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アルテナの箱庭が満ちるまで  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
短編 リクエストシリーズ

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短編 ハニーフラッシュ~あなたの状態、変わるわよ~

リクエストシリーズ第二弾です。

・シアン・シアンの奥さん・1人息子

・日常でもなんでも!

ちなみにリクエストは受け付け順に書いています。

「半年間の休暇ですか?」

「そうだ。大隊を2つに分け、半年交代で休暇とする。さらに兵士に関しては、従軍の長い順に半数が期間を繰り上げ解散となる」


 ゲイズティ大隊長に問い返すと、肯定と共に徴兵兵士の繰上げ解散という予想以上の答えが返ってきた。

 いずれ新たな徴兵で兵数は戻るとしても、かなり思い切った決定だ。政治的なことは分からないけど、これは開戦以来はじめての事ではないだろうかと思う。

 わりと遅い年齢で従軍したエスコット兵士長も、期間繰上げで従軍終了かなぁ?

 でも、あの知能と腕は惜しい。どこかで活かせると良いんだけど。


「司令部によれば『戦線を縮小して防戦に徹するので、全軍はその間に2交代で祝福を上げるように』との事だ。1年のうち半分は軍務に従事し、残る半分はとにかく祝福を上げろというのが我々への通達だ」

「具体的な目標は定められているのですか?」

「上位者には個別に指示が出た。俺は祝福76だから、遅くとも4年以内に軍団長補佐になれと命じられた。シアン、お前は祝福57に上がっていたな?3年以内に大隊長になれ」

「……設定目標が甘いのは何故でしょうか?」

「我々がたまたま目標に近い祝福数だったからだ。運が良かったな。お前はとりあえず手近な場所で祝福を58に上げて、あとは家に帰って半年後までのんびりして来い」


 多分、いや絶対にゲイズティ大隊長は目標を大きく上回る成果を出すと思う。

 ゲイズティ大隊長は『自分自身には厳しく、そして部下には適正に』が信条の人だ。けっして甘い人ではないが、しっかりと筋が通っている。

 もちろん大隊の兵士宿舎を『突撃』のスキルで破壊するような相手には、容赦しないけれども……。


「ありがとうございます」

「いや、お前はまだ良いんだ。お前は時間にはルーズだが、押さえるべきところは押さえている。だが、何人かの隊長にはできれば休暇を与えたくない。あいつらは絶対にサボって遊びまわるぞ」

「……でしょうねぇ」

「シアン、お前には大隊長になると同時に俺の大隊をそのまま指揮することになる。俺はお前の昇格と同時に、直属の軍団長補佐候補あるいは軍団長補佐となって現在の任を解かれる」


 どうやら、かなり具体的な計画が練られているようだった。

 ということは、俺も大隊長になってしまったら休暇が少なくなるのかなぁ?


「ちなみに、司令部が提示した大隊のスケジュールは数年間変わらん。ゆっくり大隊長になろうなどとは思わずに、祝福は早めに上げておけ」


 しっかりと釘をさされてしまった。

 どうやら休暇が少なくなるのではないかという考えが顔に出ていたらしい。

 あまりキリキリとは働きたく無いんだけどなぁ。

 出来ることならなるべく楽に過ごしたいし。


 ……うん?

 もしかすると、最初に祝福を60に上げてしまえば、あとはずっとのんびり出来る?


「よし、理解したようだな」


 いつの間にかゲイズティ大隊長に誘導されていたらしい。

 この人は、クラスに一人は居る優等生タイプだ。

 努力して下地を作って、そこから正攻法で攻めていく。

 うん、やっぱり俺には向いてないね。


「ではそうしましょうか」

「期待しているぞ」


 何をそうするかって?

 もちろん祝福を上げて、あとはのんびりすることさ!

