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溺愛されるよう仕向けるはずが、早々に陥落させてたなんて聞いてない!  作者: いか人参


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29.金色のリボン

最終話です!



その夜、ジュリアスは夕飯の時間を削って執務にあたっていた。本日外出していた分と、明日から結婚式までの間アレナに会う時間を確保するためだ。


悩ましいため息を吐きながら惚けた顔をしているが、彼の待つペンはスラスラと書類の上を走り続けている。こんな状態でも仕事をしているようだったが、なんともひどい絵面だ。



「はぁ…幸せ過ぎて死にそう。」

「その書類全部終わらせてからにしろ。…あと明日の王宮の会議と翌週の領地視察と……」


すかさずミケルがツッコむが、結局死なせる気はないらしい。



「しかし、仕事はしないといけないからな。アレナ、君のためにも頑張るよ。愛してる。」

「……………………おい、犯罪者」


ミケルがここ最近で一番の侮蔑を含んだ引いた目をしている。徐に引き出しから取り出したアレナの姿絵に、恍惚とした表情で話しかけるジュリアスを見たせいだ。


しかもそれは1枚に留まらず、赤子から幼子の姿まで時代を超えた彼女の姿が取り揃えられているという…狂気の沙汰でしかない。


報酬に目が眩んだ(ハンク)のせいで、自分の姿絵が横流しされていたなど、アレナは想像すらしていなかったのだった。



***



翌日から結婚式前日までの間、ジュリアスは宣言通り毎日アレナの邸に足を運んだ。律儀にも毎回3本の薔薇と共に。



「アレナ、おはよう。今日も君の初めてを貰えて光栄だ。俺の愛しい人。」

「お、おはよう…ございます。」

「愛してる」


シーツから目元だけを出したアレナが恥ずかしそうに言葉を返す。

満足したジュリアスは、頭を撫でて愛おしそうに額にキスをして帰って行った。


これが毎朝の光景だ。


『朝起きて一番に彼女の目に映るのは自分がいい』と駄々を捏ねたジュリアスは、レネに無理を言って起床時間に合わせてアレナの部屋を訪れていたのだ。


使用人の代わりに、婚約者がモーニングコールをするためだけにやってくるという理解し難い謎の行動だ。


ちなみに夜も同様で、アレナがベッドに入った後おやすみのキスをするためだけに部屋にやってくるのだ。

婚姻前に相手の寝室に入るなど普通は認められないが、短時間且つ短期間そしてレネの見張り付きという条件でなんとかサンクシュア家に受け入れられたのだった。


尚、ダンヒュールにバレると色々と面倒なため、レネが裏工作をして彼は結婚式までの間隣国で任務をさせられていた。



***



待ちに待った結婚式当日、この日のために用意されたウェディングドレスに身を包んだアレナは、祭壇の前でシルバーグレーのタキシード姿のジュリアスと向かい合っていた。


陽の光を受けた幻想的なステンドグラスが神秘的に光り輝く。荘厳な雰囲気の中、互いの両手を取って見つめ合い、神父に続いて誓いの言葉を口にした。



「新郎ジュリアス・レーウェンは、生涯に渡って妻となるアレナ・アレーストを愛すると誓いますか?」


「はい、全身全霊を掛けて溺れるほど愛し抜くことを誓います。」


「新婦アレナ・サンクシュアは、生涯に渡って夫となるジュリアス・レーウェンを愛すると誓いますか?」


「ひゃいっ、…誓います/////」

(たああああっ!!恥ずかしい〜〜〜〜〜)


ジュリアスが独創性溢れる余計な文言を織り込んできたせいで、動揺したアレナが盛大に噛んでしまった。

そんな彼女を慰めるかのように、唇に受けた誓いのキスはいつにも増して甘く魅惑的で尊いものであった。



無事に式を終えて祝福を得た二人は、その足で新居となるレーウェン家の別邸に来ていた。ジュリアスが当主を継ぐまでの間、ここが二人の住処となる。


早めの夕飯を済ませた二人は、それぞれ湯浴みをした後夫婦の寝室に向かう。


アレナが尋常じゃない速さで鼓動する心臓を手で押さえつけながら寝室のドアを開けると、中には既にジュリアスの姿があった。


ガウン姿の彼はソファーに座っており、顔を上げてアレナを笑顔で迎える。


(いきなりベッドじゃなくて良かったわ)


少しだけ緊張が和らいだアレナも彼の隣に腰掛けた。

ジュリアスが彼女のこめかみと頬ににキスをして肩を抱き寄せる。にこにこ顔の彼はなぜか金色のリボンを手にしていた。


(なぜリボン……?)


「ああ、これ?」


アレナの視線に気付いたジュリアスがリボンを見せる。そして彼女の両手首を合わせて掴むと、躊躇なくリボンで結びぎゅっと固定した。



「え゛」


「大丈夫、肌に傷がつかないよう最高級のシルク素材で作られているから。」


「!!?」

(いや、そういうことではなく………!)


「終わったらちゃんと外すから。」


いつもの穏やかな微笑みなのに、アレナのことを見据えるジュリアスの目は捕食者のそれだ。



「あ、あの…一体何を………」  


伸びてきた彼の手が腰に触れる直前、アレナは込み上げる恐怖を押し殺し、勇気を振り絞って疑問を言葉にした。



「何って、身体検査。この前みたいに昏睡させられるのは避けたいからな。先に調べさせてもらおうか。」

「しんたいけんさ……………………………」


色香を放つジュリアスの口から飛び出した『身体検査』というパワーワードに加えてこの前の色々を思い出してしまい、アレナの顔が真っ赤に染まる。



「だから大人しくして?」

「ひゃあああああっ」


腰を抱え込みながら、するりと夜着の裾に手を滑り込ませながら色気のある低音ボイスで妖艶に囁かれ、アレナが悲鳴を上げた。



「じ、自分で出しますわっ!白状しますから!だからこのリボンを取って下さいませ…!!」

「俺こういうの得意だから」

「いやあああああああああっ」


こうして彼女の色気のない声で初夜が始まり、時間をかけて深く愛し合った二人は無事に夫婦の契りを交わすことが出来たのだった。


後日、アレナが金色のリボンを目にしただけで羞恥に悶えるようになったのはまた別のお話。



最後までお読み頂きありがとうございました!

本編はこれで終わりになりますが、番外編としてまた二人の日常を描ければなと思います。

また機会ありましたらよろしくお願いします!


本当にありがとうございました^ ^

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― 新着の感想 ―
面白かったです。ジュリアスの豹変ぷりに笑いました。
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