ソフィー達の訓練の成果
「ふむ、成る程。センテでの事は私も聞いているが、技術的な訓練ではなく精神的に鍛えるのには 確かに良さそうだ。許可しよう。ただ……」
「何か、あるんですか?」
「いやな、リクがセンテで行った演習についての報告の中に、一部兵士の離脱。正確には離職願いがいくつかあったそうだ。そのだな、戦争前に兵士たちの心を複雑骨折させるのはやめて欲しいとな?」
「複雑骨折って……心を折る程の事は……多分しません、よ?」
「自信なさそうなのが不安だ」
どういう演習になるか、するかはまだわからないけど、そんな心を複雑骨折……もとい心を折るためにやるわけじゃないから、できるだけ加減はするつもりだ。
具体的には、ユノからも注意されているバーサーカーモードにならないとかだね。
あの時、俺に突撃してきていた侯爵軍の兵士さん達の一部が特に多く、離職したいとシュットラウルさんに願い出たらしいし。
……戦闘に集中するためなんだけど、深く入り込んでいたのも間違いないから、もしかすると傍から見たら結構怖かったのかもしれない。
「まぁ、こちらでもやり方については検討する。だが、あまり何度もというわけにはいかないだろうな。軍を移動させる日数もある」
軍の移動は、演習のためにというだけでなく戦争に備えての事だ。
王都に集結し、そのまま帝国が来るのを待つなんてわけではないので、帝国国境へ向けて移動させなければいけない。
単独で馬に乗って移動させるなら、急げば二、三日でいいだろうけど、大軍の移動ともなればその倍では済まないくらいかかる。
移動させていざ戦闘、というわけにもいかないので備えるためにも余裕をもって出発させないといけないんだろう。
人が多ければ多いほど行軍速度は下がるし、荷物も増えるから仕方ない事だね。
「今日の演習すら、貴族軍にとっては強行とも言えるからな。明日は休ませる必要もあるし……あと一度、良くて二度の演習ができるかどうかだ」
「一度か二度、ですか……」
元々、何度も何度も演習ができるとは思っていなかったけど、想像していたよりも少ないね。
行軍の日数を短縮できれば余裕ができるかもしれないけど……それは難しそうだ。
例えばワイバーンに兵士さんを乗せて、ピストン輸送させたとしても兵士さんの数に対してワイバーンが少ない。
数万の人に対してワイバーンは三十体くらい。
エルサも協力すれば、さらに多く運べるとは思うけど、エルサはエルサでやる事があるからね。
こればっかりは、仕方ないか。
「では、可能な限り二度の演習ができる方向で調整いたします。戦争を経験していない者も多く、備えはやりすぎと言える程で良いでしょうからな」
「うむ。リクの要望は、私の要望でもある。そして国の民もな。戦争自体、しない方が良いというのはわかっているし、可能ならそうしたいが、そうも言っていられないし、もう避けられないだろう。やれるだけの事をやるのだ」
「はっ!」
俺の要望……帝国を圧倒して、こちらの犠牲者を減らすといった事だろう。
それにしたって、帝国側に犠牲者が出るけど、国同士の武力衝突、戦争なんだからそれは当然の事。
この世界に来る前の俺だったら、絶対に避けようとか関わろうとかしなかったかもしれないなぁ。
姉さんが女王様だから、できる限り協力したいというのはあるけど、それでも絶対に犠牲が出るのを避けられないのは、辛いから。
わかっていてこうして今も協力しているのは、強くなったというよりも割り切っている、もしくは俺自身が変わってきているのかもしれない。
それがいい事なのか悪い事なのかはわからないけど――。
「リク! 戻ったか! フラッドから聞いたが、獣王国でも大変だったようだな」
「ソフィー。フィネさんも。フラッドさんから聞いたんですね」
「はい。リク様のご活躍を、他の人達と共に興奮気味に話していました」