 だって俺、既婚者だし。

 根性よりも日常が良いなぁ。

 優等生はゲイズティ大隊長に全面的に任せるよ。

 というわけで、俺は最初の1年で祝福を60に上げると、あとの休暇は家でのんびりと過ごすことにした。






 Ep04-34






 皇女ベリンダの直属10個大隊は、地上本土と入植地を10分割したエリアごとに編成されている。

 これは編成と解散が楽だからだ。

 例えば、次のような範囲を1個大隊の編成地域とする。


 第三宝珠都市・1

 第二宝珠都市・1

 第一宝珠都市・5


 すると宝珠格は3+2+5で、合わせて10となる。

 1個大隊は10隊で編成されるので、格1つごとに1隊ずつ集めてその都市に配備しておけば、こんなに効率的で効果的な編成は無い。

 彼らは同じ都市にある自宅に頻回に帰れるし、軍からの俸給も各都市で使って経済がしっかりと回る。それに軍隊の維持費自体もかなり節約できる。


 もちろん経済観念以外にも大きな理由がある。

 モンスター被害があれば、その地域の大隊を即座に動かしてすばやく対処ができる。

 遠征による士気低下も一切起こらないし、地域を守ろうという気概も他の地域から呼んだ部隊と比べて遥かに高い。

 それに同じ地域の出身者同士なら話も合いやすく、徴兵してもすぐに仲間意識を持って連携し易いのだ。


 例えの『1格で1隊を編成』では、直属2個軍団である10個大隊を編成するために100格が必要となる。

 だが足りなければ、『1格で2隊を編成』すれば50格で済む。

 逆に余れば、余剰分を各軍団などへ振り向けて調整すれば良い。

 要するに概念だけを用いて、計算式は支配地域の実態に合わせて行えば良い。


 このシステムを考案したのは、第三軍団長・深謀のイグナシオである。

 イグナシオは『直属大隊を集めて進撃する際に地域の守りが手薄になる点』や、『新軍団誕生の際に引き抜かれれば、数年間は人員調整が必要になる点』などにいくつかの不満を持っているのだが、彼以外は良い案だと思っているので発案者の不満は無視されている。

 無視している筆頭は皇女ベリンダだ。

 ベリンダ側からすれば『不満があるのなら新たな案を提示しろ』である。

 もちろんイグナシオが新案を提示すれば通るのだろうが、多忙なイグナシオは一旦構築した物事ばかりに構ってはいられず、現状はそのような運用が為されている。


 そのシステムにより、シアン大隊長は大隊編成の範囲内にある家にすんなりと帰ることが出来た。

 ちなみに彼の不在時には、隊長格の中で上位者が大隊長代理を勤めている。


「その時、ピンク色の髪の悪魔が現れたんだ!」

「パパどうなったのっ!?」

「その悪魔が杖を天にかざすと、なんと青白い光の壁が左右に現れたんだ。あれは魔界への入り口に違いないだろうなぁ」

「うわあっ、うわぁっ!!」

「あなた、シャルルが本気にするからあまり変な事を教えないでくださいね?」

「あはははっ」


 シアンは妻のポーラが夕食を作る間、リビングで一人息子のシャルルに戦地の話を大げさに話してやっていた。

 シャルルはまさに黒狐族の男の子と言った感じで、狩りや戦場の話が大好きだ。

 モンスター相手の話でも人間相手の話でも、狐耳をピンと立てて目をキラキラと輝かせながら大はしゃぎで話を聞く。話してやると、興奮して尻尾をパタパタと元気よく振る。

 シアンはそんな一人息子を見ながら、ふと「息子にも祝福は授かるのだろうか?」と思った。


 (俺が大祝福1台のときに生まれた子だからなぁ。大祝福1台の子供ならそこそこ確率が上がるくらいかな?50人中1人に比べればかなり確率が高いけどなぁ)


 シアンはそう思いながらシャルルの頭を撫でた。

 シアンが伸ばした手に頭を擦りつけてくるシャルルを見ながら、シアンは出来ることなら息子も祝福を授かって欲しいと思った。

 イェルハイド帝国は実力主義だ。

 シアンは祝福60であるから6階位となり、これは帝国臣民を1万人集めればその中で最上位者となれるくらいの高さだ。1万人の獣人の下にはその数倍の人間が従っているので、シアンは1地方都市ならば最上位者と言って良い。

