人々の雰囲気と戦争への覚悟
「そういえばそうかもね? エルサちゃん、リクさんにべったりだから。ふふ、エルサちゃんが頭にくっ付いていないリクさんって、ちょっと不思議かも」
「最近はしょっちゅうエルサと離れているけどね。あっちも忙しそうだし」
「改めて見ると、よ。エルサちゃん、リクさんにくっ付いているのが自然で、楽しそうだから」
「……魔力を吸っているからだと思うけど、俺もそれが自然な感覚になってきているかなぁ」
まぁ離れていたら離れていたで、後で魔力を要求されたり、色々と愚痴っぽい事を言われたりもするんだけどね。
俺の方もエルサのモフモフがない事に少しだけ慣れてきているのかもしれない。
寂しい、というわけじゃないけど、今日はエルサが戻ってきたら存分にモフろうと思う……モフモフは俺にとって必要不可欠な栄養素だ。
「まぁエルサは夜になったらまた飛びついてくるだろうからね。それにしても、賑やかさが戻ってきた気がするね」
モフモフへの欲求を誤魔化すように、周囲に目をやる。
「そうね。爆発騒ぎが起こっていた際には、閑散としていた所もあったのに……」
モニカさんが笑って、俺と同じように周囲を眺める。
俺がモフモフ好きなのは当然知っているから、誤魔化したのはバレているっぽい。
それはともかく、モニカさんと歩く城下町の通りは以前と同じように……いや、それ以上に賑やかだ。
「賑やかなのは好きだし、いい事だと思う。けどなんだか少し違和感があるような気もするなぁ」
行きかう人達が多く、賑わっているのはいい事のはずだけど、なんとなく以前とは違う雰囲気のようなものを感じる気がする。
爆発工作の件は、ヴェンツェルさん達の尽力によってほぼ追い出したり、捕縛したりが完了していて締め出しに成功したらしい。
……新しく潜入してきた場合はともかく、帝国側にもそういう余裕はないだろうし、ほぼ解決と言っていいだろう。
元々アテトリア王国内にいた場合はともかく、新しく帝国から入り込むのは、向こうが国境を閉じているから難しいだろうしね。
だから、一時閑散としていた部分もあった城下町が、以前と同じかそれ以上の賑わいが戻ってきているのは嬉しい。
協力した甲斐があったとも思う。
「違和感?」
「うん。なんて言うんだろう、焦っているような……うーん、違うかな。あ、歩く速度が少し早めというか、お店に出入りする人も、いっぱい物を買っているような?」
「ただ賑わっているだのように私は見えるけど、言われてみると、少し違う気がしてくるわね?」
「まぁ、気のせいかもしれないけど」
言われてみると、ってくらいならただ俺の気のせいって可能性が高い。
あ、でも……。
「そうか。なんか自分で言うのはなんなんだけど、俺を見ても反応する人が少ないんだ。いや、反応はしているようなんだけどね」
「あぁ確かに。以前はリクさんを見ると声をかけて来る人も多くいたわよね。それに、少し売っている物も変わっているような……?」
ピーク時には、普通に通りを歩けない程に俺がいると多くの人が声をかけ、さらに集まってきていた。
でも今は、俺に気付く事はあっても会釈ぐらいはする人が多いけど、足早に去るというか、自分達の用を済ませるのが優先されているようだ。
「……声を掛けられなくて、寂しい?」
「そういうわけじゃないけど。いや、でも少しはそうなのかな?」
わずらわしい、とかは全然思わないけど声をかけられないのはそれはそれでちょっとね。
歩けない程というのは困るけど、城下町の人達と交流するのは楽しくもあったから。
それから、モニカさんに言われて注意して見るようにすると、確かに売っている物が変わっている部分があった。
土産物というか、俺に関連した商品がほとんどなくなっていて、どこもかしこも食べ物、それも保存がきくような物を売っている所が多いみたいだ。
