クラン発足手続きと緊急報告
「ん……っと、よし! できました」
「はいはーい、確認させていただくわねー」
「こちらもできました」
フィリーナとの話から二日後、王城敷地内の冒険者ギルド簡易支部にあるマティルデさんの執務室にでモニカさんと二人、複数の書類を確認し、色々と書き込んでいた。
クランの手続きのための書類で、クランを率いるパーティリーダーである俺と、こういった事に強いモニカさんが担当してやっているってわけだね。
モニカさんと俺が書いた書類はマティルデさんに渡され、黙々と確認してもらっている。
クランの建物を見に行ってから、ほとんどその準備のために費やして結構忙しかったけど、それも今書いた書類に不備がなければようやく終わりだ。
建物の方では、中に入れる家具などの調整だけでなく、所属してくれる冒険者さん達全員が到着した事での面通しなどもしていた。
まぁさすがに、まだ全員勢ぞろいという事はしていないんだけど、それはまぁクランが始動してからだね。
多分初日とかに全員を集めて……みたいな事をするようだし。
なんとなく他人事なのは、俺が決めたわけではなくて最初が大事と言われて頷いたからだったりするけど。
要は、決起集会というかこれから始めるんだぞと気合を入れつつ、俺の顔を皆に覚えてもらうための行事みたいなものだね。
クランの建物前に多くの所属予定冒険者さん達が集まってけど、まだ全員じゃなかったし、直接会った事のない人もいるから。
ちなみに、後続など予定者は全員王都に集まっているんだけど、面通ししたのはパーティ単位でのリーダーのみ。
ソロなどで活動している人はその人だけど、パーティ全員だとさすがに数が多いので、リーダーのみを集めて面通ししたってわけだ。
まぁ大体一パーティにつき体感で十分くらい、お互いの自己紹介をしながら少し話す程度だけども。
冒険者さん達の活動実績の確認も多少はかねていたかな? ただ冒険者ギルドが選別した人達ばかりなのもあって、皆真面目で実績などにおかしな点とか怪しく見える人はいなかったから、簡単に済んだけど。
……実績や言動などはいいとして、見た目というか恰好が微妙に怪しい人……妖しいと言った方がいいかな? そういう人はいたけどね。
クランの建物前に集まった時に見かけた、鞭を持った地位とは別の意味での女王様っぽい人とか……あの人、自分のパーティの人達を下僕達って呼んでいたし、呼ばれる方も喜んでいるらしかった。
……人の趣味にはとやかく言わないでおいた方がいいだろう。
短い時間だったけど、話してみると結構パーティメンバーを大事にしている人のようだったし、見た目やイメージ通りの傲慢で本当に下僕のような扱いをしているようではないのは、実績からもちゃんとわかったからね。
「……ん、お疲れ様。クラン発足の手続きに関しては、これでリク君達の方は終わりね。こちらから中央に報告だのがるけど、それは私の仕事だしリク君なら特に問題ないでしょう。そもそも、こちらから持ち掛けた話だし、最年少最速のAランク昇格が今では、Sランクなんだからね。文句の言いようがないし、向こうも歓迎するわ」
「そ、そうですか……はぁ……やっと終わったぁ……!」
マティルデさんの言葉を受けて、書類の不備などもなくクランの発足手続きが滞りなく終わった。
それに伴い、大きく息を吐きつつ、椅子に座ったままだけど両手を挙げて体を伸ばす。
訓練はあったし、クランの建物と行き来してずっと机にかじりついていたという程ではないけど、どちらかというと苦手な書類関係が多かったから、肩とか首が少しだけ固くなっている。
面通しの際にも、実績などの確認のために情報の書かれた書類を読み込んだりもしていたしね。
ちなみにマティルデさんが言っている中央というのは、アテトリア王国の中央冒険者ギルドではなく、冒険者ギルド全体を束ねる本部という意味での中央だろう。
そちらでも、俺の事は色々と話題になっているらしい。
……数少ないSランクに昇格が認められているんだから、話題に上るのも当然なのかもしれないけど。
「そうね。ここしばらくはずっと、書類と睨めっこだったし……ん、肩が凝ってしまったわね」
「俺もだよ。まぁ、モニカさんはちょっと……いや、なんでもないよ」
モニカさんも俺と同じく、体を伸ばして解しつつ、腕を回している……けど、モニカさんの場合は書類関係だけでなく、その立派な胸部装甲が原因の一旦な気もするけど……。
上体を逸らして強調されているそれを、あまり見続けるのも失礼だと思い、気力を総動員して視線を逸らしつつ、変に触れてしまいそうな言葉を首を振って誤魔化しておく。
「……私も結構自信があった方だけど、上には上がいるものね」
などと、マティルデさんがモニカさんの体の一部をマジマジと見つつ、呟いている。
マティルデさん……女性同士でもセクハラって成立してしまうんですよ……?