姉さんやヴェンツェルさんと、演習をできる限りするなどの話を終えてしばらくすると、ソフィーとフィネさんが王城に戻って来た。
俺達が戻ってきた事を、フラッドさんから聞いたんだろう。
二人を迎えて、お腹が空いたエルサ達と夕食を頂きつつ、俺からも獣王国であった事を二人に話した。
マギシュヴァンピーレに関する情報の取り扱いなど、口止めなどはしていなかったので、ソフィー達も聞いていたらしい。
まぁ、フラッドさん達は遠くで魔物と戦っていたから、なんとなくの印象でとにかく俺がすごかった、というくらいの感想ばかりだったらしいけど。
ちなみに、ヴァルドさん達からも兵士さんへ話が伝わる可能性も考えて、ヴェンツェルさんがその対処をするとの事だった。
ヴァルドさんが報告する先は中隊長クラスの人なので、マギシュヴァンピーレの事を伝えるだろう相手だからそこは問題ないようだけど、そこから一般の兵士さん達に伝わらないようにだね。
「あ、そういえばソフィー。ここに残っている間に、フィネさんと何か考えている事があったみたいだけど、それはどうなったの?」
こちらの話をし終えて、思い出したようにモニカさんが言った。
獣王国が協力してくれる事になったのはいいとして、マギシュヴァンピーレの事とか、食事時にするには雰囲気の悪い話だったから、それを変えたかったんだろう。
というか、獣王国に行かなかったのは何か考えがあったんだ……俺は、もっと訓練をしていたいからとしか聞いていないけど。
「んぐ。あぁ! フィネと共にな。数日程度だが、なんとかものにしたぞ」
「もう少し、練習をする必要はあるでしょうが、成功率はかなり上がりました」
「二人とも、一体何をしていたの?」
「ふっふっふ、それは見てのお楽しみだ」
「隠す程の事ではないのですが、明日お見せしましょう」
二人共、相当な自信があるらしい……大分仲良くなったみたいだなぁ。
ともあれ、見せてくれるって言うんだから、素直に明日を待とう。
その後、食事を終えてお風呂に入ったりと少しゆっくりさせてもらってから、就寝した。
食事の後、ユノやロジーナと部屋の隅でソフィー達が何やら小声で話していたのは気になるけど、明日見せてくれる何かに関する事だろう、多分――。
「行くぞ!」
「合わせます!」
翌日、ソフィー達の成果を見せてもらうためと、報告や今後の相談などのためにクランへ行くと、気付けば木剣を持ってソフィーやフィネさんと対峙していた。
どうやら、昨日言っていた事を見せるためらしいけど……戦いに関する事だったみたいだ。
二人と対峙しているのだから、おそらくソフィーとフィネさんによる連携技みたいなものだろうか。
「っ! っとと。それは前にも見せてもらったよ! っと!」
ソフィーが正面から踏み込んで振り下ろす木剣を受け止め、横に流す。
その間に回り込んだフィネさんが横から木製の斧を投げつつ肉薄、別の斧をすくいあげるようにして斬りかかってくるのを弾く。
この連携は、前から何度もやっている模擬戦で見たし、対処も慣れたものだ。
いつもならさらにモニカさんが加わって、リーチの長い槍を繰り出してくるんだけど、今回は二人だけなのでそれがない分、対処が楽だった。
「そう思うだろ? フィネ!」
「えぇ、ソフィー!」
「っ!?」
フィネさん投げた斧をソフィーが拾って投げる、フィネさんに渡すつもりかと思ったけど、回転する斧は空中で軌道を変え、俺へと向かう。
ソフィーが斧を投げたのと同時、フィネさんが俺に向かって持っていた斧を投げた。
しかしそれも空中で軌道を変えて、ソフィーへと向かった。
驚いて目を見開き、少し反応が遅れながらソフィーが投げた斧を叩き落す。
「さすがに驚いたけど、これくらいなら……って!?」
意表は突かれたけど、結局斧が一本飛んでくるだけなら問題ない、と思っていたらいつの間にか俺を挟むように二人が肉薄してきていた!