 だがシアンの息子は財産こそ引き継げるものの、地位に関しては一切引き継げない。

 祝福が無ければ十数年後には一般兵として徴兵される。


 (誰の指揮下に入るのかな?俺とは限らないしなぁ)


 配属先は良い指揮官であって欲しいと願うが、それは運次第だ。つまり生き残る確率も運次第となる。


 (帝国はもう充分に豊かだし、おまけに今は条約こそ結んでいないけれど事実上の停戦中だし、もう侵攻はこのくらいにしておけば良いんだけどねぇ?……駄目そうだなぁ)


 食事は3食出てくるし、パンにはスープもサラダも付く。現状でも飢える心配は全く無い。

 出来れば味気の薄いパンにはジャムなどが付いてくるともっと良いのだが、金銭ではなく流通の問題で、第一宝珠都市に全ては揃わない。

 とはいえ贅沢を言えばキリが無い。このくらいで良いのだ。


 シアンがそう思っていると、シアン家の玄関の鈴がカランカランと鳴った。


「ごめんくださーい」

「はーい」


 ポーラは炊事場で手を拭くと、玄関先へと出ていった。

 ご近所付き合いは奥様のお仕事だ。


「あなた~、町内会長さんがお見えですわ」


 ……町内会長さんなら旦那のお仕事だ。


「はいはい。今出ますよ」


 シアンは抱きかかえていたシャルルをソファーに座らせると、ポーラの呼び声に応じて玄関先へと出ていった。


「これはこれは、シアン様!」


 シアンの視界の先では、巨大な熊の獣人が玄関の扉から顔を覗かせていた。

 そしてビックベアーはシアンと視線が合うと、破顔して玄関からのしのしと家の中に入って来た。


「町内会長さん、『様付け』は勘弁して下さい」

「いやいや、大祝福2にして大隊長!これは様付けをしなければなりません。医師や教師を先生と呼ぶようなものです」

「親ほどに年上の方に様付けされると、違和感が半端無いんですよ。それに去年までは『さん付け』だったじゃないですか」

「去年はまだ隊長格でしたからなぁ。それに、シアン様も軍団長には様付けでしょう?」

「ええ、それはまぁそうですけど……」

「では我々もシアン様には『様付け』ですな!」

「うぐっ」


 ちなみに研修医や教育実習生も先生と呼ばれる。彼らへの自覚と成長を促すのが目的なので、呼ばれる側の力量は問題では無い。

 それと同じ理由で、大隊長に昇格すれば即座に下位者から『大隊長』もしくは『様付け』で呼ばれる。

 言い負かされたシアンが絶句する間に、町内会長さんは本題へと突入した。


「ところでシアン様、実はシアン様に折り入ってお願いがあるのですが」

「……はい、何でしょう?」


 シアンが問い返すと、町内会長さんは大きな声で叫んだ。


「冒険者の方、よくぞ聞いて下さった!」

「会長さんが自分で言い出したんでしょうが!」


 完全に相手のペースに飲まれてしまった。

 シアンには、ギラン大隊長を相手にする時のゲイズティ大隊長の気持ちが少しだけ分かった。


「いやいや、これを一度冒険者に言ってみたかったんですよ。それはさておき、シアン様はパンにはバター派ですかな?ハチミツ派ですかな?」

「私はバター派ですね」

「それはいけませんな!ハチミツはとっても美味しいのですぞ!」


 熊の獣人が何やら力説し始めた。

 とりあえず『食の認識』と『都市間の流通問題』について30分ほど聞き流した結果、シアンはいつの間にか町内会の人たちと一緒にイエロービーの巣を襲う事になっていた。


 ……なぜ断らなかったのか?