いや、俺に関連する商品とか、売っているのを見ると微妙な気持になるので、ない方がいいんだけど。
「何かの備えをしているような人が多い、のかな? ほら、大量に買って帰る人も多いみたいだし」
「そうね……食べ歩き、みたいな事をしている人は少ないし、そもそもそういった物を売っているお店も少なくなっているわね」
注意深く見てみると、色んな事に気付けた。
普段は、その場で作っている屋台のようなお店が立ち並ぶ通りでも、今はそういったお店が少なく、屋台があってもその場ではなく持ち帰るような食料品を売っているのが多い。
他にも、食料品じゃなくても携帯できる……もっと言えば、野営するような道具を売り買いしているようだ。
「あと、賑やかなのは賑やかなんだけど、前はもっと笑い声のようなのも聞こえて来ていたと思う。今も、そういうのがないとは言わないけど」
笑顔が少ない、というか切羽詰まっているというのは大袈裟でも、ほんのりと緊迫感があるようにも感じた。
それは、焦っているようにも感じたのに通じるのかもしれない。
笑い声とかがないわけではないんだけど……どちらかというと、値切り交渉なども含めて、真剣な声音の話し声が多い気がする。
「揉めている所もあるみたいね。まぁそういったのは、すぐに兵士が介入しているみたいだけど」
「そうだね。兵士さん達が多いのは、集まってきているから当然として、協力しているみたいだ」
貴族軍が王都に集結している影響か、前以上に兵士さんを見かける事が多い。
一時的とはいえ、治安維持に協力もしているようで、人によっては監視されているように思えて嫌かもしれないけど、治安はかなり良くなっていると思う。
いや、いつもより揉め事も多いように感じるから、トントンなのかもしれないけど。
「って、あぁそうか。皆わかっているんだ。いや、感じているって言う方が正しいかな?」
「何を?」
「戦争をするんだって事。どう見ても、元々王都にいる兵士さんとは別の人達がいるわけだしね」
貴族軍など、大勢が王都に集結している状況だから、何かあるのだろうと思う人が多いだろう。
広く公布したわけじゃないけど、近々戦争が起こる、というのは肌で感じているのかもしれない。
確か、以前は一部の人に限られていたけど、今は少しずつ情報を解禁しているらしいし。
「だからって、雰囲気はともかく備えるためにこれだけ皆が動くかしら? 王都だから、安全だって思う人の方が多いと思うけど」
王都はアテトリア王国の領土、その中心に近い位置にある。
そのため、どこから侵略されるとしてもすぐに危険にはならないからの、モニカさんの考えなんだろう。
「そこはほら、あれだよ。戦争とまでは考えなくても、物々しい雰囲気を敏感に感じ取って、何かしなくちゃ、備えなくちゃってなっているんだと思う」
日本では時折ある自然災害。
あちらでは戦争は遠い場所での話だったけど、自然災害で何かしらの被害を被る可能性はあった。
すぐ近くじゃなくても、小さな島国の日本でそういった災害があれば、何かあった時のための備えをしなくちゃ、と焦る人もでてくるわけで。
何かあれば、その時の災害とは関係ない場所でも防災グッズが売れるような、それと同じとか。
備えようと動くのは日本特有というわけではないだろうからね。
アテトリア王国はしばらく戦争はしていなかったらしいけど、魔物という危険があり、野盗などもいるわけで、備えのために動くのはむしろ日本人より早いのかもしれない。
お店も、そのためのラインナップになっているし、噂話なども含めて情報が大事な商人さん達も、敏感に察して動いているようだし。
「成る程ね……戦争のため、というのは私も初めてだからわからないけど。ラクトスでもセンテでも、前はこういった動きがあったわね。そういえば、ルジナウムでも。魔物が迫ってきている、と知ったのと同じなのかもね」
