24.バチバチのお茶会
用意されていた全てのドレスを試着してジュリアスの細やかな意見(主に露出度合いについて)を反映させ、無事にウェディングドレス選びは終了となった。
新たなドレスへ着替える度にジュリアスが言葉を尽くして褒め称え、針子も手を叩いて絶賛してくれるため、アレナはいたたまれない気持ちになりながらなんとかやり切ったのだった。
お疲れ様とジュリアスが庭園に、昼食と午後のお茶を兼ねてアフタヌーンティーを用意してくれた。
三段のティースタンドにフィンガーフード、焼き菓子、チョコレートが美しく並んでいる。
美しい花々に囲まれたガゼボで、アレナは彼と向かい合って席に着いた。
「疲れたかい?」
「いえ、色々着られてとても楽しかったですわ。」
「では、まだやろうか。今度はもっと様々なドレスを用意して。」
「ケッコウデゴザイマス」
「はははっ」
思わずカタコトになって答えると、ジュリアスが冗談だと言って笑っていた。
「仲良くやっているかい?」
そこに一人の男性がやって来た。
ジュリアスを彷彿させるアイスブルーの瞳に金色の髪。カジュアルな装いだが、確かな風格を感じる雰囲気を醸し出している。
「父上、来てたのですね。」
アレナが慌てて立ち上がろうとしたが、ジュリアスの父である公爵に手で制止されてしまった。
「ああ。お前の愛しの婚約者が来てると聞いてね。アレナ嬢、婚約書類の調印の時以来だね。」
「お久しぶりにございますわ。」
にっこりと微笑むと、公爵がアレナの前に手を出してきた。
(お会いするのは2回目なのに、どうして今更握手をするのかしら?)
疑問に思いながらも無視するわけにいかず、その手を取り握手を交わす。
「……….そんなに睨むな。」
「握手をする必要ありますか?」
実父に対して嫉妬心を剥き出しにするジュリアスに、公爵はどこか嬉しそうな雰囲気を漂わせながら苦笑いをしている。
「噂を確かめたかっただけだよ。どうやらお前が熱を上げているのは本当のようだ。随分と変わったのだな。」
「はい。全てアレナのおかげです。俺の唯一で最愛ですから。」
「ははは。まさかお前の口からそのような言葉を聞けるとはな。」
恥じらうことなく真剣な眼差しで言い切ったジュリアスに、公爵は声を上げて笑っていた。とても機嫌が良さそうだ。
一方のアレナは恥ずかしさで顔が赤くなっている。動揺を隠すのに精一杯だ。
そんな彼女の姿を視界の端で捉えたジュリアス。体の奥底から愛しさが込み上げると同時に、二人きりを邪魔してきた相手に対する憎悪が膨らむ。
(…………邪魔だな)
「心の声が聞こえてるぞ。」
殺気を感じた公爵が嗜めるが、ジュリアスの纏う空気は冷え込む一方だ。
「お前に頼まれた件、サンクシュア侯爵から同意の返事を頂いたぞ。」
「父上、お忙しい中お力添え頂き誠にありがとうございます。」
すっと綺麗に他所行きの笑顔を作って御礼を言ってきた息子に苦笑する。
「調子のいいやつだな。羽目外すなよ。」
「心得ております。」
「そうだ、アレナ嬢。良かったらこの後晩餐に…」
「父上、残念ながらお時間だそうですよ。」
ちっとも残念と思っていない笑顔のジュリアスが、視線で控えていた公爵の執事を示す。鞄とコートを手にして外出の時間だと静かに訴えていたのだ。
「ああ、残念だな。アレナ嬢、また次の機会に。」
冗談か本気か分からない表情で言うと、公爵はその場から去って行った。
「アレナ、ごめん。紅茶が冷えてしまったな。」
「いえ…あの、私が」
紅茶を淹れ直そうとするジュリアスに、アレナが手を伸ばしかけたが優しく押し返されてしまった。
「次話す時は俺の私室にしよう。そこなら邪魔されないから。」
「し、ししつ…」
「ああ。ベッドもソファーもあるし、一緒に寛げると思うよ?」
やけに色気のある視線を向けられ、アレナの妄想が捗ってしまった。小説の中に出てくる男女のあれやこれやを思い出し顔に熱が集まる。
「さっ…さっきの同意って何の話かしら?」
「ふふふ…話を逸らされてしまったな。」
アレナの恥ずかしがっている様子にジュリアスはご満悦だ。淹れたての紅茶の入ったティーカップを彼女の前に差し出す。
「アレナと婚前旅行に行きたいと思ってね。王都から最も近い公爵領へ、一泊2日の行程だ。……どうだろうか?」
一転して不安そうな瞳でアレナのことを見つめてくるジュリアス。
「婚前旅行…」
アレナの頭の中に、またもやラブロマンス小説の王道が浮かぶ。
(婚前旅行って、、2部屋取っていたけれどトラブルで1部屋取れなかったっていうあの婚前旅行!!?そ、そんな…破廉恥なっ……)
破廉恥なのはアレナの脳内だ。
そんな彼女の脳内など知らずに追い討ちを掛けてくるジュリアス。誠実そうな表情で真剣な眼差しを向ける。
「安心して。宿泊先の部屋は別々に取ってあるから。」
(きゃあああああああっ!!フラグを立てられてしまったわ!!)
アレナの平和な頭の中はお祭り騒ぎであった。




