リクの訓練
「うむぅ、最初はそのつもりだったのじゃがな。興が乗ったというか……向こうも異様に士気が高くてのう。あと、ユノ組とアマリーラ組が、少々調子に乗ったのもあるじゃろう」
「調子に乗った、といのは見ればなんとなくわかりますけど。止めて欲しかったです」
「……ワシも、久々に多くの冒険者に囲まれて、血が騒いだのもあるかのう」
「エアラハールさんも、ユノ達側じゃないですか……はぁ」
異様に士気が高い、というのは全身を震わせながらも立とうとしている人が何人かいるようだし、なんとなくわかる。
まぁクラン始動前の顔合わせやらなにやらでも、やる気がみなぎっていたようだしね。
それはともかく、ユノ達がやり過ぎてしまうというのは予想通りだけど、エアラハールさんは止める側になって欲しかったなぁ。
かなりの高齢に見えるのに、よく飲み歩いているようだし、女性のお尻やらを狙ったりと元気過ぎるくらいだから、むしろはしゃぐ側だったか。
訓練時は基本的に冷静に俺やモニカさん達の指導をしてくれているから、忘れてたけど。
「だがリク、私達も受ける側だったが、いつもやっているよりはまだましな方だったぞ? まぁさすがに、ユノやロジーナを相手にというのは、私とフィネではなんともならなかったが……」
「どうして、一つの木剣が同時に左右から迫って来るのでしょう……あれは防げません」
「あー、そ、そうなんだ……」
話に加わるソフィー……フィネさんはユノ達とも模擬戦をしたんだろう、うんうんうなりながら思い返しているようだ。
ソフィー達は今モニカさんはいないけど、いつもはアマリーラさんとリネルトさん相手に、ほぼ全力での模擬戦を主体に訓練しているからね。
確かに、他の冒険者さん達からするとすぐに立てなくなるようなハードな事でも、いつも程ではないのかもしれない……慣れもあるんだろうけど。
ちなみに、フィネさんが言う左右同時に木剣が迫るというのは、ユノが俺に対してよくやる高速の剣技と言うかなんというか。
単純に目で追えないくらいの速度で、右と左をほとんど時間差なく打ち付ける技というかなんというか、なしろものなんだけどね。
初めて見た時は、俺もフィネさんのように悩んだし、絶対に防げないと思っていたくらいだ。
右と左、どちらから来るかはその時次第だし、角度も毎回違うし、片方を防いでももう片方に当たるし……さらにそれに慣れたら今度は三連撃、と思いきやロジーナと同時に繰り出して来たりして。
今では最大十二連撃になっていて、俺も全て防げないくらいだし、余力を残してそうだから多分さらにその上もありそうだ。
技術以前に、腕が消えたようにも見えるあの速度は人間が出していい早さじゃないと思うんだ、完全な人間ではないんだろうけど。
「そんな事より、リクもやるの。今日はまだ訓練していないの」
「ほら準備しなさい。そこらに転がってるのだけじゃ、私もスッキリしないの」
「いやまぁ、少しくらいはやって行こうかなって思ったけど……って、ロジーナはただストレス解消したいだけじゃないか!」
クランの正式始動の初日だからと、今日はまだ訓練はしていないし、様子見ついでに俺も少しくらいはと思ってはいたから、それはいいんだけど。
ただロジーナの場合は、むしろ訓練がストレス解消とか遊びの延長みたいになっているんだよなぁ。
俺を何度も打ち据えるのはいつもの訓練だけど、そのうえでユノより数が多い日はとても幼い少女とは思えないくらい、妖しい笑顔を見せるし。
見た目相応じゃないのはわかっていても、あれはちょっとどうかと思う。
「とりあえず、今日は軽めでお願い。まだやる事があるし」
「仕方ないの。じゃあ、いつもの半分くらいにしておくの」
半分くらいって事は、三連撃くらいにするって意味かな? それとも訓練そのもので発揮する力を半分にって事かな?
