帝国の関与を獣王国に説明
「秘匿されるべき話ではありませんし、意外とこのように開けた場所で声が漏れないように話す方が、勘ぐられませんの。もちろん、絶対に漏らしてはいけないような事であれば別ですわ」
「そうなんですね」
マニグレット第二王妃の言葉に納得する。
隠そうとするから、むしろ怪しまれたり邪推されるとかそういう事だろう。
多少真剣な雰囲気を出していても、何でもない事のように話していると見えた方が、誰も気にしないのかもしれない。
だったらと、一番の目的は獣王国を助ける事だけど、もしできれば援軍をという話も含めて、今相談してしまおうと覚悟を決める。
できれば俺だけじゃなく、モニカさんとか他にもこちらの事情を知っている人と一緒に話したかったけど、向こうは獣人さん達と歓談中だし、仕方ないか。
「えっとですね、いつからとはっきり断言はできませんが、アテトリア王国の女王陛下は帝国との戦争は避けられないと見ていますし、そのための準備を進めています」
「ふむ、そうですか。帝国は地理的に離れていますからな、あまり関わりがありません。帝国内にも、獣人はいるでしょうし……」
「ハルちゃん、魔物の対処で報告が遅れていたのだけど、帝国で暮らしている獣人との連絡が途絶えているの」
「なんだと!? それは本当か!?」
アールラさんの言葉に、目を開いて驚くハルさん。
鬣のような髪や尻尾の毛が逆立っているから、よっぽどの驚きだったんだろう。
というかハルさん、アールラさんからは「ハルちゃん」って呼ばれているんだ、ちょっとかわいいな。
というのは今あまり気にしない方がいいか。
「報告しようにも、魔物との最前線で戦っていたからできなかったのですわ。定期的に届く連絡が途絶えていますの」
「……帝国での獣人の扱いは、あまり良いものではないと聞いている。悪い想像をしてしまうが」
「……」
帝国は迫害されているとかではないけど、獣人など人間以外の扱いはあまり良くない、という話は聞いた覚えがある。
そうか、今はもう帝国とアテトリア王国との国境は封鎖状態だから、向こうの獣人さんとの連絡が難しくなっているのか。
別ルートから、というのもあるかもしれないけど……アールラさんが言っているように、それも今は途絶えていると。
「向こうの情勢はわかりませんが、もしやアテトリア王国が戦争をと考えている理由に関係が?」
「戦争は、最終手段と言いますか……帝国がその気なので、仕方なくという部分が大きいです」
一応、姉さんを含めてアテトリア王国が望んで戦争を仕掛ける、というわけではないのだと伝えておく。
アテトリア王国としては、戦争に勝った後も帝国領土を占領する事は考えていないみたいだからね。
前皇帝が無事かどうかとかなどの事もあるけど、とにかく国土を広げるための侵略戦争ではないし、どちらかと言えば侵略させないための戦争だ。
「それで、獣人さん達の事ですけど、どう関係しているかまではわかりませんが……」
帝国に行ったわけじゃないから、獣人さん達が今どうなっているかとかまではわからないからね。
ハーロルトさんなら、もしかしたら何か知っているかもしれないけど。
「帝国の動きを見ていると、とにかく自国の研究による強化から、アテトリア王国、そしてこの獣王国の戦力を削ぐ事に心血を注いでいるのはわかります」
「アテトリア王国はわかりますが、これまでほとんど関わっていなかった我が国も、ですか?」
「はい。おそらくですけど、帝国はアテトリア王国が獣王国に援軍を頼む事を、予想していたのではないかと。実際、女王陛下や周辺の人達はそれを考えていたようですし、アマリーラさん……アマリエーレさんを通じて援軍要請をしました」
「ふむ……」
アマリーラさんは、言い換えなくていいという表情をしたけど、さすがに両親や兄弟姉妹の目の前で、偽名というか仮の名で呼ぶよりは、正式な名で呼ぶ方がいいだろう。
ハルさん以外の王族の方達は、対面上以外で実質的な権限みたいなものがあるとは言えないのだとしてもだ。
「つまり帝国は、獣王国からの援軍を警戒して、戦力を削ぐ気だという事ですか?」
俺の話を聞いて、俯いて考えている様子だったレオルさんが聞いてきた。
話に積極的に関わるレオルさんの様子や、他の達の様子を見ているとなんとなく、政治など頭脳系と戦闘系で、王族の方達の役割が別れているようだね。
レオルさんやマニグレットさんが頭脳系、他は戦闘系でおとなしく話を聞いているってところかな。
獣王様であるハルさんや第一王妃のアールラさんは、立場上両方こなさないといけないようだけど。
「はい。実際に今回のような大量の魔物をけしかけてきています」
「っ!? あれは、スウォーミングではなかったというのですか!? 確かに、定期的に起こるスウォーミングとは、様子が違うと思っていましたが……」
スウォーミングというのは、獣王国で定期的に起こる魔物の大量発生の呼び名だね。
今回の魔物大量発生が、そのスウォーミングではなく帝国の仕業だと聞いて、驚くハルさん。
いや、ハルさんだけでなくアマリーラさん以外の全員が驚いている。
