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溺愛されるよう仕向けるはずが、早々に陥落させてたなんて聞いてない!  作者: いか人参


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21.分からせたい男



(これは一体どういう状況!!?)


今度はジュリアスの膝の上で横抱きにされ、ぎゅっと彼の胸板に押し付けられるように抱え込まれている。

目の前に迫る美麗な顔にアレナの心は爆散寸前だ。



「下ろしてくださいませ!」

「ふふふ」


必死に懇願するが、返ってきたのは優雅な微笑みだけであった。


(何が面白いのよ!)


足掻けば足掻くほど、彼女を包み込む腕の力が強くなる。暴漢からの逃げ方はある程度心得ているが、単純な力比べではどうしても負けてしまう。



「アレナの髪ってすごく綺麗だな。つい触れたくなる。」

「………っ!!」


一束掬い上げると、ジュリアスは唇を寄せてそっとキスをした。


(突然なんてことをっ………!!!)


髪の毛に神経などあるはずもないのに、まるでその一本一本に血が通っているかのように反応を示す。髪から伝わった感触と熱がアレナの心に踏み込み掻き乱してくる。



「君を目の前にすると、自制が効かないんだ。それに物凄くドキドキする。」


ほんの僅かに恥ずかしそうな素振りを見せたジュリアスがアレナの手を掴む。



「え」


次の瞬間、彼女の手のひらは彼の心臓に当てられていた。


ー トクトクトクトクトク…


その音は規則正しかったが、アレナの知るそれよりも幾分か早いスピードで脈打っている。



「これで分かっただろう?俺の心を惹きつけて乱す君が媚薬そのものなんだ。薬なんて関係ない。」

「な……なにを………」


いつの間にか両手を握られ、動きを封じられていた。彼の腕の中で動けないアレナの眼前に、やけに熱のこもった瞳がじわじわと迫ってくる。


(なっ………嘘でしょう!!初めてでこのシチュエーションはレベルが高すぎるわっ!!ちょ…一回ストーーーーップ!!)



「ジュ、ジュリアス様!?そろそろさすがにっ…」


使用人に助けを求めようにも、ジュリアスの腕に阻まれて外に視線を向けることが出来ない。



「ん?その可愛いお口閉じていてくれるか?それとも、最初から深いものを強請っているのか?」


無駄に色気を漂わせながら、意地悪な笑みを浮かべるジュリアス。


(強請ってませんっ!!!!)


羞恥によって瀕死状態のアレナに容赦なく追い討ちを掛けてくる。彼女の顔は、これ以上ないほど真っ赤になっていた。


(本当に本当に本当にっ!もう限界なんですってばーっ…………!!)


もはや泣きそうになっているアレナに、人形のように精巧な、けれども熱を帯びた顔が近づいてくる。

彼には情けも手心もなかった。心が欲しいと叫ぶまま、抑えることなく情熱的にアレナを求めてくる…



「お前…こんなところで何やってんだ……」

「…………っ!!?」


その時、地を這うような声で怒りを露わにし、二人の前に仁王立ちしていたのはミケルであった。怒りのあまり、彼の肩が震えている。


(救世主様っ…!!た、たすかったわ…………)



「はぁ…」


わざとらしく大きなため息をついたジュリアスは、ミケルの視線を遮るように脱いだジャケットをアレナに被せた。



「……お前見て見ぬふりとか出来ないのか?気が利かない奴はモテないぞ。」

「その言葉、初恋で浮かれまくっているお前だけには言われたくねぇ…使用人達も近づけなくて困ってるぞ。」


怒りでカチカチと奥歯を鳴らし始めたミケルに、ジュリアスが「しっしっ」と、手で追い払うような仕草をする。



「分かってねぇな…今のはアレナ嬢のために止めたんだぞ。彼女の気持ちもちゃんと尊重してやれよ。」


(なんというっ…!!この方は私の気持ちを分かってくれているのね!)


アレナはつい嬉しくなって、ブンブンと勢いよく頭を縦に振りまくって肯定の意思を示した。



「ふぅん」


ジュリアスが物凄く面白くなさそうな顔で彼女のことを見る。



「アレナは俺の婚約者なのに、他の男の味方をするわけ?」


ジャケット越しとは言え、耳にピッタリと口をつけられて囁いた声はアレナの脳と心を揺さぶってくる。


(ひいいいいいっ……良い声で耳元に囁くのは反則だわっ!こんなの、何も感じない方が無理よ!)


ゾワゾワと全身を撫でられたかのような感覚に、身震いした。



「だったら俺が分からせてあげないと…」

「!!」


ジャケットの隙間から覗き込み、全く目が笑っていない微笑みで愛らしく首を傾げる。彼は、すーっとアレナの顔に手を伸ばしてきた。そして親指で彼女の下唇をなぞるように撫で付ける。



「…柔らかい」「ぎゃあっ!!」

「やめろ、この変態」


存在感を取り戻したミケルがジュリアスに軽いパンチをお見舞いしていた。

アレナはもう拍手喝采の気分だったが、数秒前のやり取りを思い出し、必死に真顔を貫いている。



「さっきから邪魔ばかりして…」

「お前このままじゃアレナ嬢に嫌われるぞ。」


君からも何か言ってくれとミケルが目力を強めて訴えかけてきた。責任は自分が取るから安心しろと何度も力強く頷いてみせる。


アレナは覚悟を決めて口を開いた。



「……ジュリアス様、こんな所で恥ずかしいですわ。その…まだ結婚前ですし…」


アレナは頭の中にあるヒロインイメージを憑依させ、可愛さたっぷりにいじけたふりをした。


一方、潤んだ瞳で上目遣いをされたせいで、ジュリアスの思考回路はひどく歪んでしまった。己の都合の良いように解釈をし、それが真実だと脳に刻み込んだのだ。



「……っ。俺もアレナと同じ気持ちだ。結婚式の夜が楽しみだな。1週間と思っていたが、結婚後の休暇を1ヶ月に変更するよう調整しよう。」


とても無邪気に微笑んだジュリアス。

その姿にアレナが絶句する。


(あああああああああああああああああああああああああ!やってしまったわーー!自分でハードル上げてどうするのよ!!)



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