第十話 おあずけ1
「知らないの?」
おかしいわね。さっきの肉は確かにこの肉を指差したはずなんだけど。
「し!…………ってるけど…………っ」
「知ってるんじゃない」
「知ってるわよ!」
「なら教えてもらえる?」
「い、いや!」
「いや?」
「いや…………だけど…………」
「だけど?」
「~~~~~~~~っ!仕事だから教えるわよ!でも次はないんだからね!」
「そうね、私も二度は聞かないと思うわ」
たぶん。
「~~~~~~~~っ!」
私の言葉に女はうめき声をあげながら地団駄を踏んだ。
そんなに怒ってお腹が空かないのかしら。
不思議に思ってじっと観察していると、女は突然深く深呼吸をして大きく息を吐いたかと思うと、ぶつぶつと独り言をつぶやきはじめた。
「オーケーオーケー。クールになるのよセレス。あなたは倍率7倍の中から選び抜かれた優秀なギルド職員なんだから。まだ慌てるような時間じゃないわ。きっと成長期だってまだ残っているはず!将来絶対バインバインになってこんな女なんて見返してやるんだから、コホン!それじゃあ説明するわよ!」
女が勢いよく私に向かって指差してくる。
とっても食べやすそうで思わずパクっとかぶりついてしまうがここはじっと我慢。
「冒険者になるのは簡単よ。お金を払って冒険者証を作ってはいおしまい」
そう言えばあの男もそんなことを言っていたわね。でもお金はあの料理女が全部持っていったから。
「お金がないわ」
「ないって…………え!?い、いちバールも?」
「ええ、これしか持っていないもの」
「ひっ!」
血濡れた棍棒を見せると女は悲鳴を上げて後ずさった。
「なんなら調べてみる?」
「い、いや、結構よ!とにかく!お金を貰わないことには冒険者証も作れないんだから!」
「じゃあどうすればいいの?」
「ど、どうすればって仕事をしてお金を稼いでくるしか…………」
「分かったわ。なら少し行ってくるわね」
「え…………、行ってくるってどこに?」
「その辺にいる人に仕事をもらうことにするわ。とは言っても出せるものなんて私の身一つだけど」
「身って…………だ、ダメよ!」
女は慌てたように私の腕を掴んだ。
やばい。柔らかいわ。
「ど、どうしてかしら?」
手の柔らかさに思わず意識をもっていかれてどもってしまう。
「わ、私がその、あなたに身売りをさせたみたいじゃない!」
「みうり?」
もしかしてこの女は私が自分の肉を切り売りするかと思ったのかしら?肉体労働くらいしかできないと思っていたけど人肉って売れるの?売れるならそれでいいかもしれないわね。どうせ腕くらいなくなっても食べたらまた生えてくるだろうし。
でもこんな貧相な肉なんて買う人いるのかしら?
女に掴まれた細い腕を見る。
見るからにガリガリで全く食欲をそそられない。けど売れるらしい。
世の中には物好きがいるものだ。
「ち、違うの?」
「いいえ、違わないわ」
「ならやっぱりダメよ!」
「どうして?」
「いくらあなた相手でも良心の呵責が……」
「でもお金がないんだから仕方がないわ」
「か、貸すから!」
「…………いいの?」
「大した金額じゃないし……、でも報酬が入ったらきっちり返してもらうからね!」
「そう、助かるわ」
なぜか良く分からないけどお金を貸して貰えることになったらしい。
「じゃあこれを利き腕じゃない方に嵌めて」
そう言って女は茶色の腕輪を差し出してきた
女から腕輪を受け取ると言われたとおり左手に嵌めんでみる。
「これでいいの?」
「そうよ、それが冒険者である証になってるんだからくれぐれもなくなさいようにね!」
「ええ」
「じゃあそのまま『ステータス』って言ってみて」
「ステータス?」
そう口にすると腕輪の中から空中へと文字が浮かび上がってきた。
名前 クロエ
種族 人間
クラス 魔物喰らい
冒険者ランク F
前科 なし
「ふーん、あなたクロエって言うのね」
「これにそう書かれているの?」
「そうよ。あなた文字が読めないの?」
「ええ」
「そうなの…………、なら上から読んでいってあげるわ。名前クロエ。種族人間。クラス魔物喰らい。冒険者ランクF。前科なしって書かれているわ。クラスっていうのは言ってみればその人がどういう人なのかを一言で示す分類分けみたいなものなんだけど魔物喰らいっていうのは初めて聞くわ。もっと都会の冒険者ギルドにいけば情報があるかもしれないけど、よく分からないわね。あなた魔物を食べるの?」
「ええ、結構美味しいわよ?」
中にはドブのようなクソ不味い奴もいるけど。
その味を思い出して眉を潜めていると、女が嫌そうに顔をくしゃくしゃにした。美味しさが大分損なわれているように見える。残念な顔ね。
「うげぇ…………、よくあんなゲテモノなんて食べる気になるわね」
「それはきっとあなたがとても恵まれているからだわ」
そうそう。お腹が空いたら食材なんていちいち選んでいられないもの。
「ふーん、あなた苦労してるのね。で、えーっと、次は冒険者ランクだけど、これはABCDEFってあってFっていうのは一番下。最初はみんなFから始まって依頼を成功させたら上がっていくの。失敗してたら下がっていくようになっているから注意しなさいよ。これを見れば大体の実力と信用が分かるわ」
「へぇ」
「最後に前科だけど、これは今まで何か犯罪を犯したことがあるどうかってこと」