それも仕方ないか、魔物がお寄せて避難する人を逃したはいいけど、ほとんど外との連絡は取れなかっただろうし、今まで違ったとしてもとにかく王都を防衛するのに必死だったんだろうから。
「スウォーミングでは、これまで王都の門をあんな風に破壊できる魔物はいなかった。それに、時期も外れている……」
確かめるように、呟くレオルさん。
王都の門を破壊したのはフレイムフォグによる爆破で、それはこれまでのスウォーミングでは発生していなかったんだろう。
あとそういえば、定期的に起こるから発生時期などはある程度予想できるし、それとは違うタイミングだったというのはアマリーラさんから聞いていたっけ。
「関所の方でも確認したのですが、大量の魔物はアテトリア王国とは別の方面、他国から移動してきていた、と」
「それは間違いありません。通常であれば王都周辺、あまり離れていない場所で一気に魔物が大量発生し、王都に押し寄せます。それが、遠くから移動してきているのを確認しています。その事からも、通常のスウォーミングとは違うと考えてはいましたが……」
「あくまで推測ですが、帝国が他国をとして……なんらかの手段で協力させ、魔物を通過させたんじゃないかと」
アテトリア王国以外、帝国と隣接している国には地下研究所みたいなのを多少は作っているみたいだけど、それ以外にはまだ手を伸ばしていない、とレッタさんからの情報だ。
レッタさんが帝国を離れてからあまり日数が経っていない事を考えると、離れた国にまで工作をしている猶予はないはずだ。
国同士の関係までは、レッタさんもあまり詳しくないし、何らかの手段……悪く考えれば、魔物を使って脅して獣王国まで大量の魔物を通したというのが、俺の考えだ。
実際はどうかわからないけど、なんにせよ、いくつかの国を通って魔物が移動してきたのはほぼ間違いないだろう。
「しかし、帝国はそこまでするものなのでしょうか。あれだけの魔物です。我が獣王国に差し向けて戦力を削ぐ、などという迂遠な事を考えるより、アテトリア王国との戦争に使えばと思うのですが」
「そこも、推測するしかないのですけど……これまで何度も、アテトリア王国の各地では今回の規模のような魔物の大量発生に襲われています。なんとか退けましたけど、アテトリア王国に効果が薄いなら獣王国に、と考えたんじゃないかと。少なくとも、その影響で戦争への援軍派兵は断られましたから」
「我らの国を参戦させないため、とも考えられるのですな。ふむ、確かにその通りかもしれません」
本当に帝国がそう考えてなのかはわからないけど、援軍に関しては断られたから、戦力を削ぐという目的は達成されているわけだしな。
獣王国王都に押し寄せた魔物を、アテトリア王国との戦争でぶつけるのとどちらが成果を望めるか、などはわからないけど……それだけ帝国は獣王国を脅威だと思っている証拠とも言える。
帝国とは逆方面、獣王国の援軍、援助が期待できるという事は、単純な戦力以外のも後方支援も加わるわけだから、帝国としては有利に王国へ攻め入るため、なんとしても阻止したかったのかもしれない。
「それと、物ではありませんが帝国が仕掛けてきたのだという証拠があります」
「証拠ですか? あまり見ない魔物はいましたが、それが証拠に?」
「いえ、それも帝国の仕業と言える要因かもしれませんけど、ハルさんは見ていますよね? あの黒くておぞましい魔物を」
「あれ、ですか。他の者よりも近くにいたというのが影響しているのかもしれませんが、思い出すだけでも全身の毛が総毛立つ思いです」
そういうハルさんだけど、実際に今も尻尾や耳の毛が逆立っている。
レオルさんなど、他の人達も王都内部から見えていたのだろう、同じく顔をしかめて尻尾などの毛が逆立っていた。
「あれを魔物と言っていいのかわかりませんが、とにかくあの黒い魔物は帝国の研究の産物です。マギシュヴァンピーレというらしいんですけど――」
レッタさんから聞いたばかりの話を、ハルさん達にする。
魔物を核から復元、という事すらまだ知らなかったハルさん達は、その核を利用してあんな怪物を作り出した帝国に対して、戦慄しているようだった。
相手が魔物とはいえ、命を弄ぶ行為とも言えるからね。
この分だと、人間とかを使って爆弾にしているなんていう、非人道的すぎる研究と工作について話したらどうなるか……俺自身あまり話したい事じゃないし。
正しく帝国の現状を知ってもらうために、話をしないといけないんだけど。
姉さんから、援軍は断られても今後の獣王国との関係時のために話しておくように、言われているからね。
まぁ今はマギシュヴァンピーレや帝国が獣王国に仕掛けてきていた、という話だから後にするけど。
「……リク様の話を総合すると、経緯はどうあれ帝国は我々にも敵対意思を見せている事でまちがいなさそうですな」
「父上、獣王国としては此度の事、重く受け止めるべきかと」
「レオルの言う通り、このままでは獣王国が軽んじられかねん。力を重んじる獣王国であるがゆえに、戦いをもってこちらに敵対するのならば、我々も戦いを持って答えねばならぬ」
レッタさんの事も含め、マギシュヴァンピーレの事。
