「今は半信半疑ぐらいで構わねえ」
忙亜駅南口の向かいにある市立病院は、極めてアクセスしやすい立地条件だった。
現在病室前では、金髪碧眼の、絵に描いたような美男子悪魔がアミエルと話していた。
「そりゃあボクらだって、忸怩たる思いはあるよ」
本来は静かなはずの病院だが、廊下や病室には人間の姿をした悪魔がごった返しており、非常に騒がしい。そのいずれもが美男美女で、正直アミエルの青い姿は浮いていた。
「でもさあ、そこまで猛烈に従いたいわけじゃないけど、参加しないのももったいないし」
「何だよ、トフォリ。オレみてぇに、そばまで来といて自力で稼ぎゃいーじゃねえか」
「それで睨まれた結果が、その姿に固定だろ? エヴェレットは一応約束は守るから、それもあってみんな集まってるんだよ」
「ハッ! あのヤローなんざ、上司の腰巾着だろーが」
アミエルは手でしっしっと追い払うジェスチャーをしてみせた。
「オレらからすりゃ、裏切りモンだろ? ダセェ奴に付き合うなよ」
「あ~ら、人間に変身出来ないアミエルの方が、よっぽどダサいと思うけど?」
「うるせぇよ、レモン!」
キャハハハと笑う、ピンクの髪をした巨乳の悪魔を、げしげしと足蹴にするアミエル。
「ったく、だからオレは、ここに来たくなかったんだ」
「まあそう言うな」
僕はアミエルをなだめた。
「ところで、皆さん。いつがXデーか、御存知ですか?」
「いいや。だけど、500人集まったら決行とか言ってたね」
「そ~よン、ぼーや。それまでオネーサンとイイコトしない?」
「いやぁ、日経カラ売りしたり、その情報を信用出来る筋に売ったりするのに忙しいですから」
僕は愛想笑いをしつつ断った。
「でも、ここまでやっておいて、その悪魔さん……エベレストさん、でしたか?」
「「エヴェレット」」
「あー、そのエヴェレットさん」
わざと間違えたのを、トフォリとレモンが唱和して訂正する。
「その方が、取り止めるというおそれはないですか?」
「んー、エヴェレットが一番美味しい話だけど……。止めるとしたら、取り憑いてる人間が翻意したときだろうね」
「ま~ね~。でも、あの人たらしに、そんな手抜かりがあるとは思えないわよね~」
「おいおい、甘いぜお前ら」
アミエルが頭を振った。
「最初に参加料として、結構な魔力をエヴェレットに渡してンだろ? 今のあいつ、大災害を起こさなかったら、魔力は丸儲けだわ、お前らはノルマこなせねーわで、万々歳じゃねーか」
「あ~ら、アミエルったらオバカさんね~ぇ。エヴェレットは、寝てても稼げるのよ? なんでそんな権利をみすみす手放すの? もちろんアタシ達だって、その付近で人間誑かせば楽に稼げるもの。こ~んなオイしい話、誰だって見逃すテはないでしょ~ぉ?」
「そこが胡散臭ぇンだよ。お前らだって、本心はそうだろ? そんなウメー話、エヴェレットから聞いたことあったか? オレはついぞねえぞ」
アミエルはそこら中の悪魔を見回した。レモンやトフォリと呼ばれた悪魔も、彼らを取り巻いている悪魔達も、それには反論がない。
「まあ、今は半信半疑ぐらいで構わねえ。でもな、あのクソッタレな上司に尻尾振ってる奴だぞ? どんどん染まっていくんだ。エヴェレットにその気がなくてもな」
「――おいおい」
僕はアミエルを苦笑しながら手で制した。
「その辺にしとけ、アミエル」
「だがよぉ……」
僕が落ち着かせると、アミエルは不承不承といった様子で静かになった。
今度は、僕が悪魔達に向き直る。
「とはいえ、僕もお金が掛かっている以上、そのエヴェレットさんの本心は気になります。おそらく大丈夫だとは思いますが、万が一のときは、証拠を押さえて、皆様にお知らせしますよ」
「あらン、いい度胸してるじゃない、ボウヤ」
レモンが、僕の肩から顔にかけてしきりに撫で回してくる。メガネまでベタベタ触られるのは、正直気分が悪い。
「でもねボウヤ、彼の機嫌を損ねて、消し炭にならないようにねン」
「レモン、大丈夫さ。ボクの見たところ、彼は賢そうだ」
トフォリが涼しげな目を向けた。
「色々と考えがあるんだろうさ。――そう、『色々』とね」
「……」
油断のならない相手に、僕は無言の笑顔で返した。
その後、悪魔達と「狩りやすい人間」などの雑談に興じたのち、僕は、「それじゃ、みなさん。お元気で」と軽く会釈し、アミエルを引き連れ、ステルス状態のまま病院をあとにした。
きなこの顔は、見ることすら叶わなかった。