この世界にセクハラって概念があるのか知らないけど。
凝った体を解すのに夢中で、さらに書類関係からの解放感もあるんだろう、その視線にモニカさんが気付いていなさそうだ。
「え、えーっと、それじゃあとは実際にクランが始動する日ですけど……」
とりあえず、話しを逸らすというか意識を変えるために、本題というか話しておくべき事へと話題を移す。
このままモニカさんのあれこれを考えていると、変な方向に行ってしまうだろうから。
もう行ってしまっているというのは考えない。
「あぁそうね。中央への報告は出すけど、向こうからの返答を待たなくてもいいだろうから……三日後かしらね。こちらでも、色々と準備があるし」
「わかりました、三日後ですね」
「えぇ。それまでには、こちらから出向させる職員の準備もさせておくわ。はぁ、こういうのは私じゃなくて、ミルダの方が得意なのだけど。早く帰って来ないかしら?」
「ミルダさんはまだ……?」
ミルダさんは、趣味というか自分から進んで中央冒険者ギルドの受付をやっていた人で、マティルデさんの片腕というかサポートをする役目を担う、副ギルドマスターだ。
ロータ君というお気に入りの男の子という、ちょっと危ない感じのする人ではあるけど、そのロータ君の様子を見るため……いや、クレメン子爵領方面の様子を見るという名目の出張中。
あっちは、エフライムやレナーテちゃんの兄妹を人質にとったりなど、帝国から入り込んだ冒険者の一部が悪事に協力していたから、王国の冒険者ギルドをまとめる立場から人を出す必要があったらしい。
とはいえ、そのミルダさんの本当の目的は、ロータ君の様子を見る、もしくは会いに行くためとマティルデさんがぼやいていたけども。
そのミルダさん、予定では俺達がセンテから戻って少し下くらいには戻って来ているはずなんだけど、王都周辺に点在していた魔物の集団だので、足止めされている状態というか、あちらでの冒険者ギルドで色々やる事ができたらしい。
ただ魔物の方ももうほぼ落ち着いて、後は残党探しみたいな感じで騎竜隊が哨戒しているくらいだし、もう戻って来てもおかしくないんだけど。
「もう数日ってとこかしらね。早く戻って来いって言っているのだけど、ロータ君の所でゆっくりしているみたいよ。まったく、ミルダがいないと私の仕事が全然減らないってのに……」
そう言って口を尖らせるマティルデさん。
ミルダさん……ロータ君と離れがたいんだろうなぁ、とは思うも、中央の副ギルドマスターとしてそれはいいんだろうか? と思わなくもない。
まぁ文句を言っているマティルデさんも、その後あちら方面でミルダさんがいる事は悪い事じゃないらしく、正常な冒険者ギルド運営を行うためにも働いてもらっていると言っていた。
戻って来ないなら来ないなりに、ちゃんと働いてもいるようだ。
「ミルダさんが戻って来るまで、もうしばらく忙しそうですね……」
「一時期よりはかなり落ちつたけどね。はぁ……」
「そ、それじゃあ、仕事の邪魔をしてもいけませんし、クランの事も済んだのでこれで……」
溜め息を吐くマティルデさんだけど、俺に手伝える事は特にないし、むしろこのままだと愚痴をきかされたり巻き込まれる可能性を感じ、モニカさんと頷き合い、早々のこの場を辞する事にする。
マティルデさんの仕事は、俺のクランに関する事だけじゃないからね。
仕事の邪魔をしちゃいけないって言うのも本音だ。
「えー、もう行っちゃうの? もう少しゆっくり、いえリク君が良ければじっくりと話したいんだけど……」
「んんっ! マティルデさん、女王陛下に言いつけますよ?」
「っ!? くっ、モニカちゃんもやるようになったわね……」
なんだろう、モニカさんとマティルデさんの間で何やら物々しい雰囲気が漂い始めた。
急な事で戸惑っている俺を他所に、何故か不敵に笑うモニカさん。
姉さんの事が出て来たけど、それでモニカさんがやるようにってどういう事なんだろう?
「陛下から、リクさんがマティルデさんに会う機会が増えた事で言われていたんです。変にリクさんに絡むようであれば、容赦なく接しろと。それから、妙な事を言うようであれば報告するようにとも」
「むぅ、まったくあの女王陛下様は……! はぁ、仕方ないわね。仕事に集中するわ。元々、悠長に話している余裕はあまりなかったしね」
「はい、それでお願いします。頑張ってくださいね」
「白々しい……」
何やら、モニカさんとマティルデさんの間で、俺のよくわからない攻防があったようだ。
勝ち誇っているようにも見えるモニカさんの笑みと、少し疲れ気味のマティルデさんの表情を見る限り、姉さんの助力ありではあるようだけど、モニカさんが勝利を収めたとみていいんだろう。
いや、どういう事で戦っているのか俺にはよくわからないけども。
そういえば、初めてマティルデさんと会った時からしばらく、モニカさんが何やら警戒していたけど、あれと関係あるのかな?
