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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移  作者: 龍央


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1912/1954

国や関所によってかかる税金は様々



「は……私共としましては、頭の痛い問題です。一部の商人などは、人が多く押し寄せているのを見てこれ幸いにと商売をしておりますが……」


 困ったように眉根を下げながら、自前のうさ耳の片方を撫でる男性兵士さん、癖なんだろう。

 門の向こうには、大勢の人がいるのが見える。

 獣人の国だからもちろん押し寄せているのは獣人が多く、見事にモフモフな耳や尻尾を持っていてついついそちらに視線が行きがちだけど、一応人間もいる。

 さすがにエルフはいないけど、人間一人に対して獣人五人といった割合かな? パッと見だけど。


 兵士さんの言うように、露天を開いて商売をしている人もいるようで、アテトリア王国側の関所とは違ってこちらはちょっとした街の市場のような雰囲気さえある。

 ただ、関所に押し寄せている人達の多くには緊迫感が漂っていて、落ち着いて買い物などを楽しむと言った様子は少ないけど。


「やっぱり、王都での魔物から逃げるため、ですか?」

「それが大半ですね。各地からというよりも、王都からの避難民が多いのですが……」


 兵士さん達には、アマリーラさん……は威圧的になってしまうので、リネルトさんから簡単に俺達が来た目的は伝えてある。

 王都に魔物が押し寄せているというのはこちらも知っている事のため、こうして話してくれるんだろう。

 本来なら、他国から来たばかりの人に対し、入国の際に話すような事じゃないからね、隠したいとかとは別に、国の一大事を簡単に話せないという意味で。

 ともあれ兵士さんによると、一部避難する際の護衛はいるけどほぼ非戦闘員らしい。


 アマリーラさんは大丈夫だろうと言っていたけど、もし王都内に魔物の侵入を許せば真っ先に被害に遭うのは戦えない人達だから、別の場所に逃がしたんだろう。

 それでも、簡単に出国させず、ひとまず関所で留めている状態で、時折出国したい獣人さんと関所の兵士さんの間で諍いとまでは言わなくとも、押し問答のような事が起こるとか。