「それで終わりではないぞ!」
「まだまだこれからですよ!」
右からソフィーがフィネさんから受け取った斧を投げつつ、勢いを殺さないよう剣を振るう。
左から迫るフィネさんは、俺を迂回するような軌道の斧を空中でつかみ、勢いのまま回転しつつその斧を振るう。
左右の時間差攻撃か!
「くっ! まだ、まだぁ!」
かろうじて、ソフィーの剣を足で蹴り上げつつ体の向きを変え、フィネさんの斧を受け止める。
だが、それで終わりではなかった。
剣を蹴り上げられたソフィーが、その勢いを殺さないよう動き、尋常ではない速度で落ちていた斧を回収、再び投げる。
ソフィーが投げる斧は、俺を狙ったり、フィネさんに渡したり……時には剣すらも投げ、ソフィーもフィネさんもお互いがお互いの斧と剣を交換して振るっていた。
俺を休ませない、息もつかせぬ猛攻に押される。
目まぐるしく持っている武器が変わるし、油断すると飛んでくるので、どちらが剣を持っているのか、斧を持っているかもわからなくなってくる。
ユノやロジーナが使う、速度を追求した連撃に負けない程の連続攻撃に、ユノ達と模擬線をする時と同じくほとんど同じ場所に釘付けにされ、防戦一方。
どこからどんな攻撃が来るのか、予想させないし、予想する頃には別の攻撃が飛んでくるという、とんでもない連携技だった。
連携技というより、連携行動かな?
まぁ呼び方はどうでもいいだろうけど……とにかく、防ぎきらないと手数が多すぎて俺が反撃する余裕すらないかった――。
「はぁ! ふぅ、はぁ!」
「ぜぇ、せぇ、はぁ!」
「ふぅ……」
二人の猛攻は、突然終わりを告げた。
なんとか反撃の糸口を探りつつ防御に徹していたんだけど……どうやらそれを見つける前に、二人の体力が限界を迎えたらしい。
お互いが動きまわって武器を投げ、拾い、斬りかかるのを、同時、または時間差などでやっているから、精神的にも体力的にも消耗が激しかったんだろう。
それを証明するように、滝のように汗を流している二人は、立っていられず四つん這いになって荒い息を吐いていた。
「はぁ、はぁ……一撃も、入れられなかった。自信があったんだが……はぁ、ふぅ」
息も絶え絶え、という程じゃないけど、荒い息を吐きながら悔しそうに言うソフィー。
「防御に徹してなんとか、だったよ。反撃する隙もなかったからね……」
「まぁ、リク様はユノ様達の猛攻を凌いでいるのを何度も、この目で見ていますから……ふぅ、はぁ……この結果はなんとなく予想していましたけど。はぁ、はぁ……ですが、やはり悔しいですね」
同じく荒い息を吐きつつ、床に座り込みながらのフィネさん。
息もつかせないような猛攻、というのは確かにユノとロジーナの連撃でよく体験していたからね。
あちらは防御に集中していても、全て防ぐ事ができていないんだから、どれだけユノ達がすごいかというのがわかるというもの。
しかもユノ達はそのうえで、俺に反撃をしろという無理難題を課すし……ただそれと比べるのは、さすがに頑張った二人がかわいそうな気がするね。
「ユノ達と違って、前後左右……思わぬところから攻撃が来るから、予想しづらくて動きづらいのもあったよ。なんとか防げたけど、正直なところ驚きという意味では一撃入れられたようなものだと思う」
下手なフォローかもしれないけど、ある程度予測できるユノ達の連撃と違って、油断したら考えもよらないところから攻撃が来ていたから。
それこそ、ユノ達は剣を振るうから当然そのユノやロジーナ自身を見ていれば、方向がわかるけど、ソフィーとフィネさんは変則的な投擲によって、途中で軌道を変えるから予測ができなかった。
