拠点突入作戦
「さすがに王都の中で、というのは考えにくいですけど……地下を掘って逃げる可能性とかは考えられませんか? ほら、地下には迷路という通路があるわけですし」
ふと思い出した、王都の地下通路。
本来は王族などもしもの時に、国の重要人物を外へ逃がすためのものだ。
何度か使わせてもらったけど、迷路のようなあれは王都やその外に張り巡らされてもいるようだった。
それを使うとは限らないけど、同じように地下を掘って外に逃げる道を作っている可能性もないとは言えない。
ツヴァイのいた研究所のように、大きな施設を地下に作るくらいだしね……。
ある程度掘り進めれば、地下通路と繋がる可能性もあるわけで。
「その可能性はもちろん考えているぞ。あちらの方にも、情報部隊を通して兵を配置してある。おそらくだが、今頃はこの下にも大勢の兵がいるはずだ。……あまり多くの兵を通路に入れると、問題があるのだが……陛下はあまりお気になさらないようだ。まぁ、潰して新しい通路を作るなりで、構造をいじるのもお考えなのだろう」
「な、成る程」
コツコツ、とつま先で地面を軽くつつくヴェンツェルさん。
地下通路は王族などが逃げるためのものなので、多くの人に知られる……少なくとも存在はともかく、内部の構造を知られるのはいい事とは言えないんだろう。
だから、今回使われた通路の一部は埋められて、別の通路を作って構造をさらに複雑化させるなどの対処をするってところか。
「というわけでだ、地上も地下も人や魔物を逃がさないように配置している。万全だ。さて、突入に関してだが……私とリク殿。それから後詰めで兵士数名と……」
「私達も行きます。後方からになりますけど、リクさんを後方から支援するのは慣れていますから」
「わかった。では……」
「私は、リクとヴェンツェル様と共に突入組になります」
突入の布陣を決め、動き出そうとする前にフィリーナが手を挙げて提案。
「む? だが、フィリーナ殿は魔法での支援の方が良いのではないか? 以前もそうだったようにな」
ツヴァイの地下研究施設に突入した時は、フィリーナがその特別な目と魔法を使って後方支援役、さらにある程度兵士さん達の指揮もしていたからね。
俺もヴェンツェルさんと同じく、今回もその方がいいんじゃないかと思うんだけど……。
「あの建物を見る限り、以前のようにする必要はないでしょうしできません。それにあそこには爆発する処理の施された人間がいる可能性が高い。それなら、魔力を目で捉えれる私が一緒の方がと」
「ふむ、成る程。リク殿はどう思う? 私は構わんが」
「そうですね、フィリーナの目は頼りになるので、見てもらった方がいいと思います。俺とヴェンツェルさんのすぐ後ろから、何か見つけたら教えてもらうという形がいいんじゃないかと」
「わかった。それでは、頼むフィリーナ殿」
「はい」
フィリーナも俺やヴェンツェルさんと同じく、最初に突入する組に参加が決定。
とはいえ、見る限り家の入口は狭そうなので一人ずつになるだろうけど……俺とフィリーナなら並んでは入れなくもないだろうけど、大柄なヴェンツェルさんは無理だしね。
ヴェンツェルさんが周囲にいる他の兵士さんに何やら指示を飛ばし、俺達も一緒に突入する事も含めてその時に備える。
俺の後ろでは、モニカさん達が小さな声で話していた。
「私達はリクさんの後方、というより少し後に入るわけだけど……ごめんなさい、私はあまりあぁいう家の中への突入ではあまり役に立てそうにないわ」
「それは仕方ない。私だって、剣を振り回すのは屋内では少々難しそうだからな。槍となるともっとだ」
「一応、こういった場合に備えて短い武器の扱いは教えられているけど、役に立つかどうかはわからないわ」