「まぁ、それよりは危機感とか緊迫感は薄いかもしれないけどね。でも、城下町に住む人達も、敏感に感じているんだと思う」
貴族軍が集結して、王軍が訓練だなんだと慌ただしく、少し前には爆発騒ぎもあった。
王都がいくら位置的に安全の可能性が高いとしても、危機感を刺激される要素は多くあるってわけだ。
それに、さらに前には大量の魔物が押し寄せてきた事もあったわけだしね。
ちなみに後で聞いた話だけど、賑わいが以前より強く感じたのは気のせいではなく、帝国砥の国境から王都までの間にある村や街を優先に、避難を始めていたらしい。
避難先の一つとして王都があるため、多くの人が入ってきているから、そのために賑わいとか行き交う人が多くなるのも当然だよね。
さらにそう行った人達から話を聞いて――という連鎖みたいな事もあったらしい。
水面下で、多くの人や事、物が動いているようだった。
「でも、戦争か……」
「どうしたの、リクさん?」
「いや、その、やっぱり色々と考えちゃうなって。俺がいた所は、戦争どころか戦う事自体と無縁だったから」
格闘技やスポーツで競い合うとか、戦う事はままあるけど、命を懸ける事は日常ではないと言って良かったからね。
この世界では、人相手に限らず、魔物と戦う事もあって戦闘というのは日常だ。
まぁ冒険者になって、自分から戦闘が身近な職に就いているとも言えるけど。
「魔物との戦いは慣れたし、最初からあまり忌避感を感じなかったけど、戦争となると必ず人とぶつかるから、ね」
「確かにそうね……私も考えないわけじゃなかったけど」
これまで野盗を相手にする事はあれど、基本的には魔物を相手にする事が多かった。
帝国が魔物を使っていても、戦争である以上人を相手にすることは必ずあるだろうし、そもそも帝国に与する冒険者をという事でクラン発足の名目でもあったしね。
「まぁ、姉さんからも以前言われて、覚悟を問われるみたいな事はあったけど。こうしていると、それも遠い話に感じる事もあって。だから逆に、考えてしまうのかもしれないけどね」
「えぇ。前より雰囲気が変わって、緊迫感や戦争への備えみたいなのをさっき話していたけど、それでもやっぱりまだ実感みたいなのは沸かないわね。だからこそって事だと思うわ」
「うん。とはいえ、こちらに来て……それこそモニカさん達と会ってすぐの頃程の忌避感というか、やりたくないとか、命を奪う、奪われる戦いに対して悩むって程ではないんだけど。もちろん、出来る事なら人の命を奪うなんてやりたくないけどね」
「父さんも前に言っていたけど、その方がリクさんらしいと思うわ」
エルサと契約をしてすぐ、野盗との戦いで人の命を奪う事に関してちょっと悩んでいた。
それをマックスさんに話したら、命を奪って何も思わない、感じないようにはなるなとか、俺らしく見たいなのを言われた事を覚えている。
「俺らしい……でも多分、前とは俺自身が変わってきている部分があるんだよね」
いつからだろう、きっかけがあったとはっきり自覚している程じゃないけど、前ほど悩まなくなったというか、戦闘に関しての考えが変わってきている。
もちろん、人の命を奪う事に何も感じないわけじゃないんだけど……以前より非情に徹していられるような感覚、というところだろうか。
自ら戦いを望むわけじゃないけど、戦闘である以上、結果としてそうなるのは仕方ないと思える。
元々、魔物に対してはそこまで悩む事はなかったし、そういう気質だったのかもしれないけど、どちらかと言えば俺自身が変わってきているように感じた。
「ごめん、不安にさせるような事を言っちゃったね。戦争は嫌だけど、だからって今更逃げるような事はしないし、全力で臨むし、その結果とかも考えて、覚悟は決めているつもりだから」
誰かの命を奪う事。
悪循環のように、人から恨まれる可能性なども含めて、戦争だから仕方ないと割り切れないけど、それでもその結果を受け止める覚悟はしている。
