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084 感じ方は人によって異なる

本当は前回のお話と今回のお話と次回のお話は1本にまとまるはずでした。えぇ。次回にも続きます。

 他所はどうだか知らないが、俺達の住んでいる松原市には県営や市営の体育館がある。

 

 主だった利用方法はバスケやバレー、バドミントン、その他のスポーツの大会で使われたりあるいはクラブチームの練習に使われる。

 

 が、申請さえすれば一般人がアリーナの一部を借りることもできる。無論、利用料を取られるが高校生のお小遣いで十分に払える額だ。

 

 昨日までの全日本合宿もあったから今日はのんびりしたかったが、陽菜のご機嫌取りも含めて午後はバレーの練習をすると決めていた。

 

 時期は12月の中旬。年末に差し掛かろうというこのクソ忙しい時期にわざわざ大会なんぞ開催されないだろうからきっとアリーナは空いてるだろうと行ってみれば……

 

「あら、ごめんなさい。アリーナは全部利用者で埋まっちゃってるの」


 体育館の受付のお姉さん(お姉さんだ。見た目はアラフォーのおbsanに見えるが、大人の女性は須くお姉さんと呼んだ方が色々と平和になる)が申し訳なさそうに言う。

 

 午前中は俺も陽菜も掃除やら洗濯やら買い物やらをこなしていたため、体育館に来たのは昼食後の14時。体育館のアリーナはすでに先客で埋まっていたようだ。

 

「だから来る前に予約状況を確認しようって言ったのに……」


 横にいる陽菜が口をとがらせる。が――

 

「あなた達、松原女子高校のバレー部でしょ?お友達が先に来ているわよ。バレーの練習なら混ぜてもらえばいいじゃない」

 

 なんてことをお姉さんに言われた。

 

=====


「お、今度は陽菜と優莉か」


 アリーナには12月だというのに汗でびっしょりな玲子がいた。短めのポニーテールとほんのり赤みを帯びたうなじのコンボが艶っぽい。

 

 って、この寒い中でそんだけ汗をかくなんて、どんだけ練習をしてるんだろう?

 

 どうでもいいだろうが、玲子が借りているのはアリーナの1/3ほど。残りはバスケで1/3、ハンドボールで残りの1/3が埋まっている。

 

「お疲れ~。玲子は自主練?」

「あぁ。U-19の合宿で色々と学べたからな。その復習だ。陽菜達はどうして?」

「私達、前から時々自主練で市営体育館(ここ)を使ってるよ。今日はちょっと速攻の練習をしに来たの」

「それより『今度は』って私達の前に誰か来たの?」

「30分くらい前かな?ユキが来たよ。なんでもロードワークでこの辺を走っていたら駐輪場に見慣れた紫色(松女)のステッカーが貼ってある自転車を見つけたから、誰かいるのかと思って体育館を覗いたそうだ」

 

 あぁ。あのステッカーか。

 

 今更ではあるが、俺達の家、玲子の家、ユキの家はそれぞれが松原女子高校まで歩いていけるくらいの距離にある。学区は微妙に違うので小中学校はそれぞれ別だが。

 

 で、いくら歩いていけるとはいえ、通学は自転車を使う。その自転車なんだが、部外者との区別をつけるために通学の許可が下りた自転車にはセンスの無い(個性的な)学校指定の反射材つき紫色ステッカーを貼ることになっている。あれは目立つので近くを通ったユキが気が付くのも納得だ。

 

「それで、私が練習しているのを知ると、いったん家に帰ってバレーシューズを持ってくるといっていた。あと少しで来るんじゃないか?」


 練習に合流するのか。いったん家に帰るのは仕方あるまい。ロードワーク中ということはバレーシューズを持ってなかっただろうし、足元が靴下では本格的なバレーの練習はできない。


「私達も混ぜてよ。利用料は私達も出すからさ」

「あぁ。構わない。むしろ合流してくれ。1人だと出来る練習も限られるからな」


 そうだよなあ。バレーで1人で出来る練習なんて限られてる。

 

「ちなみに玲子は何の練習をしてたの?」

「サーブだ。U-19の合宿では舞さんに色々教わったからな」


 見ればコートには小さなカラーコーンが数個立っている。あそこを目指してサーブを打つ感じか。

 

「玲子のサーブ、凄かったからね。敵に回して初めてわかったよ。ひょっとしたらU-19で一番サーブが強烈だったかも?」

「……私も敵対して初めて優莉の反則ぶりがわかったよ。それとサーブについての考えは半分間違いだ。

 舞さんがその気になったら……正確に言えば、コントロールを捨ててまで威力重視にすればもっと強烈なサーブを打てる」


 うへぇ。あのおっかないサーブがコントロールを犠牲にすればもっと強烈になるのかよ。


「玲子、昨日の練習でも『舞さんが凄かった』って言ってたけど、そんな話をするくらい仲良くなったの?」


「あぁ。仲良くなったというか、私の面倒を一番よく見てくれたんだ。本当にいい人だよ」


 曰く、一番へたくそな自分にあわせて毎日練習に付き合ってくれた

 曰く、親身になってアドバイスをくれた

 曰く、自分の意見も納得してくれたなら取り入れてくれた

 

 



 いや、それ玲子騙されてね?

 コートが使える朝6時から自主練スタート、朝食を挟んで今度はU-19の正規練習。で夜は21時まで自主練。夜ご飯を食べたら入浴で23時前には就寝。

 

 翌朝は5時半に起きて6時から自主練再スタートのサイクルを1週間繰り返すって平たく言って拷問じゃん。

 

 なんでそんなに嬉々として話してるんですかね?

 

「私としてはもっと練習をしたかったんだがちゃんと寝ないとダメだといって止められたんだ」


 あ、ここだけ残念そうな顔をしてる。ちらっと陽菜の方を見てみるが呆れた顔をしている。きっと俺も同じ顔をしているだろうなあ。

 

 

「指導も的確で、春高では敵対する私相手でも真剣に怒ってくれたんだ。その叱責はどれも理にかなっていて、凄いんだ」


 うっそだあ。俺、U-19との練習試合があった時に奏ちゃん達から聞いたけど、毎日ボロクソに言われてたって聞いてるよ?

 なに?玲子ってひょっとしてドMさんなの?

 

 

 

 意見を取り入れてくれたという内容も大概酷い。朝からブロックの練習をしたいと言ったら舞さんが協力者を見つけてくれた、と玲子は言うが、朝6時から練習に付き合わされる側の気持ちを理解しているのだろうか?

 きっと舞さんが無理やり引っ張ってきたんだろうなあ。

 

「朝6時から練習ってU-19の合宿は凄いね……」


 陽菜が俺の気持ちを代弁してくれた。そうだよな。


「??そうでもないだろ?4月頃、エリ先輩達に止められるまで私達だって6時から練習してただろ?」



 ……そういえばそうだった。

 

 

 

 

 だが今は無理!だって寒いもん!!




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