「存分に取り立ててください」
日も大分落ちてきたころ、僕は川科真子の家の近くにある公園で、真子に電話を掛けた。
「もしもし真子さん! 今、大丈夫ですか!?」
『は、はい、大丈夫です!』
焦ったように呼び掛けると、真子も焦った口調で返事をした。
『あの、何かあったんですか』
「ええ、あったなんてモンじゃありません……。マズイですよ、眠ってた人達が、続々と起きてるらしいです!」
『えっ!?』
「さっき病院前を通りかかったら、やたら騒がしかったんでちょっと聞いてみたら、患者さん達が起き出したとのことで。多分今は、100人ほど起きてるんじゃないですか」
『ひゃ、ひゃくにん……!』
電話越しでも、呆然とした真子の表情が手に取るように分かる。
「すぐに対策を練りましょう。僕も急いでそっちに向かいます」
『は、はい』
さて、これで真子に伝えた。僕は電話を切ると、じんわりと額を伝う汗を拭った。
真子には三分の一が起きたと伝えたから、「ターゲットにした連中全員が寝ている」とは絶対に思わない。そんな楽観的な少女ではない。
僕は、控えていた20人ほどの悪魔達のほうを振り向いた。
「皆さん、お待たせしました。エヴェレットの奴から、存分に取り立ててください」
各々が怒号とともに、素早く川科家へと飛んでいく。
再度真子へ電話を掛けた。今度はすぐに出る。
「僕は病院から走ってます! そっちの様子はどうですか!?」
『あの、悪魔さんが……』
『おお、大輔殿! おヌシも真子殿を説得してやってくれ』
「と、言いますと?」
『実はのお、こうなった以上、眠り病から続々と起きてしまうから、早く災害を起こしたほうが良いと思うわけじゃ。じゃから、真子殿にそれを願って欲しいのじゃよ』
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕らが市内にいるんですよ!?」
僕は慌てたような声を上げる。
「認めるわけないじゃないですか!」
『大丈夫じゃ! おヌシと真子殿は不死がある!』
「家族はどうなるんですか!?」
『それは……、な、なんじゃおヌシら!?』
電話越しに、さっき指図をした悪魔達の罵声が聞こえてきた。アミエルの直接の顔なじみではなく、いわば「顔なじみの顔なじみ」なので、関係性はすぐには見破られないだろうとはトフォリの言だ。
エヴェレットが悪魔達にかかりきりになったため、再び真子が電話に出た。
『あの……本当に、起きたんですか?』
「ええ。今、すごい勢いで悪魔達が向かってましたけど、それって眠らせてた悪魔達ですよね!?」
『あぁ……』
僕が駄目押しをすると、真子の、落胆とも溜め息ともつかない声が漏れ聞こえた。
電話越しに、エヴェレットの『払うわい、払ってやるわい! あとでもう一度参加したいと言っても入れぬからな!』という捨て台詞も聞こえてきた。それとともに、悪魔達の声が小さくなっていく。
――頃合いか。
ぞろぞろと悪魔達が外に出てきたのを見て、僕は気を引き締めた。
「あ、今近くの公園まで来ました! 出てこられますか!?」
『は、はい』
しばらくして、小走りでやってきた真子は、顔面蒼白だった。
「ありがとうございます、真子さん。――そして、エヴェレットさん?」
僕が見据えると、エヴェレットは、真子とは対照的に、顔を真っ赤にして睨み返してきた。
「あのですね、エヴェレットさん。これは酷いんじゃないですか? 次々眠らせるどころか、起きてるじゃないですか」
「大輔、アミエル……。おヌシら、謀ったな……?」
「何おかしな事言ってるんですか。眠らせるよう指示してたのはエヴェレットさんでしょ」
「そーそー、大輔の言う通りだぜ」
アミエルも追従した。
「言い掛かりも甚だしいよな」
「貴様らぁっ!」
怒声とともにエネルギーを放出したエヴェレットは、マントを大きくはためかせつつ、僕とアミエルを忌々しげに睨み付けた。
「さっき来た悪魔達が、『証拠がある』とか抜かしておったわ! 貴様らまさか、さっきの会話を録音して、都合のいいように聞かせおったな!?」
――ああ、そりゃ気付くよな。もっとも、その真相をさっきの悪魔達に言ったところで、言い訳にしか聞こえないのが怖い所だがね。
僕はやれやれという風に頭を振った。
「そんなえげつない方法を思いつくのは、そういう恐ろしいことを常日頃考えているからですよ、悪魔さん」