ブンブンと持っている木剣を振り回し、見た目通りの女の子が遊んでいる風にしか見えないユノからは、どちらなのかが窺えない。
いつもの事だけど、打ち身が増えるのは覚悟しておいた方が良さそうだ。
「まぁ、他のよりはスッキリしそうだから、今日の所はそれで我慢してあげるわ」
ロジーナは、俺の訓練というのをそろそろ忘れているんじゃないだろうか?
「ではリク、これを使うといじゃろう」
「あぁ、はい……ありがとうございます」
というわけで、話しが逸れたからか少し安心した様子のエアラハールさんから木剣を受け取り、ユノやロジーナと対峙する。
俺の訓練だからなのか、さっきまでザワザワしていた訓練場が静まり返る。
立てるくらいには回復してなくても、壁付近にいる冒険者さん達全員がこちらに注目しているのが、なんとなくわかった。
ただその中で、アマリーラさんとリネルトさんが何やらエアラハールさんに耳打ちされているのが特に気になるんだけど……聞こえないので何を言われているかわからないな。
「リク、こっちに集中するのっ!」
「っ!!」
模擬戦とはいえ、実戦的な訓練。
いつもそうだけど「始め」などの合図はなしに、他へと意識を向けていた俺へユノが迫る。
数メートルはあった距離を一瞬で詰めたユノが、右斜め下からすくい上げるように振るう木剣を、俺の木剣が弾いた。
身長差があるから、上から振りかぶるよりも下からの攻撃の方が、捌きにくいんだよなぁ……そのあたり、ユノやロジーナはよくわかっているようで、訓練中何度も注意がおろそかになった瞬間を狙って、下からの攻撃でなんども痛い目にあっている。
「最初は良くても、次もあるのよっ!」
「くぅっ!」
ユノの木剣を弾いたと思ったら、今度はロジーナ。
剣を大きく弾かれたユノの後ろから俺に飛び掛かるのを、ユノの木剣を弾いて泳ぎ気味だった体を無理矢理制御し、振り下ろされるロジーナの攻撃を受け止める。
下かと思えば上、しかもユノとロジーナは仲が悪そうに見えて連携がうまい。
お互いの対格差などもよくわかっているようで、ユノの陰に隠れてロジーナが奇襲をかける事もよくあった。
「まだまだっ!」
「ちょ、まっ!」
さらに今度はユノが俺の横腹を狙って左からの薙ぎ払い……いや違う!
ロジーナの攻撃を受け止めた木剣を力任せに振りぬき、慌てて防御しつつ右手の甲で逆からの攻撃を防ぎ、さらに真下から振り上げられる木剣を後ろに飛んで避けた。
三連撃……感覚的には同時、だけど実際にはほんのわずかな時間差があるのを、それぞれ防ぎ、避ける。
一度受けて終わりじゃないうえ、早さが尋常じゃないので同時に防御や回避を考えなければいけないのが厄介だけど、なんとかできるようになってきた。
「っ!」
後ろに回避した俺に対し、眼前をユノの木剣が通り過ぎて行った瞬間、次はいつの間にか態勢を整えたロジーナからの袈裟切り……からの逆袈裟と突き。
それをなんとか防ぎつつ、大きく距離を取ろうと後ろに飛ぶ俺に、今度はユノとロジーナが同時に迫る!
右、下、左、上、右斜め下、左斜め下……ユノ、ロジーナ、ユノ、ロジーナ――と交互に三連撃ずつの計六連撃。
三連撃を二回の後は、六連撃かよ!!
開始直後からトップスピードの二人に舌を巻きつつ、弾く、防ぐ、間一髪で避け、なんとか凌ぐ。
「これくらいなら、なんとか対応できるように……っ!?」
ユノとロジーナ、それぞれの最後の一撃を大きく弾いて態勢を崩し、さらに大きく距離を取って一息……と思った俺に、左右からかげが躍り出た!