「まぁ、リク様方が先頭になるのであれば、私達はあまりお役に立てる事はないでしょうが、もしもの時は私にお任せ下さい」
などなど、それぞれ自分達の武器を持って話している。
考えてみれば、モニカさんの槍は限定された空間だと取り扱いが難しすぎるんだろうね。
剣も同じくで、一番マシっぽのはフィネさんの斧かな……リーチが短めな分、剣や槍より取り回しは楽そうだ。
まぁ、その分重量もあるから、ちゃんと訓練している人じゃないと家の中で扱えないだろうけど。
それぞれ、こういった場合に備えて小刀というか、ナイフだとかそれに近い小さく短い武器の扱い、とかも一応エアラハールさんから習っているようだけど、まだちゃんと扱える程ではないみたいだしね。
「そういえば、フィリーナは弓をよく使うけど……さすがに今回は無理かな」
「えぇ。だから私は魔法を使うわ。幸い、私がよく使う魔法は屋内でも……いえ、むしろ屋内の方が使いやすいから」
フィリーナがよく使うのは風を操る系の魔法。
屋内でも割と自在に使える部類なんだろう。
モニカさんがよく使う炎の魔法とかは延焼の可能性があって、周囲や俺達も巻き込みかねないし、他の魔法もあまり屋内で使うのには向いていないか。
「とりあえず、私自身も備えておくから安心して。リクとヴェンツェル様は、私の事は気にせず進んでくれていいわ」
「わかった。でもまぁ、もし危ない時は助けるよ。それが仲間だしね」
「えぇ。邪魔にならない程度にリクの傍に付いておく事にするわ」
そんな話をフィリーナとしていると、兵士さん達と話していたヴェンツェルさんがこちらを向いた。
「そろそろ、良さそうだ。包囲もかなり狭めているし、向こうに気付かれていたとしても、突入する頃合いだろう」
「はい、わかりました」
ヴェンツェルさんの言葉に、皆で一度顔を見合わせて頷いた。
「特にリク殿が何かをというわけでないのなら、私が先に突入するが……?」
「構いません。ヴェンツェルさんに続いて、俺もフィリーナも突入しますから」
「わかった」
あまり家の窓などから見られないよう、壁などに隠れつつ移動して玄関に近付く。
俺とフィリーナの後ろには、少し間を開けてモニカさん達、さらに武装した兵士さん達もついてきている。
ヴェンツェルさんや俺達が突入した後は、ちょっと待ってから兵士さんやモニカさんが突入する事になっている。
まぁ要は、大まかに俺達が家の中を進んで調べて、後詰めでモニカさんや兵士さん達がくまなく調べるってところだね。
「……ちょっと待って下さい。これは……少し、広めの空間かしら?」
「どうしたの、フィリーナ?」
「む?」
いざヴェンツェルさんが家の玄関へ……と向かおうとするのを、寸前でフィリーナが止めた。
何やら家を凝視しつつ訝しげな表情。
「直接見ていないからわかりませんけど、どうやら家の中、一階の奥に少し広めの部屋があるようです。これくらいの規模の家としては少し不自然です。おそらく、壁を取り除くか何かで作った部屋だと思われます」
「成る程、そこに人を集めるなりして、企みを進めているのだな。他には何か気になる点は?」
「中には行ってみないとはっきりわかりませんが……多分地下もあるかと。ただ、地価の通路にまで通じているかまではわかりません。ここから魔力の動きを見る限りでは、あまり広い空間とも言えないようです」
「成る程な……」
「どうします?」
「んーむ……まずはそのフィリーナ殿が言っている広い部屋だな。そちらを調べて、おそらく人が多くいるのだろう?」
「どういった人がいるか、魔力のおかしな点等まではまだわかりませんが、十人程度はいるようです」
「わかった。まずはそこへ向かおう。それから、地下を調べる事にする」
「わかりました」
「フィリーナ殿、案内は任せても?」