 要は関所もピリピリしている状態で、避難民が多いのもあって先程の俺達……というかエルサに対しての警戒だったんだろう。


 そりゃ、避難民を守らないといけないし、不用意に空から近付いてくる相手なんて魔物か? と思われて警戒されるのも無理はないよね。

 王都に行く時は、もう少し気を付けよう――。



 ――兵士さんと話している間に手続きが完了し、荷物を降ろして小さくなったエルサを頭にくっ付けつつ、関所内に入る。

 あのまま、門を通ると騒ぎになりそうだったから、関所内を通って入国をするように配慮してくれたらしい。

 全員で、一部関所の兵士さんに手伝ってもらいながら荷物を運びつつ、関所内を歩く。

 内部は関所という性質上飾り気はなく、単純に通路がそこにあるだけといった雰囲気だ。


 まぁ、関所の内部を装飾で溢れさせても、あまり意味はないからね。

 ちなみに宿泊施設は、個室は無理だけど半分程度は宿泊できるらしい。

 避難民がいるならそれでいっぱいかなと思ったけど、何とかしてくれるみたいだ。

 アマリーラさんがこちらにいる事や、俺がSランクだというのが大きかったとか。


 ちなみに宿泊施設は、このまま関所内を通って行けるわけではなく、兵士さん達が使う通路でひとまず獣王国側に出て、別の入り口から入った場所らしい。

 宿泊者がそのまま獣王国の内外へと自由に出入りできては行けないから、当然と言えば当然か。


「アテトリア王国から獣王国の入出国は、結構楽なのねぇ」


 俺と同じく、ミスリルの矢が詰まった木箱を運びながら、辺りを見回しつつ呟くアンリさん。

 アマリーラさんもそうだけど、アンリさんも女性とはいえ力持ちなので、重い荷物を運ぶ担当になっていたりする。

 アンリさんの場合は、魔力貸与で通常の人間より魔力が多い事からくる、腕力の増加があるからだろう。


「そういえばアンリさんは帝国からアテトリア王国に来たんでしたね。俺はこれが初めての他国の出入りになりますけど、あちらはどうだったんですか?」

「リク君だったら、どちらもそう大差ない……今は別として、通常時なら大きな差はなさそうだけどぉ、Sランクだしぃ」


 ちょっと間延びした感じで話すアンリさんは、リネルトさんと少し似ている。

 声とかは違うんだけど、話すトーンというか喋り方というかね。


「私の場合はぁ、帝国の出国手続きのために二日待たされたわぁ」

「二日ですか? そんなに、帝国から出国しようという人が多かったとかですか?」

「そうじゃないわねぇ。単純に帝国が民の流出を恐れてか、出国して欲しくないという感じだったわねぇ。それでも私はぁ、冒険者だったからなんとか二日程度で出国できたのよねぇ。酷いのだと、それなりに名の知れた商人が、十日待たされているって言っていたわぁ」

「十日も……」

「足止めして、諦めるのを待っていたのでしょうねぇ。結局商機をを逃さないためにって、その商人は袖の下を渡して出国していたわねぇ。手痛い出費とも言っていたけど、それよりも帝国に留まる方が損をすると思ったみたいねぇ」


 袖の下……つまり賄賂かぁ。

 基本的には忌避すべき習慣で、行われるべきではないと思うけど、帝国の状況を考えたら仕方ないのかもしれない。

 末端までちゃんと管理されていないだろうからね。

 今は完全に関所を閉ざして、出入国させないようにされているようだし、ハーロルトさんの報告を聞く限り周囲には魔物が見張っているけど。


「あとぉ、通行税が高かったわぁ」

「通行税ですか? そう言えばそういうのがあってもおかしくありませんね。今回は特になかったので気にしませんでしたけど」

「リク君はSランクだから、冒険者ギルドのある国では基本的に入出国に際しての通行税はないわよぉ。それだけ特別なランクなのよねぇ。まぁ、冒険者ギルドがない、もしくはあっても冷遇されているような場所では、通用しないみたいだけどぉ」


 以前、Sランクになるという話を聞いた時にそれらしい事を聞いた覚えがある。

 ヤンさんやベリエスさんに聞いたんだったっけ……Sランク以上であれば、一部の国々では入出国がほぼ自由みたいなものだとか。

 さすがに手続きなどはする必要はあるだろうけどね。


「ランクによって通行税が変わるのだけどぉ、冒険者だからギルドとの関係上あまり足止めはできなかったんでしょうねぇ。アテトリア王国側の関所ではそんな事はなかったんだけどぉ。そちらでは、簡単な手続きと安い通行税で済んだわぁ」

「そうなんですね」


 さらに聞いてみると、アテトリア王国は冒険者との関係が良いのもあってか、入国の際に多少優遇される措置があるらしい。

 とはいえそれでも通行税や、審査っぽい事はあるらしいけど。

 冒険者じゃなかったら、入国も出国も手続きや審査に一日程度かかるのは通常だとか。

 あと通行税だけど、アテトリア王国ではランクにより銀貨一枚から三枚みたいだ。


 ただ帝国側は、金貨二枚以上だというから驚きだ。

 足止めだけでなく金銭的な面でも、出国させたくないし、入国もかなり厳しくしているのがわかる。

 審査などはちゃんと行われているのかわからないけど……お金を得るための一つの手段とかって可能性もあるか。

 お金に余裕がある人、アンリさんが言っていた商人さんのような例だと、審査という名の足止めを短縮するために賄賂を贈る人とかも、良くいるらしい。


 ちなみにアテトリア王国側の関所では、アンリさんが見た限りではそういう事は行われていなかったらしい。

 兵士さん達がちゃんと管理されているというのもあるだろうけど、単純に審査が迅速である事と、入出国に際して厳しすぎないから必要がないんだろう。


「あと、今回は特命を受けてだから、通行税とかはかかっていないけれどぉ、獣王国に限らず場所によっては少し裏のやり方があるみたいなのよねぇ。私は、帝国からアテトリア王国に渡って、それ以来ずっと別の国に行く事はなかったから、やっていないけどねぇ」