さらに人を使った爆破工作などの事まで伝え、深刻に受け止めるハルさん達。
ハルさんやレオルさんだけでなく、他の王子王女まで、目を鋭くさせている。
「今回の件だけでなく、人を使った……という部分が私は気になりますわ」
そういうのは、第二王妃のマニグレットさん。
「お母様が気になるのは、帝国にいる獣人の事ですわね?」
「えぇそうですわ、マリット。連絡が途絶えた獣人達と、リク様が仰られていた人を爆発させるという事。想像でしかありませんが、悪い予感がしますの」
「獣人が使われる可能性、か……」
「一応、俺が今まで見て、聞いた中では獣人がという事はありませんでしたが、否定はできません」
獣人さん達の帝国への敵愾心をむやみに煽るようで、考えるに留まっていたんだけど、マニグレットさんが考える可能性がないとは言えない。
これまでは人間が使われていたけど、帝国にいても獣王国との関係もある獣人さん達を、帝国が利用しようとしないとは考えられないからね。
むしろ、獣人さんの方が利用する敷居は低いなんての事もあるかもしれない……自国の国民ですら利用してレッタさんのような復讐者を生み出しているくらいなんだから。
距離があって関係が薄いとはいえ、獣王国との関係上これまではあまり利用していなかったのかもしれないけど、戦争が間近に迫って連絡が取れなくなった事から、最悪の可能性の方へ考えが向かっても自然と言えるかもね。
「……一応、国である以上協議する必要はあるだろうが、我としてはアテトリア王国への援助を惜しまないと決めた。帝国は、明確な獣人の敵だ。皆はどうだ?」
「私も、父上と同じ気持ちです」
ハルさんの言葉にレオルさんが同意し、他の皆も大きく頷いた。
アマリーラさんだけは、そうなるのも当然という風に頷いていてちょっと違ったけど。
まぁアマリーラさんは元々事情を知っていたし、魔物が獣王国王都に押し寄せたのも帝国の仕業だろうという予想はしていたからね。
「アテトリア王国としては、俺が言うのもなんですが獣王国の助力は大いに助かると思います」
名代というわけじゃないけど、獣王国との関係に関しては姉さんから俺に一任されている。
まぁ、無理に助力を求めるとか交渉をする役目とかではないんだけどね。
「ですが……獣王国も今は大変だと思います。魔物達の被害もありますし、街道などの復旧も……」
大量の魔物が押し寄せた事と、マギシュヴァンピーレの影響で王都南側の街道は完全に潰れている。
魔物の残党もまだいるし、王都の門も破壊されているから、そちらで手いっぱいなんじゃないだろうかという心配がある。
避難している人達が戻ってきても、すぐ元の生活に戻れるわけじゃないし、色々大変だろう。
「そちらはそちらで取り掛からねばなりませんが、一切の余裕がないわけではありません。リク様方のおかげで、王都の門破壊から想定されていた被害よりかなり少なく済みました」
「まだ全ての被害報告を受けたわけではありませんが、人的被害などは想定の一割にも達していません。元々、帝国の獣人と連絡が途絶えた時点で何かしらの動きをしなければと考えていましたし」
アールラさん曰く、人的被害が特に少ないらしいけど……それのほとんどは、門付近で暴れたアマリーラさん立ちに吹っ飛ばされた獣人さん達なんじゃないだろうか? なんてちょっと考えてしまった。
いやまぁ、本当に魔物から被害を受けた獣人さんってのも、当然いるんだろうけど。
「避難民を呼び戻す事なども必要ですが、短期間で魔物の脅威が去ったため、蓄えていた物資にも余裕が出ています。リク様の歓待のため、これだけの物を出せたのもそのおかげです」
そう言って、まだまだ大量にある料理が乗っているテーブルを示す第三王女のアルーナさん。
広間に集まった人達で、食べ切れるのか疑問に思える程の料理は確かに、食料などに余裕があるからできる事だろう。
魔物との大規模な戦いの直後なのだから、疲弊していたらもっと質素なものになっていてもおかしくない。
というか、祝勝会のつもりだったけど、獣王国の人達にとってのメインは俺の歓待なのか……。
「まだ確認する事もあるため、今ここでどれだけの物をアテトリア王国にというお約束はできませんが、獣王国はリク様に、そしてアテトリア王国に対帝国戦力として助力する事をお約束いたします」
そう宣言するハルさんが、椅子から立ち上がり俺の前に片膝を付く礼をした。
一国の王様が俺なんかに対してそれはいいのかな? と思って戸惑っていると、他の王子様王女様、それに王妃様までもがハルさんと同じように動いた。
「え、えーっと……」
約束してくれるのは嬉しいんですけど、そんなに畏まられたら――と俺が声をかけようとした瞬間の事だった。
「うん、獣王国としての動きとしてはそれが正しいね! 理に背くかの者達は、自然だけでなく獣人にとっても許してはいけない存在だよ!」
と、男性のような力強さと、女性のような柔らかさを持つ、中性的な声が広間に響いた――。
獣王国の協力は取り付けられそうです。
別作品も連載投稿しております。
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