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29.後輩

誤字脱字ありましたら教えてください。

 あー、やばいよ。あんなカッコつけた事言っちゃったけど…私達ただズボン脱がしただけだよ。戦いに勝ったわけでもないのに勝った気で言っちゃったよ…。私は道の端っこを歩きながら、とても後悔していた。



 〈称号『幻の風格』を贈与します〉



 は?

 なんですのん。その称号?

 突然、頭の中で声が聞こえた。私は立ち止まり、【鑑定】を発動させる。




『幻の風格』…無意識に人を魅了、威圧した者に贈与される称号。敵、味方関係なく魅了、威圧をかけ、近寄り難い雰囲気を放つ。




 …は?

 私、なんか魅了してたの? 威圧ならこの『月影の衣』があるから分からなくもないけど…。



 …あ、そうか。忘れてたけど私このゲームの中では中々の美少女だったわ。私は街にある窓で自分の顔を確認する。


 んー。まずこの右目にある炎のタトゥー。他の人は腕とかお腹についてる。顔についてる人自体少ないから、目を惹くんだろうな。


 そして何よりこの整った顔!! 黒い髪! 凛とした目! 鼻筋が通っていて、口も小さい! こんな女の子いたら…巫女装束とか着せさせてみたいかも。自分では絶対やらないけど。

 そんな事を思って顔を触っていると



「あ、サキさん! 体調は大丈夫ですか?」

 私の背後にはサキさんと肩に乗っているネズミのチューがいた。



「あー、全然問題ないよ。心配してくれてありがとう。で、そこで自分の顔を見つめて何してんのさ?」

 と呆れている様な、照れている様な? 表情をしてサキさんは尋ねる。



「あぁ…いや…それよりサキさんは何をしてるんですか?」

 私は話題を逸らした。



「あぁ、これからそこの店で仕事だよ。」

 サキさんがニヤニヤしながら指差した店は、私が鏡として顔を見ていた所であった。



「あ、そ、そうなんですね!そ、それじゃあ!!」

 私は恥ずかしくなり、そこから早く離れたかったが、サキさんに腕を掴まれる。



「まぁまぁ、そんな出会ったばかりじゃないか。」


「さっきも会いました!!」


「いいから!!」

 力がゼロの私にとっては抵抗はできない。私は強引に引かれて連れて行かれた。






 〜ハトムーの古書堂〜



 ガランガラン

 扉を開くとそこは図書館のように大量の本があった。本は乱雑に置かれており、歩く所も少ない。



「ハトムーさーん! 不審者発見ー!!」



「ちょっと!!」

 サキさんは中に入った瞬間に大声で叫んだ。



「あぁん? 不審者?」

 すると本の奥の奥。そこから口調とは裏腹に渋い、優しそうな声が聞こえた。



「ん? そいつがか?」

 奥から出てきたのはごっついファンタジーに出てくるドワーフの様な体型をしたおじさんだった。ハトムーさんは、本を掻き分けるようにして出てくると、私たちの前に立つ。



「それで、サキちゃん。この子が不審者か?」

 おじさんは私と身長が変わらないくらいの身長だ。サキさんを見上げながらそう聞くハトムーさんに、私は少し可愛いなと思ってしまった。



「はい! そうです!」

 と元気そうに笑って答えるサキさんを私は横目で睨む。…少し納得いかない。ちょっと窓を借りてただけだし…。私は顔を顰めた。



 その様子を見てたハトムーさんは

「はっ! そうか! こりゃあ、立派な不審者だなぁ!」

 と言い、私の頭を豪快に撫でる。私の髪はワシャワシャになっている。



「名前はなんて言うんだ?」


「スプリングです。」


「そうか! スプリングか! じゃあ今日は罰として本の整理をしてもらうか!」

 ハトムーさんは本の山になっている所を指差し、言う。



「え…あれをですか…?」

 と私は聞く。何百冊あるの、あれ…。



「あぁ!不審者だったんだろう?あれぐらいで勘弁してやるんだ。感謝して欲しいぜ。」



「そうですよねぇ。不審者ですもん!」

 とハトムーさんとサキさんはニヤニヤとしながら話す。


 絶対分かってる!絶対私が無実だって分かってる!!




「…はぁ。分かりましたよ。もうやればいいんでしょ。」

 私がそう言うと2人は




「「貴重な労働力ゲット!!」」

 ハイタッチしていた。




「…。」


(だ、大丈夫!俺たちも手伝う!)

(だからそんな顔しないで下さい!)

 2人から何か話しかけられていたが、私の頭には何も入ってこなかった。



「おいしょっと!…スプリング〜、そんなに怒らないでよ〜。ここの仕事って大変だから手伝って欲しかったんだよ〜。」

 サキさんは本棚に本を並べながら言う。



「……!」


 プルプルプルプル




「スプリングって…力何あるの?そんな持てない?」

 私は本を10冊ほど、身体中を震わせながら持ち上げる。



「わ、私、力0だから!」

 ふぅ。重かった。私は本棚の近くに本を下ろす。



「え、力0? このゲームで?」

 サキさんは目を見開き、動きを止める。



「ついでに防御もです。」



「え!!それでどうやって戦うの!?」



「いや〜、まぁ、頑張れば戦えるもんですよ。」

 と曖昧に答える。職業幻術師で、まだ幻術使えないって言ったらもっと驚くだろうなぁ。あ、そう言えばソフィアさんに言われてた2つの魔術を同時に発動させる練習しとかないと。



「はぁ…すごい。これが幻想姫。」

 サキさんは本棚を背もたれにズルズルと座り込む。



「そういえば、その幻想姫ってなんですか?前も聞きましたけど。」



「あぁ、まだ掲示板見てなかったんだ。簡単に言えばスプリングの異名だよ。」



「異名? 私にそんなのあったんですか?」




「おい!!お前らいつまで喋ってんだ!!口よりも手を動かせ!!」

 ハトムーさんの叫び声が響く。



「まぁ、詳しくは掲示板見てよ。あ、いや、やっぱり見ない方が良いかも。」

 そう言うとサキさんは私から目を逸らし、本の片付けを再開する。え、逆に気になるんですけど。







「あー、やっと終わりましたね!」

 私たちの周りの本は全部片付き、本棚に綺麗にしまわれている。



「んー、疲れた〜。はやく寝ないと仕事に間に合わないよ〜。」

 とサキさんは背伸びをする。



「そうなんですか?」


「そうそう。うちのとこブラックだし、課長とかネチネチネチネチ説教してくるし。大変なんだよ。幸いにも先輩とかには恵まれたんだけど。」

 とサキさんは言う。


 …うわ、私のとこと一緒だ。なんか親近感湧くな。



「私の癒し…四月一日わたぬき先輩…。」

 とサキさんは呟く。



「はい!?」

 いいいい、今何と?



「あ、ごめんごめん。リアルの事はあまり言わない様にしてるんだけど。スプリングってなんかうちの先輩に行動とか似てるから、ついね。」

 サキさんは苦笑いを浮かべている。

 ちょ、ちょっと待って。私の会社の後輩って…



「もしかして、柚月ゆずきちゃん?」


「え!?」

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