まぁ何はともあれ、魔物の集団の対応に追われていた少し前と違って、多少の余裕はあるにしてもさすがにこれ以上仕事を滞らせるわけにはいかない。
モニカさんと一緒にマティルデさんに断って、退室しよう扉に手をかけようとした瞬間、外からノックされる音が響いた。
「申し訳ありません、リク様にお客様がお見えです」
「……俺に?」
「入って……お客様というのは?」
扉の向こうから聞こえた声はおそらく、この簡易支部にいる職員さんだろう。
首をかしげて動きを止める俺の後ろから、マティルデさんが声をかける。
俺とモニカさんが邪魔にならないよう少し扉から離れるのと同時に、扉が開いて職員さんが入って来た。
「失礼します。王城の兵士の方が、リク様に報告したい事があるようでして……お通ししても?」
「俺にですか。えーっと……」
「構わないわ。わざわざリク君にって事はなにかあったんでしょうし、ここに来たのなら私に聞かれて困るような事でもないんでしょう」
「畏まりました」
マティルデさんや俺達に一礼して、職員さんはすぐにきびすを返して兵士さんを呼びに向かった。
「それにしても、わざわざここにいる俺に報告って……」
王城の敷地内だから兵士さんがすぐに来れた、というのはあるけど……どうせなら俺が戻るのを待ってからでも良かったのに。
冒険者ギルドでの用を済ませたら、一度王城の部屋に戻るって言ってあるし。
「まぁそれだけ急ぎの何かなんでしょうね。リクさんに報告って事は、何か関係している事なんでしょうし……」
「緊急性も感じられるわね。ただ、ここにわざわざ来させたというのは、何かしらの意図を感じる気がするけど……」
俺の呟きにモニカさんやマティルデさんが反応し、そのまま少しだけ兵士さんの到着を待つ。
体感で二分もかからないくらいだろうか、それくらいで先程の職員さんが戻って来た。
「失礼します。リク様へのお客様をお連れ致しました」
「ご苦労様」
「お取込み中の所申し訳ありません! リク様に至急の報告と応援要請をとのお達しが……」
職員さんが連れてきた兵士さんは、ワイバーンの鎧に身を包んで準備万端といった様子で、物々しい雰囲気を出している。
俺への報告だけでなく応援要請って事は、本当に何かあったって事みたいだ。
「まず報告ですが……件の爆発騒動、それらを仕組んでいる者達の拠点と思われる場所を特定致しました!」
「っ! それは本当ですか!?」
職員さんが辞するのを待ってから、報告を始めた兵士さんの言葉に驚く。
それはマティルデさんやモニカさんも同じだったようで、大きく目を開いていた。
当然調べてはいたのは知っているし、爆発する可能性のある人物の特定だけでなく、王都内に拠点があるだろうとも予想していたので、いずれ発見できるとは思っていたけど……。
一応昨日までは、特にこれといった有力な手掛かりは得られていないという話だったからね。
今日になって急にというのは驚いても仕方ないと思う。
「はっ! 昨日、魔法具によって例により取り押さえた者からの証言、さらに取り押さえた複数の者達が出入りしていた事を確認しています。中心拠点かはまだ計りかねておりますが、関係する拠点であることは間違いないとの事であります!」
爆発する可能性のある人物、作った魔法具で調べて複数の魔力が判明した人達の一部は、他の人と大差ないくらいちゃんと話す事ができる人もいた。
その人達の中から証言を引き出したんだろう。
というより、俺が発見したようなほぼ生きていると言えない状態の人の方が少ないようだった。
まぁそれでも、話しが通じないような人もいたみたいだけど。
ちなみに、調べて隔離した人物はここ数日でさらに増えていて、合計十人にはなっていないけどそれに近い数字になっているらしい。
全員フィリーナが見て調べるなりして、きっかけがあれば爆発するだろう、との保証もされているけど……嫌な保証だ。
というかどれだけの人を犠牲に、爆発なんて非人道的すぎる用途に使っているのか……。
「拠点らしき場所が特定できたのはわかりました。それで、俺に応援要請っていうのは?」
「そちらは陛下からなのですが……その、陛下のお言葉をそのままお伝えしても?」
何か躊躇するような素振りを見せる兵士さん。
軍の兵士さんだから女王陛下のお言葉とあれば、そう躊躇するような事ではないと思うんだけど……。
「お願いします」
「了解しました。えぇ――」
頷いた兵士さんが、少しだけ俺達の様子を窺うようにしながら、意を決したように姉さんの言葉を紡ぎ出す。
「『リクであれば、もしその拠点に何があろうとも対処できるはずだ。今はちょうどよく冒険者ギルドにいるようだし、巻き込んでしまえ。何、リクにはあとでこちらから礼はするのでな』との事です」
「そ、そうですか……」
ぞんざいに言っているようだけど、多分姉さんとしては俺に対する信頼みたいなのもあるんだろう。
兵士さんとしては、巻き込んでしまえなんて言っている姉さんの言葉を、俺達に対して発するのを躊躇っていたのかもしれない――。
応援要請という名の、リクなら話を聞けば協力してくれる、という信頼もあるのかもしれません。
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