「はい。中に入れば、もっと詳しくわかりますので問題なく。家の中も、広い部屋がある以外はこれと言って変わった点もなさそうですし」
まぁ規模からして広い部屋を作るだけで精いっぱいだったんだろうから、入り組んだ構造にするのは無理だろうしね。
というかそんな規模で改装していたら、色々怪しまれそうだ。
王都の家など、建築様式は多少時期によって違ったりはするけど、内部の構造は大きく変わらない。
大体部屋が家の大きさに合わせていくつかと、竈などを備えた土間、それらを繋ぐ廊下と階段ってところだ。
要は、人の動きがある程度魔力の動きを通してわかるフィリーナなら、初めて入る家でも案内は簡単って事だね。
俺が探知魔法を使っているのとそう変わらない。
「……」
「「……」」
とりあえずの方針を小声で決めた後は、さらに玄関へと近づく。
突入直前なので声に出さず、身振りで突入の意思を伝えるヴェンツェルさんに対し、俺とフィリーナが頷いた。
……こういう時、突入時になんて声をかけるんだろう? なんて緊張感のないい疑問が浮かんでくる。
時代劇とかだと「御用改めである!」とかだっけ? 警察物のドラマだとそのまま「警察だ!おとなしく――」みたいな感じだったと思うけど……。
なんてどうでもいい事を考えている俺をよそに、ヴェンツェルさんが玄関の扉の前に張り付き、中の様子を窺う。
「……」
こちらに視線をやって頷くヴェンツェルさんに、もう一度こちらからも頷きを返した。
そして……一度大きく息を吸い込んだヴェンツェルさんが、足を持ちあげ……。
「ぬらぁ!」
「っ!?」
裂帛の気合と共に吐き出される叫びと、力任せの前蹴りが放たれた。
突入するわけだから、荒っぽい入り方をするのはわかってはいたけど……扉が施錠されているかの確認もなく最初から蹴破るとは……驚いた。
「アテトリア王国総軍、司令統括大将軍ヴェンツェル・シュレーカーだ! 中にいる者は全て捕縛する! 抵抗する者には容赦しない!!」
あっけなく砕け散るように蹴破られた扉、そこに一歩入ったヴェンツェルさんが名乗りを上げた。
その名乗りには心臓の弱い人なら倒れてしまうんじゃないだろうか? と思うくらいの気迫が込められており、近くにいる俺達の周囲の空気どころか、体にまで振動として伝わるくらいだ。
まぁ声が大きくてって事もあるだろうけど……というか、ヴェンツェルさんの役職をはっきり聞くのって初めてだったっけ。
「大」将軍だったんだ……いや、大が付くかつかないかで何が違うのかはわからないけど。
「行くわよ、リク」
「うん!」
考えている間にも、ヴェンツェルさんが短めの剣を抜いて中に踏み込む。
それについて行くように、俺とフィリーナも家の中へと踏み込んだ。
フィリーナは目を細めて中の様子を探るように、俺はヴェンツェルさんと同じく何が起こっても対処できるように、剣を抜きながら……こんな時でも、錆びた剣なのはちょっと見栄えが良くないけど。
白い剣の方だと、フィリーナ達との距離が近くて危険だからね。
「……意気込んで踏み込んだはいいですけど、特に何も起きませんね」
「気配はするのだがな。これ程までに反応がないという事は、何かがあると言っているようなものでもある」
「ですね」
玄関の扉から踏み込んだ先はすぐに一段上がって廊下になっている。
奥へまっすぐ進む廊下は、左右にいくつかの部屋の扉が見えるけど、人が出て来る事もない。
廊下は隅の方に埃が溜まっているのが見え、壁も含めて使い古されたというか……はっきり言うとかなりぼろい状態だ。
多分廃墟とか使われていない建物に入り込んでという事なんだろう。
とはいえ隅に埃があるだけで、人が通って使われている形跡もある。
屋内の扉と違って、厚めに作られている玄関をヴェンツェルさんが蹴破り、さらに名乗りを上げたのにも無反応で誰も出て来ないというのは、逆に踏み込まれるのを予想していたと思って良さそうだ。