 それはもちろん、リビングから玄関を覗き込んでいたシャルルの瞳がキラキラと輝いていたからだ。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






 イエロービーは平地や森などに生息する蜜蜂だ。

 分類は生物であり、魔物には属さない。

 働き蜂の成体1匹の体長は8cm~12cm。毒針の長さは体長の1/4ほど。大顎は全長の1/10ほど。蜂たちの身体の大きさは、周辺の食環境に大きく影響する。

 寿命は大半が冬まで。冬になればイエロービーは活動が低下し、限られた数で巣に籠って、集めたハチミツを摂取しながら越冬する。

 冬に入る際には、巣内にあるハチミツの質と量によって、越冬する働き蜂と冬を越さない働き蜂の割合が決まる。密源が良ければ上質なハチミツが作れるために生き残れる数が増える。

 やがて春になると活動を再開し、いくらかの分蜂をする。

 幼生の間は巣内で雑食しながら育ち、成体となれば餌を選り好みしながら周囲を飛び回って幼生に餌を運び、あるいは蜜を集める。

 植物はイエロービーなどに蜜を与える一方、その体に花粉を付けて遠方の植物に受粉させるという形で共生関係を保っている。


 ちなみに人は、採蜜はしているが養蜂はしていない。

 何故かと言うと、イエロービーは凄く凶暴だからだ。

 多様な動物やモンスターの徘徊する世界で、天敵たちから巣と蜜を守って過ごしてきた。そのために大型化と強毒化をしている。

 毒の半数致死量は、祝福が上がって加護も高い冒険者ならともかく、祝福0の一般人に対しては1匹で充分満たされると考えられる。

 養蜂しようと試みた者はいくらでもいたが、都市内に持ち込めば都市民が次々と刺されて死者が続出するし、都市外で養蜂すればモンスターに襲われるか刺されるので一般人の生計は成り立たなかった。


 そのイエロービーが、ブォオオンと激しい翅音を周囲に鳴り響かせていた。

 イエロービーの戦闘開始音だ。

 彼らは自分たちのコロニーを守るために、次々と巣から飛び立って敵へと向かって行った。


 イエロービーの敵は空から来た。

 攻め込んで来たのは赤色の大型のハチだ。

 レッドベスパ。

 彼らは身体に高密度の瘴気を纏っており、魔物に分類される存在だ。

 体長24~36cm。毒針の長さは体長の1/4ほど。大顎は全長の1/8ほど。毒針に比べて大顎が進化しているのは、捕食対象を次々と噛み殺す為だ。

 そして硬い外皮は、イエロービーの毒針や大顎による攻撃を弾く。

 冒険者協会は、レッドベスパ1匹への対処は祝福15以上と定めている。だがレッドベスパは、集団行動を行う種である。

 瘴気を纏った魔物であるので宝珠都市に守られた都市内へは入って来ないが、都市の外で遭遇したのならばすぐに逃げ出すべきだろう。大祝福1に届いていない冒険者ならば、身体の数ヵ所を刺されて即死することも珍しくない。

 好物は柔らかい生物。まず自分達が食べ、続いてレッドベスパの幼生へ餌を運ぶ。

 今まさに、イエロービーの巣の中に居る幼生たちが狙われていた。


 イエロービーのハチミツを採蜜に来た町内会の人たちは、思いがけず遭遇したその戦闘に思わず足を止めていた。


「ほほう……イエロービー数千匹に対して、レッドベスパ十数匹ですか」

「エスコット元兵士長、どうして君がここに?」

「はっはっは。元ゲイズティ大隊は皇女殿下直属。それに属していたシアン隊は、1隊がまるごと同じ都市で編成されていましたからな。つまり私も、シアン大隊長と同じ都市所属なのですよ」

「いや、そこはもちろん分かるんだけどね。君とは同じ町内じゃなかったでしょう?」

「ははは。エスコット君は、我々が呼んだのです!」

「町内会長さん?」

「彼は物知りで弓の腕も良いですからな。それにとても好奇心旺盛でフットワークも軽く、呼べば大抵すぐに来てくれます」

「はぁ。なるほど……」


 熊の獣人が大声で断言すると、シアンはあっさりと納得した。どおりで町内会にしては多様な装備を持ってきたわけである。

 大きなイエロービーを捕獲するための目の細かい投網、飛べなくさせるための手製の発煙弾、厚い動物の革で作った防護服と頭部用メットとネット、採蜜用の樽と瓶、運搬用の荷車……。