「裏のやり方って聞くと、怪しい気がしますが……悪いやり方じゃないですよね?」


 裏って聞くと、どうしてもいいイメージが湧かない。

 ちなみに今回は王国の女王様からと、冒険者ギルドからの依頼というのもあって全員が通行税は免除されている。

 アテトリア王国の方だけでなく獣王国でもだ。

 俺は、Sランクの特権とやらで元々冒険者ギルドの影響力がある国では、通行税はかからないんだけど。


「そういうんじゃないわよぉ。ただ、どこの国に対しても一律の通行税ってわけじゃないってだけなのよぉ」


 聞いてみると、やり方としてはまっとうと言えなくもない方法だった。

 獣王国は獣人の国で、人間が少ない。

 だから、国によっては敵対とまでは行かなくとも差別的な国もあるんだとか。

 そういう国に面している関所では、そちらの国から入って来る場合の通行税などが高くなっているみたいだね。


 だから、色んな国を旅している人にとっては周知のやり方らしいし、獣王国に限ってではないけど通行税の高い関所を通るのは避けて、安い所まで移動するという方法のようだ。

 まぁ移動にも費用が掛かるし、別の国に行ったりもする事になるわけだから、通行税も合わせた総費用が安くなるかどうか、というのはあまり多くないみたいだけど。

 一部では費用が半分くらいになる効果が期待できる地域もあるんだとか。

 ……あまり俺には縁のありそうな方法ではないけれど。



「関所だから簡素な宿泊施設を想像していたけど、大浴場まであるなんてなぁ」


 アンリさんと話しながら荷物を運び、宿泊施設に案内された俺達。

 入りきらない半分くらいの人達、冒険者さんと兵士さんを半分ずつに分けて、エルサに頼んでアテトリア王国側の関所に運んだあと、大浴場でさっぱりしてから用意された部屋で一息つく。

 獣王国側の関所には兵士さん達である隊長ヴァルドさん、アテトリア王国側には冒険者のまとめ役としてフラッドさんがいてくれるから任せておけば安心だ。

 俺に用意された部屋は、本来アマリーラさんが獣王国の王女様、アマリエーレ王女と気付いた獣人兵士さん達によって用意された個室なんだけど、何故か俺がそこを使うようになってしまった。


 アマリーラさんが、むしろ俺に使ってもらうべきだと強く言って、他の人の話を聞かなかったからだけど……リネルトさんの後押しもあったし。

 王女様が使うはずの個室を占領するのって、ちょっと気が引けるなぁ。

 他の人達は、男女で別れての大部屋だ……少しモニカさん達には申し訳ない気がするね。

 とはいえ、部屋自体は特別豪華というわけではない。


 個室で少し広めという以外は、簡素なベッドにテーブルや椅子がある程で、街の宿屋にもありそうな部屋だ。

 関所だし、元々豪奢な部屋で歓待というのは想定していなんだろう。

 ちなみに関所の兵士さん達をまとめている隊長さん――やっぱりアマリーラさんに剣の腹で殴り飛ばされた人がそうだったけど、その人なども個室を持っているらしいけど、広さはここより狭いらしい。