鋭い薙ぎ払いは左から――受け流す俺に右からは力強く振り下ろされる大きな木剣。
自分の木剣の腹で受け止め、巻き込むように回転しつつ地面に打ち付けさせる。
その隙を狙った、さらに鋭い突きは飛び上がって足を巻き付けてへし折った。
「木剣相手だからできる事だけど、まさかアマリーラさんとリネルトさんが参加してくるのは驚きましたよ」
「ユノ様達が加減をするのであれば、との事なので我々もと」
「間髪入れずに対処できるかの訓練だそうですよぉ」
「……最初から言っておいてほしかったです。けどまぁ、それだと訓練にならない、とか言うんでしょうね」
溜め息混じりに言いつつ、態勢を崩されて地面に手をついている二人、アマリーラさんとリネルトさん。
左から薙ぎ払いで飛び込んできたのがリネルトさんで、大きな木剣を振り下ろしてきたのがアマリーラさんだ。
意表をついた形の攻撃を防がれたのに、嬉しそうなアマリーラさんと、苦笑しながら折れた木剣を新しい物と交換するリネルトさん。
四対一って、いつもの訓練より厳しい気がするんだけど……ユノとロジーナが半分くらいと考えれば、そうでもないのかな?
いや、単純に数が増えるだけでも相当難しい訓練になるはずだし、簡単にどちらがとかは比較できないか。
というか、今日は少しだけと思っていたんだけどなぁ……かなりしんどい事になりそうで、二つ三つの打ち身が増える覚悟だけじゃ足りなさそうだなぁ。
俺が言っても、この人達というかユノ達は特に止まらなさそうだし。
とりあえずは満足いくまで、やるしかないって事だろう……はぁ。
「油断は禁物なのっ!」
「くっ!」
内心で溜め息を吐く俺に対し、下から潜るような低い姿勢で迫るユノ。
身長が低い利点を生かしてだろう、下に集中する攻撃はかなり防ぎづらい。
左右に二回ずつ、計四連撃のうち一回……いや、二回防ぎきれず鋭い痛みを覚えて顔を歪ませつつ、態勢を整える。
「せぇいっ!」
「っ!」
息を吐く暇もなく、今度は少し離れた場所で大きめの木剣を思いっきり振るうアマリーラさん。
その木剣に乗っていたロジーナが射出された!
「ちょっ!?」
以前魔物を相手にする時、似たような事をしたけど、俺一人に対してそんな攻撃をするか!?
などと突っ込む余裕もなく、とんでもない速度で迫るロジーナ。
そのまま直撃したら、木剣でも深々と突き刺さって体に大きな穴が開きそうな勢いだ。
「くぬっ……!」
体勢を崩しつつ、服の端に通り過ぎるロジーナの木剣に当たりつつも、なんとか回避。
だけど……。
「ふぅっ!」
「っ!」
今度はリネルトさんが走り込んできて木剣を繰り出す!
さっき木剣を折ったのに、いつの間にか新しいのと取り換えていたみたいだ。
「……つあっ!」
「むむぅ、惜しかったですぅ」
なんとか、自分の木剣を動かして体制が崩れている状態ながらも、上下の攻撃を防いだ。
悔しそうな声色をにじませているリネルトさんだけど、いつの間に二連撃を習得したのか。
今の上下の攻撃、ほとんど時間差がなく襲い掛かって来たんだけど……。
「まだまだ練習が必要なの。今のは、一撃目が弱かったの。逃げ決めに意識が向き過ぎなの」
「はいっ!」
なんて、防がれ、弾かれたリネルトさんに助言をしているユノ。
確かにユノやロジーナのような鋭さというか、脅威は低かったように思うけど……でも、スピードタイプのリネルトさんとは相性が良さそうだし、いつかは完全に習得するんだろうな。
なんて考えている間にも、ロジーナを射出したアマリーラさんからの攻撃。
それを避けると、今度は着地してすぐこちらに切り返したロジーナ、さらにユノ、リネルトさんからも続けての攻撃。
防ぐ、避ける、でも全ては捌けずに当たるなどを繰り返し、俺が息を吐く暇もない程前後左右からの攻撃にさらされる。
軽めに訓練を、と思ったのに本格的すぎやしないかな?
