第九話 肉に貴賎あり
なんとか町に入れたもののなぜかみんな私を避けて足早に離れていく。
ひょっとして臭うのかしら?まぁ別にいいわ。追いかけまわされてるわけじゃないし。
それで…………ええっと、どこに行けば冒険者になれるんだっけ。
考えたところで思い出せるはずもなかった。むしろ無駄に頭を使った分お腹が空いてしまったような気がする。
はぁ…………、とりあえず知ってそうな人に聞いてみるしかないわね。
私はたまたま通りの向こうから歩いてきた鎧を着ている男の腕をすれ違いざまに掴んだ。
私を襲った男たちに雰囲気がにそっくりだし、この男なら知ってそうな気がするわ。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「…………汚ねぇな」
男が私の身体を突き飛ばそうと手を伸ばしてくる。
トロいわね。
私は男の手を離して後ろに下がって避けた。
「なに!?」
あんまり近づきすぎると食欲が刺激されすぎて困るわ。
唇をぺろりと舐めながら再び前に出る。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」
「てめぇ!」
また手が伸びてきたので横に避ける。
「こ、この!」
それでも男はしつこく私に向かって手を伸ばして来るので打ち払う。
なにそれ?やる気あるの?
こんなノロマに鬼ごっこ最強を自負する私が捕まるはずがない。
「ウフフ」
少し遊んであげようかしら。これなら後ろで手を組んでたって避けられるわ。
私は手を後ろで組んで上半身を動かさずに足の動きだけで男の手から逃れる。
右へ左へ後ろへ前へ。
って、遊んでる場合じゃなかったわ。急がないと…………お腹が…………。
「ええっと、確か殺しちゃいけないのよね。人間ってどのくらい傷つけても大丈夫なのかしら?手足を引き千切ったらさすがに出血多量で死んじゃうわよね?なら潰すだけなら大丈夫?肘から先と膝から先を全部叩き潰して顔は…………、鼻は潰していいわよね?あの子もそれで生きていたし。耳は千切っても死にそうにないし、あとついでに髪の毛も毟り取ったらいいのかしら。目も二つあるし一つくらいいいわよね。あとは胸の皮はいっぱいあるから半分くらい剥いで…………うーん、もしそれでも答えてくれなかったら?舌を引き抜いてしゃべれなくなっても困るし、骨を少しずつ折って砕いて肉とぐちゃぐちゃに混ぜていけばいいのかしら。あ、でもまずは股の下にぶら下がってるやつをねじり潰すのがいいわよね。男にしかないってことはなくなっても確実に死なないだろうし」
「死ぬわ!そんなんされたら死んでしまうわ!」
「じゃあまず手始めに」
「答える!なんでも答える!汚いなんて言って悪かった!このとおりだ」
そう言うと男は飛びのいて股間を抑えて必死に手で隠そうとする。
どの通りなのかさっぱり分からない。
とりあえず男に向かって手を伸ばそうとすると、男は地面に頭を擦りつけて必死に謝ってきた。
「そう」
残念だわ。せっかく人間の限界を試せると思ったのに。
まぁそれは次の機会にでも置いておくとしましょうか。ウフフ。
「なら聞くけど、冒険者ってどこへ行けばなれるの?」
「そ、そりゃあ冒険者ギルドだろ」
「だろ?」
「い、いえ!冒険者ギルドです!」
「そうそう、確かそんな名前だったわ!で、それはどこにあるの?」
「どこってそりゃあ……」
男が私の方を向かって指をさす。
こっち?