 町内会の人たちが思いつきでやるにしては立派過ぎると思ったが、エスコット元兵士長の入れ知恵ならこのくらいはあるだろう。

 もしかすると、祝福の高いシアンが呼ばれたのもエスコットの発案なのかもしれない。相手が大隊長ともなれば、一般獣人は普通遠慮して誘わないものだ。

 だが大祝福2ならば、効果的な魔物対策になる。この辺りの大抵の生物やモンスターならば、シアン1人でも充分に対処できる。おそらくレッドベスパ十数匹が相手でも、無傷のままに弓とショートソードとで駆逐できるだろう。


「レッドベスパ1匹相手に、数十匹のイエロービーが向かっているね」

「おおっ、レッドベスパはイエロービーを無視して巣を壊し始めましたな。ああ、幼生が襲われております」

「なるほど。レッドベスパが巣を襲う間は、自分の羽を内側に仕舞い込むのですな。するとイエロービーは硬い外皮を傷つけられなくなる。これは実に興味深いですな!」


 町内会の人達が二種族間の戦闘をのんびりと見守っているのには理由がある。

 レッドベスパの狙いはイエロービーの幼生で、町内会の狙いはハチミツだ。

 レッドベスパがイエロービーの戦闘部隊を減らしてくれれば、その後の採蜜がとてもやり易くなる。巣を完全に破壊されてハチミツを失うような事にならなければ、このまま放置した方が良い。

 その時、追い詰められたイエロービーがレッドベスパに向かって突然ハチミツを飛ばし始めた。


「おおっ、あれはハニーフラッシュ!」

「ハニーフラッシュ!?」

「そうです。Honeyハニー Flashフラッシュ!、Honeyハニー Clashクラッシュ!、Honeyハニー Slashスラッシュ!の3連続攻撃です。我々はあれをハニーフラッシュと呼んでいます」


「ハチミツを空に放って太陽の光を反射させる、Honeyハニー Flashフラッシュ!」

「ハチミツを勢いよく敵に飛ばして衝突させる、Honeyハニー Clashクラッシュ!」

「ハチミツを高速で敵に飛ばす事で敵を切り裂く、Honeyハニー Slashスラッシュ!」


「「「3技合わせて、ハニーフラッシュ!」」」


 町内会の人たちが、声を揃えてポーズと共に叫んだ。

 獣人は基本的にノリが良い。

 皇女ベリンダやゲイズティ大隊長のように真面目な人も居るが、全体的には陽気なのだ。そして町内会の人たちも大多数に属していた。


「しかもベトベトの液体で視界を塞がれ、おまけに甘いハチミツで相手を誘惑するという『暗闇』『魅了』の2つの状態異常付きです」

「我々はその状態変化を……」


 会長さんがさっと視線を向けると、町内の青年団の男たちが再びポーズを取って叫んだ。


「「「あなたの状態、変わるわよ!」」」


 果たしてポーズとセリフはビシッと決まった。


「……と呼んで警戒しております!」

「……分かり易いキャッチフレーズは良い事だなぁ」


 シアンはイエロービーがハチミツを飛ばすのを眺めながら、ついに思考停止した頭で町内会の人達のネーミングセンスを褒め出した。


「ハニーフラッシュ、なんと恐ろしい技でしょう!ああ、わしも喰らいたい」

「町内会長、あれは希少なホワイトハニーです」

「なんと!小瓶1つで2000Gは下らない超高級ハチミツではないか!」


 良く見れば、レッドベスパは白い液体をベトベトに掛けられて地面へと落下している。


「くっ、勿体ない。皆、煙と投網を使うのだっ!」

「「「おおっ!!」」」


 二種族間の戦闘に、第三勢力が介入して行った。

 戦闘の結末は言うまでも無い。

 中位ドラゴンに匹敵する正規軍の大隊長まで呼んだ町内会は、6名の軽傷者を出しつつも糖度最高級のホワイトハニーを大量に獲得した。


 それからしばらくの間、シアン家の食卓ではパンに最高級のハチミツが塗られる事になった。妻のポーラと息子のシャルルがとても喜んでいた。

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