武器を渡すためなのか、俺に向かってくるのかなんて考えを巡らせていたら、対応が間に合わなかっただろうし、俺に向かってくると見せかけて実は違うとかその逆なんてのもあって、フェイントも混ぜていたからね。
まぁそれでも、予想しても防ぎきれないユノ達は凄いんだけど、それは言わないでおこう……というか、投擲した剣や斧が途中で軌道を変えるってどうやったのか不思議でならない、ブーメランみたいだったし。
「ふむ、そうじゃのう。まだまだ精度を上げる必要があるかの。先程のは上手くいっていたと言って良いのじゃが、傍で見ている分にはわかりやすくもあった。それにじゃ、今のはリクが相手だからこそじゃ。他の者達相手では、あそこまでではなかったじゃろう? それに――」
「エアラハールさん……」
ようやく息が整いつつあるソフィー達を見てか、模擬戦を見守っていたエアラハールさんが近づき、反省点などを挙げて指導を始めた。
どうやら先程の二人の猛攻は、俺の癖などを知っているからこそでもあったらしい。
例えば、どの角度で斬り込んだらどういう風に弾かれるかなど、それすらも予想して相手を手玉に取り、反撃する隙すら与えず攻撃を加え続ける、というのが真髄なのだとか。
さらに言えば、投擲で武器が手から離れる分、次善の一手で魔力を流していてもそれがすぐに薄れていたのもあったみたいだ。
手から離れればそうなるのも当然なんだけど、自然と武器に魔力を流して次善の一手を使えるようになっているらしい二人には、もっと一連の流れを体で覚え、意識的にも魔力を扱う事で、投擲した武器が飛んでいる間、次善の一手が維持されると。
実際に例としてエアラハールさんが落ちている木剣を、無造作に投げて同じく落ちている斧に当てると、簡単に斧が割れた。
投げても次善の一手が維持されるのは確かにすごいと思うけど……一応訓練用の武器は、クランの備品で費用が掛かっているから、気楽に壊さないで欲しいなぁ。
資金に困っているわけじゃないし、訓練をやるうえで壊れるのは仕方ないかもしれないけど。
「さてと、そろそろ俺は行くよ。今日は他にも話さないといけない人達がいるし」
訓練後の汗を拭きながら、モニカさん達にそう言う。
獣王国から戻って来たばかりだけど、演習の話とか色々と話しておかないといけないからね。
まずは、クランにある執務室……と言うのはなんだか偉そうに見えるし慣れないけど、とにかく仕事部屋へ行こう。
事務員さん達と打ち合わせして、それから結界の練習もして……あ、マティルデさんとも話に行かないと。
姉さんたちの方から色々話が行っているだろうけど、演習のための冒険者さんとか、色々と話しておきたいしね。
そんな事を考えながら、訓練に打ち込むモニカさんやソフィー達に手を振って、訓練場を出た。
ソフィー達は、エアラハールさんの指導に加えてユノによる「次善の一手が不十分だと、結局リクに一撃を入れても痛みすら与えられないの」という言葉にさらに落ち込んでいたけど、それはともかく。
あと、『むくつけきき男達の宴』パーティが、フラッドさんを筆頭に汗をほとばしらせて筋肉トレーニングをいつも以上に励んでいたけど、見なかった事にしよう。
何故か、他の冒険者パーティの特に男性が多く参加していたけども。
クラン所属の冒険者さんのうち、男性のほとんどがフラッドさんやヴェンツェルさんのような、ボディビルダーもかくやというくらいの筋骨隆々な集団にならない事を願う。
……エアラハールさんが監督してくれているし、多分そこまでにはならないとは思うけど――。
筋肉主義が拡大しそうなことに、少しだけ危機感を感じるリクでした。
別作品も連載投稿しております。
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