後ろに振り返ると二階建ての大きな木造の建物がある。
入口の上に看板らしきものが付いているが文字が読めない。
「ここ?」
「そうだよちくしょう!それだけかよ!」
「ええ、それだけよ。じゃあもう用がないから行っていいわよ。いつまでも傍にいられると思わず手を出してしまいそうになるから」
「ひぃ!」
食欲という名の本能につられて男の方へと手を伸ばすと、男は股間を手で押さえたまま後ずさり、慌てたように走って去っていってしまった。
一人残された私のお腹がぐぅと悲鳴をあげる。
「なかなかいい肉だったのに食べちゃいけないなんてここは地獄ね…………はぁ、空腹で死にそう…………」
私は男の背中を見送ると建物の扉を開けて、冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。
見た目通り中はかなり広く、テーブルがいくつか並びには何人か肉…………いや、人がテーブルを取り囲んで話をしていた。その奥にはカウンターがあり、二人の人間が肉たちの対応をしているようだ。
とりあえず私は一番近くにあったテーブルに近付き、そこに座っていた肉の一人に声を掛けた。
「ここに来れば冒険者になれるって聞いたんだけど、どうすればいいの?」
すると声を掛けられた肉は無言のまま右奥にあるカウンターを指差す。
男が指さしたのは肉の対応をしていた2人のうちの1人。
「そう、ありがとう」
にっこりと笑ってお礼を言うと、私は奥のカウンターへと向かった。
しかし私はそこにきて衝撃の出会いを果たすこととなった。
なんとカウンターに立っていたのは、金色の髪をしたツインテールの汚れ一つない美味しそうな肉、もとい女がだったのだ。
私には分かる。この女は絶対に美味しい。
でも非常に残念なことに肉つきは決して良いとは言えない。
これでもう少し脂肪がついていれば最高だったのに…………、天は二物を与えずと言うけど、本当に酷いことをするわ。
女の肉の薄いところ、特に胸を見ると自然と大きな溜息が出た。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「なっ!?あなただって私と大して変わらないじゃない!」
突然カウンターの女が怒り狂って大声を上げた。
全く意味が分からないわ。
「そもそも私は食べらるつもりないし」
「わ、私だって食べられるつもりなんてないわよ!お、男なんて!男なんてどうせそこしか見てないどうしようもない生き物なんだから!」
「それは仕方ないわよ。だって大きさは大切な問題よ?それに柔らかいところは多ければ多いほどいいし」
「う、うるさいうるさい!きっと私みたいなのがいいって言ってくれる人もいるんだから!」
確かに口だけならそんなことを言う奴もいるかもしれないわね。
実際にこの女が食べられるなら誰だってそう言うに違いない。
でもね。
「それは妥協よ」
私だってこれまで散々妥協してきた。でも出来ることなら緑人間よりもあの冒険者たちのような柔らかくて肉付きの良い肉を食い漁りたい。
この女のように綺麗で柔らかくて香りの良い肉を飽きるほど堪能したい。
「なんですって!?」
「私もよくするわ。特に飢えているときなんかは満たされれば何でもよくなるし」
「な、な、ななななななな!」
女の顔がますます赤く染まっていく。色まで美味しそうなのに本当に残念だわ、とても。
「精々がんばって大きくなりなさい」
「頑張って大きくなったら苦労しないわよ!ばかぁ!」
そしたら食べて…………、そう言えば町では人間を食べたらいけないんだったわね。はぁ…………。
「また溜息!?なによもう!馬鹿にして!馬鹿にして!馬鹿にしてええええ!!!」
「ところで冒険者になりたいんだけど」
「知らないわよ!馬鹿ぁ!」
名前 黒絵
クラス 魔物喰らい
レベル 15 (経験値5914)
力 飢餓に苦しむ16才の少女が食べモノを目の前に発揮する凶暴性
体力 グレイウルフ程度。最大速度で20分。半分の速度なら7時間走り続けることができる。
魔力 Eランク魔術師の半分程度。低レベルの魔法を数回使うことができる。
知性 Eランク神官の半分程度。肉と野菜の区別がつく。
敏捷 グレイウルフ程度。最大速度70km/hを記録する。
器用 Eランク弓士の半分程度。簡単な罠の解除にも苦戦する。
魅力 若作りショタ神官の半分程度。百人中四十九人に負ける平凡な美貌。肌年齢29歳。
運 現代社会で飢餓に苦しみつつも16才まで生き抜いてきた悪運
装備
武器 棍棒
防具 レイラの服
レイラの下着
耐性
毒・麻痺・幻覚・精神喪失
弱点
光
専用スキル
存在捕食 食べたモノの半分を得る。
悪食無道 食べたモノを全て消化する。
絶交満腹 満腹感を完全に失う。
汎用スキル
繁殖力 大 自然排卵から交尾排卵へ変化。異種交配可。着床率、安産率、飛躍的に上昇し、妊娠期間が大幅に短縮される。
不死 死亡しても活動可能となる。光属性に弱い。
吸血 小 他者の血を摂取することでHP・SP・MPを小回復する。
猛毒 大 攻撃に猛毒(大)を付与することができる。
麻痺 大 攻撃に麻痺(大)を付与することができる。
幻覚 大 攻撃に幻覚(大)を付与することができる。
マインドブラスト マインドブラストを放つことができる。
ネット 中(1/2) スパイダーネット(小)を射出することができる。
統率Lv1 統率する仲間の行動にボーナスを与える。
斬撃Lv1 斬撃攻撃にボーナスを得る。
剣技Lv4 剣の扱いにボーナスを得る。
鈍器Lv2 鈍器の扱いにボーナスを得る。
杖術Lv1 杖の扱いにボーナスを得る。
弓技Lv5 斬撃攻撃にボーナスを得る。
牙Lv2 噛み付き攻撃にボーナスを得る。犬歯が伸びる。収納不可。
爪Lv2 爪攻撃にボーナスを得る。爪が伸びる。収納可。
精霊魔法Lv4 精霊魔法を扱うことができる。
神聖魔法Lv3 神聖魔法を扱うことができる。
罠設置Lv4 罠の設置にボーナスを得る。
罠解除Lv3 罠の解除にボーナスを得る。