 ただ、王城ほどではないけど大浴場があって、複数が同時に入浴できる施設もあった……宿泊とは別料金だけども。


「サッパリしたのだわぁ。思いっきり、という程じゃないけど空を飛んだあとのお風呂は気持ちいいのだわぁ。心の洗濯だったのだわぁ」 

「お風呂好きなエルサにも喜んでもらえたなら、獣人さん達も嬉しいと思うよ」


 満足そうにお腹を見せて転がっているエルサのモフモフを梳かしつつ、そう答える。

 エルサを連れて大浴場に入った際、連れてきた人達ももちろんいたけど、それ以外に避難民や獣人兵士さんなどもいた。

 大浴場、というか大衆浴場のようなものだから当然ではあるんだけど、そこで俺がエルサを連れて入って来た事に気付いた獣人さん達が、場所を開けてくれたんだ。

 そんな事しなくても、とは言ったんだけど……大きなエルサが飛んできたのを見ていた人も多く、さらに俺やドラゴンの話が広まっていて、遠慮されてしまったわけだ。


 おかげで、エルサは広い湯舟を泳ぐように浸かる事ができて、今のように大満足だったわけだけども。

 明日からも人や物を乗せて飛んでもらわないといけないから、疲れを癒してもらうのはいい事だろうけどね。


「それにしても、獣人さん達って意外って言うと失礼かもしれないけど、結構お風呂好きなんだなぁ」


 浴場では、多くの獣人さんがお風呂に入っていた。

 女湯の方の状況は当然わからないけど、男湯では俺達より先に入っていたのに、ずっとお湯に浸かって気持ち良さそうにしていた獣人さんが結構いた。

 なんというか、銭湯で長湯をして日頃の疲れを癒しているおじさん方を見ている感じだったなぁ。

 まぁ獣人さん達は若い人もいたけど。


「リクの前いた場所では常識のようなものかもしれないけどだわ、入浴というお湯に体を浸ける文化は、獣人から広まったのだわ」

「え、そうなの?」


 入浴する文化は、地球でも日本だけというわけではないけど、毎日入るような習慣は他の国では少ないと聞いた事がある。

 こちらの世界でも、獅子亭にいた頃はお湯で体を洗うくらいはできたけど、お湯を張って入浴なんてのはできなかった。

 だからてっきり、俺や姉さんのようにこちらの世界に来た人が一部に伝えたのかなと思っていたんだけど。


「誰が広めたかは、リクの想像通りかもしれないし、違うかもしれないのだわ。でも、少なくとも一番入浴する文化に親しみがあって、他国にも広めたのは獣人なのだわ。確かだけどだわ。古い記憶なのだわ」

「エルサが言う程振るい記憶なんだね。でも、獣人って入浴とか嫌いそうなイメージだったんだけどなぁ。もちろん、尻尾や耳のモフモフを維持するために、お風呂で綺麗にするのはいい事だと思うけど」


 獣人さん達、それぞれに個性というか耳や尻尾の形が違う。

 同じ動物の耳や尻尾であっても、少しだけ形が違ったり毛質が違ったりなど様々だけどそれはともかく。

 獣人……獣の性質を一部受け継いでいると考えると、お風呂というかお湯に全身浸かるというのを嫌ったりする習性なんかがあってもおかしくない。

 個人差とかはまぁあるにしても、獣人全体で入浴文化が受け入れられるようなイメージを持っていなかった。


 それこそ、猫とかはお湯というか水を嫌うって聞いた事があるし……お風呂好き猫もいないわけではないんだろうけど。

 犬だってお風呂の好き嫌いは別れるし、どちらかというと嫌いな事が多いイメージだ。


「リクは獣に対するイメージが先行しているのだわ。よく考えてみるのだわ。人間より鼻が利く獣人が、自分の匂いに妨げられるのを嫌うのは当然なのだわ」

「嗅覚を頼りにするなら、そういう事もある……のかな?」


 でもむしろ、嫌な臭いじゃなければ自分の匂いが洗い流されるのを嫌って、お風呂上りにわざわざ体を汚すような行動をする動物もいるって言うし。

 いや、汚すというのは言い過ぎか。

 ただそれも、俺の偏った獣に対するイメージの先行なんだろう、エルサの言う通りにね。

 獣人さん達への認識を、改める必要があるようだ。


 アマリーラさん達とは一緒にいる事が多くなったけど、さらに獣人さんに囲まれる場所に入ったんだ。

 偏見を持って失礼な事を言わないように気を付けなきゃな――。




この世界の入浴文化は獣人が発祥で、入浴好きな獣人が多いみたいです。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

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