関係ない人や、廃墟に野盗などのただの悪人が入り込んでいる、というだけなら驚いて出て来るだろうし。
「フィリーナ、どう?」
「奥の方、さっきも言った広い部屋に十人程度が集まっていると思うわ。他にも、途中の部屋に数人ずつかしら。あと、複数の魔力を持つ者も、途中にはいないようね。ただ、奥にいる可能性はあるけど、まだそこまではっきり見えないわ」
「奥に行かないとそこはわからないか。まぁ途中にいない事がわかっただけでも助かるよ」
フィリーナに聞いてみると、人がいるのは間違いないらしい。
気配はなんとなくヴェンツェルさんの言う通り感じるけど、それでも物音がしないのは入ってきた俺達を迎え撃つために息を潜めているからなのかなんなのか……。
ともあれ、爆発するような危険な人物が途中にいないのがわかっただけでも、フィリーナが一緒にいてくれる意味があると思う。
いつ爆発するともしれない相手を、こちらから向かって行くのは中々精神的にきついからね。
どこにいるかがわかれば、後は途中でとびかかってきたりなど襲われるのを警戒するだけでいいし。
まぁ、それも結構神経を使うんだけど。
「私が先に行こう。フィリーナ殿を挟んで、リク殿は後ろに」
「わかりました」
殿を任され、ゆっくりと廊下を進む。
廊下はぽっかりと口を開けて玄関だった名残を残している出入口とは違い、少し広めではあったけどやっぱり人が二人並んで歩くには少し狭い。
できなくはないけど、戦闘となると動きづらいから一列に並ぶ形だね。
一応、廊下の途中にある扉から、人が出て来るのも警戒しつつ、廊下を進んでつきあたりに差し掛かる。
「右へ行って下さい。左は人はいるようですけど、特に何も。目標の広い部屋は右です」
「わかった。しかし、どこからも何も襲ってこんな……」
「そんな残念そうに言わなくても」
ヴェンツェルさんは突入してすぐ、襲い掛かって来るとかで戦闘になると期待していたんだろうか?
少し残念そうに小声で呟くのを、フィリーナに従って右に曲がりつつ突っ込む。
後ろの方では、バタバタと大きな音が響き始めたから、モニカさんや兵士さん達が突入を始めたんだろう。
「……後続の突入組の方が当たりだったか?」
「戦う事が当たりみたいに言わないで下さい。ほら、もうすぐみたいですよ」
後続の人達が突入後すぐ、強引に扉を開ける音、騒ぐ声や金属音などが聞こえ始めた。
それを聞いて、なんとなく通って来た廊下に名残を見せるヴェンツェルさん。
おそらく、フィリーナが言っていた途中の部屋にいた人達と兵士さん達のが取り押さえる、または戦闘する音なんだろうけど……ヴェンツェルさん、暴れたいのかな。
ともあれ、フィリーナが無言で俺とヴェンツェルさんに伝えるように身振りで示して、激しい音が後ろから響く中、足を止める俺達。
というか、何故途中で俺達を襲ってこなかったんだろうか……? もしかして、息を潜めて俺達が通り過ぎてから、逃げ出そうとかそういうつもりだったのかな?
まぁ狙いはわからないけど、とりあえず奥の方まではすんなり来れて、少し残念そうなヴェンツェルさんはともかく、楽ができたと思う。
荒っぽく突入はしたけど、戦いばかりを望んでいるわけじゃないからね。
ともかく……立ち止まった先を見る俺達。
そこには、誰かがいたわけではないけど、誰も通さないという意思を感じるような、平均的な家の中にあるには不釣り合いで異様とも言える、分厚い金属の扉が行く手を阻んでいた――。
何かがあると言っているかのように、厳重な扉が姿を現したようです。
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