というか、ユノとロジーナが加減をしているとはいえ、アマリーラさんとリネルトさんが加わっているから、むしろいつもより厳しくなっているし、しくじって打ち据えられる回数も増えている。
リネルトさんはちょっとした隙にとんでもない速度で踏み込んでくるし、しかも絶妙に防ぎにくい場所を狙われる。
さらにアマリーラさんは、その膂力で受け止めた俺の木剣ごと弾き飛ばそうとするくらいの攻撃だ。
俺が攻撃に転じる隙なんて全然なく、ずっと防戦一方、何とかしのぐだけで精いっぱいだった――。
「そこまでじゃ!」
「はぁ、はぁ……あ、ありがとうございました……」
どれだけの間、攻撃を防ぎ続けていたのか……しばらく続いた、俺への激しい攻めはエアラハールさんの声で終わりを告げられた。
流れる汗をぬぐう余力もなく、荒い息を吐きながら木剣を収め、相手になってくれたユノ達に終わりの挨拶をする。
ユノやロジーナ、アマリーラさんとリネルトさんも同じく、木剣を収めてそれぞれに一言挨拶をして終わった。
「はぁ、はぁ……ふぅ。いててて……また打ち身が増えたなぁ」
「はい、リクさん」
「あぁ、ありがとうモニカさん」
全身のあちこちから感じる痛みに顔をしかめつつ、モニカさんから差し出されるタオルで汗を拭う。
終盤の方で、ユノ達が協力してアマリーラさんの一撃を入れられた部分が一番痛い。
当たる瞬間に、意識をして魔力を集中したけどそれでもズキズキと痛む……打ち身というか、字になっていないといいけど。
「「「「……」」」」
「あー、えーっと……?」
とりあえず息を整え、汗を拭き終わってから、今更ながらに訓練場が静まり返っている事に気付く。
どうしたのかと周囲を見回してみるけど、一部を除いてポカンとしているようだ。
「私達は近くで見て慣れているけど、皆初めてリクさんの訓練を見て、驚いているのよ」
「そ、そうなんだ……」
俺の様子に気付いたモニカさん。
その言葉を肯定するように、何人かがコクコクと頷いていた。
ちなみにユノはいい運動をしたとばかりの笑みで、アマリーラさんとリネルトさんはエアラハールさんを交えて何やら話し込んでいる様子……さっきの訓練の振り返りみたいな事をしているようだ。
ロジーナはレッタさんに汗を拭われていて、周囲の状況は気にしていないみたいだね。
「あれに参加できるアマリーラさんとリネルトさんも凄いですが、あれだけの攻めを受けても経っていられるリク様はやはり凄いとしか言えませんね」
「まぁな。私もいずれはという思いはあるが……とはいえ、一部は私達とそう大きく変わらない、もしくはそれ以上のもいたが」
「そうなの?」
「あぁ。ほとんどがリクが来る前に立てなくなるくらいだったが、それは慣れていないからというのも大きいだろうな。私やフィネはリクとユノ達の訓練を近くで見ているし、アマリーラさんやリネルトさんとはいつも訓練をしているからな」
そう言うソフィーに頷くフィネさん。
二人はモニカさんもそうだけど、アマリーラさん達と日頃訓練をしているからね。
ユノ達を相手にするのはほとんどないけど、それでも近くで見ているのもあって、他の冒険者さん達のように立てなくなるような事はなかったってわけか。
後で聞いた話だと、エアラハールさんやリネルトさんはある程度加減を考えてやってくれていたみたいだけど、アマリーラさんが力を入れすぎたり、ユノとロジーナが笑いながら襲い掛かってきたりとで、心が折れた部分もあったらしい。
アマリーラさんの一撃は重い、と一言で済ませられる程じゃないので、木剣であっても直撃したら即立てなくなりそうというのもある。
ソフィー達はある程度慣れている分、それを避けるのが上手いとか、立ち上がれなくなる程の直撃は避けられているってとこだろう。
あと、小さい女の子にしか見えないユノ達が笑いながら襲い掛かるって、軽く想像しても結構な迫力というか……怖さがあるからね。
なんて考えていると、一部以外は動こうともしない状態の訓練場で、ソフィーが大きく手を叩いて、冒険者さん達の注目を集めた――。
リクの訓練は、見た事のない冒険者さん達からすると呆然とするくらい激しい物だったようです。
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