。ララは頷かなっただろう」と言われた。
おそらく、手続きの書類以外にもヴェンツェルさんに宛てた手紙があったんだけど、それに何か書かれていたんだろう。
その後は、演習の諸々の話し合いをしていたアマリーラさん達と合流、マティルデさんにいくつかの確認をした後クランに。
クランでは、会議室に事務方の人と所属員のパーティーからリーダーを集めて演習のためのミーティング。
まぁ要は作戦会議だね。
今回は冒険者対国軍と貴族軍、という形になるわけだけど、ただ冒険者の人達がそれぞれ突撃なんてわけにもいかないし。
ヴェンツェルさん達一部の軍上層部にいる人達は、俺やエルサによって圧倒するのを期待しているみたいだけど、だからと言って冒険者さん達を放っておいていいわけじゃないから。
……というか、演習相手側である軍の人が、負ける事前提というか、思いっきりやってむしろやられるのを望んでいるというのは、ちょっとおかしい話のような気はするけど。
負ける前提で演習に挑む国軍兵士さん達は、泣いていい気がします。
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