26.同衾イベント
案内された部屋は建物の最上階に位置しており、同じ階に他の部屋はない。ワンフロアを広々と使ったスイートルームだ。
中に入ると、邸宅のような玄関ホールがあり、続いてリビングルーム、寝室、バスルーム、書斎、ドレスルームが完備されている。
白と金を基調とした内装は華やかさがあるものの、派手さは無く品のある作りとなっていた。
「先にバスルームを使うかい?」
「い、いえ。ジュリアス様がお先にどうぞ。」
顔を赤くしてそっぽを向くアレナに、ジュリアスはフッと艶やかな笑みを残してバスルームへと消えて行った。
リビングルームのソファーに腰掛けたアレナが続き部屋になっている寝室に目を向ける。開きっぱなしになっているドアから寝台が見えた。
(ベッドが一つしかないわ…)
これがラブロマンス小説ならきっと、
『僕はソファーで寝る。』
『私がソファーを使いますわ!』
『君をソファーになんて寝かせられるわけがないだろう。君がベッドを使ってくれ。』
『でしたら、一緒にベッドで寝ましょう。こんなに広いのだから真ん中で分ければ大丈夫ですわ。』
『……君がそれでいいなら』
ってなるやつよね??
最終的なお誘いは私なの!!?
無理よ無理無理…恥ずかしい…死ぬわ。ヒロインってみんな可愛い顔してやっぱり剛担なの?
勝手に妄想して勝手に首まで赤くしてるアレナ。だが、部屋を見渡してあることに気付く。
「……って、この部屋一人掛け用のソファーしかないじゃない!これじゃ同衾一択だわっ!!!」
悲鳴のような声を出して今度は顔が真っ青になったアレナ。
ジュリアスが数日前、この部屋の模様替えを指示していたことなど知る由もなかったのだった。
その後入れ違いで湯浴みをしたアレナが夜着の上にガウンを羽織ってリビングルームに戻って来た。
ジュリアスに呼ばれて寝室を覗くと、彼は寝台の上に腰掛けてアレナに手招きをしていた。
チラチラと寝室全体を見渡すが、悲しいことにベッド以外にはサイドテーブルとティーワゴンしか置かれていない。貴族令嬢が床に座るわけにもいかず、腹を括ってジュリアスの隣に並んで腰掛けた。
「眠るのに邪魔だろう。」
「!!」
ジュリアスはそう言って、アレナのガウンの紐を外し、丁寧な手つきで脱がせた。彼女を見つめる視線が妙に艶かしく、アレナの心臓が爆発しそうなほど鼓動を速くする。
(ちょっ……これから致すみたいな雰囲気出すのやめて下さい!!その無駄な色気もしまってー!!)
己の羞恥心に耐えきれず両手で顔を覆い隠すと、ジュリアスの手でゆっくりと剥がされてしまった。
「赤くなってる。可愛い。」
「……………っ」
両手首を掴んだまま、アレナの顔を覗き込んでくるジュリアス。その表情は柔らかく、いつにも増して甘い。蕩けるような雰囲気の中、自分をとらえて離さないアイスブルーの瞳。その瞳の奥に一瞬獰猛さが見えたその瞬間、
「!?」
アレナの唇に柔らかな感触が降って来た。初めて知る温かさと優しさに、数秒遅れで今のが口付けだと脳が理解した。
(ききききききき、きき、キス!!?)
自分の唇に触れて確かめたかったが拘束されていてそれは叶わず、代わりに責めるような視線をジュリアスにぶつける。
「………ちょっと今それはマズイ」
「??」
ジュリアスは片手を離して自分の顔の下半分を覆ってしまった。ほんのりと耳が赤い。
「……悪い、少しだけ」
「え?」
何かを堪えたような顔で謝ると、ジュリアスはアレナを横から抱きしめてベッドの上に押し倒した。
(え…ええええええええええ)
頭の両端に腕をつかれて上からジュリアスに見下ろされ、アレナの脳がバグる。
(この状況はちょっと……………………)
「アレナ、愛してる」
「!!」
甘く見つめられたまま縋るように愛を囁かれ、アレナの精神が限界突破する。もうこれ以上は何もかもが耐えられなかった。
「………本当にごめんなさい!」
(やっぱり私にヒロインの真似事は無理だわ!!)
アレナは夜着の内側に手を滑らせ、忍ばせていたガラスの小瓶を取り出すと、その中身を口に含み瓶を投げ捨てる。
そしてジュリアスの顔に手を伸ばしその両頬を挟み込み、深く口付けて流し込んだ。
「ちょっ……これは反…そく…だろ」
顔を赤らめながら意識を手放すジュリアス。
アレナも残りの液体を飲み込み、彼の後を追うように意識を失った。
「ん」
翌朝、だいぶ陽が高くなってから目を覚ましたアレナ。ぼんやした頭のまま見慣れない天井を眺める。
「アーレーナ?」
「…………ジュリアス様!!?」
朝から甘ったるい声で呼ばれて横を見ると、キラキラとした笑顔のジュリアスが同じベッドに横になってアレナのことを見ていた。
「昨日は随分と大胆だったな。」
「だいたん……?」
笑顔のジュリアスから良からぬ圧を感じる。アレナは寝起きの頭で昨晩のことを必死に思い出していた。
(私何かして………あ。)
思い出した途端、アレナの顔が首まで真っ赤に染め上がる。深く口付けた感触が口の中に戻って来て、熱くなった血液が全身を駆け巡った。
「あ、あああ、あれは、そのっ……」
「俺にもお返しさせて」
「………いえ、そんな必要はまったく」
「遠慮しなくていい」
「遠慮なんかじゃなく」
「ね?」
「……っ」
アレナの完敗だ。
ジュリアスは笑顔のまま彼女を組み敷くと、存分にその唇と彼女が恥じらう様子を堪能したのだった。