じゃないと、ここまで積極的に、そして姉さん達にも宣言したように帝国を圧倒する、なんて大言壮語を口に出していないからね。
もちろん、俺自身が絶対的に無事で終わるなんて楽観的な事は考えていないし、最悪の場合なんてのも考えているし、そうならないように努力はするけど。
「ただちょっと考えちゃうなってだけだったんだけどね。でも、モニカさんの方は大丈夫?」
「私?」
「うん。モニカさんは元々、冒険者じゃなかったし、俺のせいでここまで巻き込まれたようなものだから」
それこそ、俺がいなかったら冒険者にならず、今もマックスさんやマリーさんと一緒に獅子亭で頑張っていただろう。
俺の我が儘だけど、モニカさんと一緒に戦って、ここまで来て、もっとずっと一緒にいたいと考えると同時に、最悪の想定からモニカさんだけでも安全な別の場所にいて欲しい、なんて思う気持ちもある。
「巻き込まれただなんて、私は思っていないわ。冒険者になったのも、リクさんのためとかじゃなくて、自分のためだから。興味はあったし、父さん達も元冒険者で、多少は話を聞いていたわけだしね。それに、獅子亭のお客さん達の中にもそういう人はいたし。もしかしたら、遅かれ早かれ、冒険者になっていたかもしれないわ」
両親が元冒険者だからそうなるべき、ってわけじゃないと思うけど、その娘であるモニカさんも冒険者に、という可能性はあったんだろう。
「リクさんといると驚く事ばかりで、私の身の丈に合っていないような事も多くあったけど……」
「それは……うん、ごめん」
最初は地道に少しずつ、なんて思っていたけどヘルサルにゴブリンの大群が押し寄せて、あの戦いが終わってから、平凡な冒険者とはかけ離れた事ばかりになっちゃったからね。
「あ、責めているわけじゃないの! 一人で冒険者になったら、こんなに多くの経験はできなかったし、多分まだまだくすぶっていただろうから。リクさんと一緒にいて、色々な事があって、その経験のおかげで、自分が凄く成長しているように思えるの。もちろん、まだまだだと思うけど、Bランクや、もしかしたらAランクに届くかもなんて言われる事もなかったわ」
Bランクになれる、というのは以前フィネさんとかも言っていたし、確かに実力がついてきたモニカさんならと思う。
けどいつの間にか、モニカさんもAランクにも届く程になっているんだ……冒険者としては喜ばしいんだろうけど、確かAランクって人外と言われる事もあるんだっけ。
森で木をなぎ倒しながら進むアマリーラさんとか、ベテランの冒険者が割って入れないくらいの打ち合いをするエアラハールさんとベルンタさんなどを思い浮かべれば、確かに人外と言われるのも納得できる。
……似たような事を俺がやっているのは、今は考えないでおこう。
「だからね、リクさん。私は巻き込まれたなんて思っていないし、結果的にリクさんと一緒に戦争に参加する事になったけど、それを後悔しているわけじゃないの。むしろ、リクさんの力になれて、一緒にいられる事の方が、私にとっては大事なの。それこそ、冒険者のランクなんかよりもね。ふふふ、知ってる、リクさん? 私ね、リクさんと一緒ならどんなに驚く事があっても、大変な事があっても、全然平気なの。リクさんが私の知らない所で、危険な戦いをして、思い悩んでいる方が、よっぽど辛いのよ?」
そう言って俺に微笑みかけるモニカさんは、ちょっとだけ頬を紅潮させていて、とても魅力的で俺の胸に染み渡るようだった。
行きかう人達の多い通りで、喧騒に包まれているのに、それが一切気にならない、耳や目に入らないくらいには――。
モニカにとってはリクと一緒にいる、という覚悟の方が大事なのかもしれません。
別作品も連載投稿しております。
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