不死
「お前なあ、そうは言うが、マジで面倒臭いんだぞ?」
「不死のパックと書くなり、バージョンみたいなものを書けばいいだろ」
「受け付けてねえんだよ」
アミエルは辟易とした顔で指をパチンと鳴らした。すると、着ていたアロハシャツが学生服――それも冬服に早変わりする。
「クソッタレな上司が魔力をケチってるって話はしただろ? 本来はたしかにバージョンを書きゃオッケーなんだが、如何せん、このパックはスキがない。――あらゆる死亡に対応できるって意味だけじゃないぜ? 『願い』で使える魔力量の、上限ギリギリまで上手いこと使ってるって意味でもスキがないんだ。つまり、これを通すと魔力の中抜きが出来ねえから、奴らの旨味が全然ねえんだよ。だから面倒臭い仕組みにしやがったのさ」
「そう言われると、ますますパックが魅力的にうつるな。是非とも書け」
「うぇー……」
アミエルがあまりにうんざりしているので、やる気の上がる情報を告げることにした。
「アミエル。なら、願うのを止めてやろうか」
「お、いいのか!?」
「ああ」
僕は薄笑いを浮かべた。
「代わりに、アミエルが願えばいい。『僕が不死になるように』とな」
「――お前っ!」
アミエルがすかさず襟元を掴み、今度は高々と持ち上げた。
「そいつはヒデーよな!? ホイホイ言うこと聞いてるからって、いい気になってんじゃねえぞ!?」
「おいおい、僕は大真面目だぜ」
少し息苦しいが、アミエルを見下ろす分には都合が良い。
「そもそも、不死の願いはアミエルが叶えるべきだったんだぜ? 何せ僕が死んだら、お前が願いを言う機会は永遠に失われるんだからな」
「……!」
目をひん剥かんばかりに震えるアミエルに、僕は優しく言ってやった。
「だが、お前にとって幸運にも、今回は『願い』を狡猾に使う敵がいると判明した。眠り病を認識させない敵だ。当然、それを解決しようとしている僕の存在が知られたら、何を措いても消しに来るだろう。だから、すぐに願うことにした。良かったな、アミエル」
「……」
怒りの表情は消え失せ、変わりに陰鬱さを全身で表現するアミエル。言葉もなしに伝えられるなど、なかなかの役者だ。
「ところで、これは人間への危害じゃないのか? それとも、これぐらいはセーフなのか? いずれにせよ、理解が終わったら下ろせ」
アミエルは忌々しげに歯軋りしたのち、ゆっくりと僕を下ろした。
「お前が悪魔に見えてきたよ」
「眼科行け」
「ヤだね。目が悪いって言われたら、てめぇみてーなダッセェ眼鏡かけンだろ? お断りだ」
アミエルは派手に悪態をつくと、不死の願いを叶えるために、辞典に挟まった紙とにらめっこしながら次々と空中に見えない文字を認めていた。ぶつぶつ言いながらも、仕事はするらしい。
しばらくして、書き終わったのか、極めてぞんざいに「ほらよ」と寝そべりながら手を払った。
「終わったか。じゃあ叶えてくれ」
「いま叶えたっつーの。――ほら、試すんだろ? とっとと死ね。そんで蘇れ」
どうやら、願いを叶えるには五芒星すらいらなかったらしい。
再びアロハシャツと短パンスタイルに変わったアミエルを尻目に、僕は早速ペンを握った。
「これで手を貫いても治るか?」
「刺さったままだとムリだな。ペンを抜きゃあ治るぜ」
僕は、少しだけ手の平にペン先を押し込んでみた。アミエルの助言どおり、少しだけ痛覚を入れておく。すると、どんどん押し込んでいっても、一定のレベルを超えてからは痛みが増さない。
僕は、ペンを一旦持ち上げ、勢いよく振り下ろした。手の平を貫通するが、やはりチクッとする程度だ。引っこ抜くとそこにぽっかり穴が空き、すぐさま塞がっていく。
――用心深い敵を相手にするには、こちらも慎重にいく必要がある。何せ、ジャマーを仕掛けてくる敵だ。更に思考を推し進めただけで、何らかの対策によって死ぬ罠を用意している可能性もある。突発的な事故、不意打ち、更には、正体が割れたら常に「願い」で殺されるおそれもある……。
いずれを防ぐにも、不死は必要な投資だな。
無事に不死を得た僕は、早速眠り病について、ある「気になる箇所」を確認することにした。