「そんなことまで分かるの?」
「ええ、とはいえこれも万能なわけじゃないから表沙汰になっていない罪は分からないわ。罪人の戒めを体に付けられて初めて記録されるようになってるから。だからってこっそり犯罪犯しちゃダメだかんね?」
「善処するわ」
お腹が空かない限りは、だけど。
「善処、ね。お役人さんの大好きな『公平』くらい信じられない言葉だわ」
「心配しなくても大丈夫よ。逃げるのは得意だから」
「そう言う問題じゃないからね!?犯罪歴なんて付いちゃったらまともに依頼を受けられなくなるんだから!」
「それは困るわ」
食糧源になるものは最大限に確保しておかないと。餓えたくはない。
「ほんと気を付けてよね!じゃあ、ついでだしもっと詳しくステータスを見て私があなたにぴったりの依頼を選んであげるわ!」
「いいの?どうもありがとう」
「か、勘違いしないでよね!あなたのためじゃないんだから!お金を返してもらわなきゃいけないから教えてあげるだけなんだからね!」
「…………ツンデレね」
「で、デレてないわよ!」
そう言っている割には顔を赤くして嬉しいのを我慢しているように見える。
ありがとう、か。言われてもお腹は膨れないし嬉しくもないけどとってもいい言葉ね。相手をおだてるには。
「まったくもう!それじゃあ見てあげるから『詳細ステータス』って言いなさいよ。そしたら詳しいステータスが見れるから」
「『詳細ステータス』?」
女に続いて言葉を口にすると、腕輪から出ていた文字が消え、今度はまた別に大量の文字が現れた。
名前 黒絵
クラス 魔物喰らい
レベル 15
力 D
体力 B
魔力 E
知性 E
敏捷 B
器用 E
魅力 D
運 ☆
装備
武器 棍棒
防具 布の服
布の下着
耐性
■・■■・■■・■■■■■■
弱点
■
固有スキル
■■■■
■■■■
■■■■
汎用スキル
■■■ ■
■■
■■ ■
■■ ■
■■ ■
■■ ■
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統率Lv1
斬撃Lv1
剣技Lv4
鈍器Lv2
杖術Lv1
弓技Lv5
■Lv2
■Lv2
精霊魔法Lv4
神聖魔法Lv3
罠設置Lv4
罠解除Lv3
名前 黒絵
クラス 魔物喰らい
レベル 15 (経験値5914)
力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性
体力 グレイウルフ程度。最大速度で20分。半分の速度なら7時間走り続けることができる。
魔力 Eランク魔術師の半分程度。低レベルの魔法を数回使うことができる。
知性 Eランク神官の半分程度。肉と野菜の区別がつく。
敏捷 グレイウルフ程度。最大速度70km/hを記録する。
器用 Eランク弓士の半分程度。簡単な罠の解除にも苦戦する。
魅力 若作りショタ神官の半分程度。百人中四十九人に負ける平凡な美貌。肌年齢29歳。
運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運
装備
武器 棍棒
防具 レイラの服
レイラの下着
耐性
毒・麻痺・幻覚・精神喪失
弱点
光
専用スキル
存在捕食 食べたモノの半分を得る。
悪食無道 食べたモノを全て消化する。
絶交満腹 満腹感を完全に失う。
汎用スキル
繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。
不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。
吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。
猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。
麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。
幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。
マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。
ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。
統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。
斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。
剣技Lv4 剣の扱いにボーナスを得る。
鈍器Lv2 鈍器の扱いにボーナスを得る。
杖術Lv1 杖の扱いにボーナスを得る。
弓技Lv5 斬撃攻撃にボーナスを得る。
牙Lv2 噛み付き攻撃にボーナスを得る。犬歯が伸びる。収納不可。
爪Lv2 爪攻撃にボーナスを得る。爪が伸びる。収納可。
精霊魔法Lv4 精霊魔法を扱うことができる。
神聖魔法Lv3 神聖魔法を扱うことができる。
罠設置Lv4 罠の設置にボーナスを得る。
罠解除Lv3 罠の解除にボーナスを得る。




