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溺愛されるよう仕向けるはずが、早々に陥落させてたなんて聞いてない!  作者: いか人参


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11.看病イベント


ダンヒュールがジュリアスの元に殴り込みに行く少し前の時間、珍しく息を切らしたハンクがアレナの部屋に戻って来ていた。


彼は男性使用人の服を着ており、その上には目立たない黒の外套を羽織っている。

その姿を目にした瞬間、アレナとレネの二人はだいたいのことを察したのだった。



「予想通りレーウェン家に向かったぜ。」


「あぁやっぱり…」


「しかもジュリアスは在宅してるってよ。こりゃ鉢合わせ確定だな。はははは!面白え。」


「何が面白いのよ…破天荒男の妹なんてって言われて婚約破棄されたらどうするの。また一から計画をやり直さないといけないじゃない。絶対に嫌だわ。」


「お嬢」「お嬢様」

(ジュリアス様じゃなくてもいいのか…)


明後日の方向に心配するアレナに、さすがのハンク達もツッコミの声を口に出すことは出来なかった。



「あーそれと、ジュリアスは今体調崩してるらしいぜ。」

「はぁ!!?」


アレナが勢いよく立ち上がり、光の速さでハンクに詰め寄った。



「そういうことは早く言いなさい!情報は事実だけ正確に、出し惜しみせず一度に全て伝えきる、これ諜報員の基本でしょうが!」

「…………へい」


アレナにしては珍しく至極真っ当な説教をたれる。大柄なハンクを一回り小さくしたところで、彼女は急いで外出する準備を始めた。



「レネ!今から看病イベントに行くわよ!すぐに庭からお見舞いの花を…って、うち毒草しかなかったわ!どうしましょう…花屋に寄る暇はなんてないわよ。」


「それでしたら、私が馬で先回りして公爵家の庭から花を拝借しましょう。お嬢様が到着次第、馬車の前にお持ちします。」


「それは名案だわ!頼んだわよ!」


「お前ら、ほんとにそれで良いのかよ…」


ツッコミどころが多すぎて、ハンクはこの中で自分がまともだな…と達観していたのだった。



***



アレナを乗せた馬車がレーウェン家に到着するとすぐ、この家で拵えたであろう見事な花束を手にしたレネがやって来た。



「急な訪問になることを先方にお伝え済みです。気をつけていってらっしゃいませ。」


「ええ!看病イベントを成功させてみせるわ!」


アレナは玄関までの長い道のりを急いだが、途中でふと立ち止まった。


(でも普通は、男性が女性側の看病をするってイベントなのよね…女の私の場合、看病って何をしたら良いのかしら)


瞼にキス…?おでこ同士をくっつけて体温確認?さすがに女性からだとはしたないかしら。例えばこんな…


『顔が赤いな。まだ熱があるんじゃないか?』

『こ、これは熱じゃなくてっ………』

『ん?耳まで赤いが。』

『か、顔が近すぎますわ!』


……って、これ完全に男が吐く台詞よね。

女がやると途端に痴女になるわ。

うん、却下。


じゃあ弱っているところを慰める…?頭ナデナデとか…?それも男のプライドを傷付けてしまいそうよね。


え…………


私はここで何をしたら良いのよ。

勢いで来てしまったけれど、男性側が病気した場合の看病イベントは小説の中に出て来たこと無かったかも…


このまま帰る?

でも、先触れ出してるしなぁ…

困ったわ。


花束を抱えたまま、正面玄関に続くタイル張りの道の上で途方に暮れるアレナ。その姿は完全に迷子であった。




「アレナ?どうしてこんなところにいるんだ。体調はもう大丈夫なのか?」


邸から出て来たダンヒュールがアレナの姿を見つけて一目散に駆けてきた。



「お兄様!本当にジュリアス様のところに行ってたの?失礼なことしてない?揉めてない?剣を抜いて…はないか。」


彼の腰に剣がないことを確認したアレナが少しだけ安心したように息を吐く。



「失敬な。軽く話をして来ただけだぞ。ジュリアスは昨日アレナのことを雨から庇ってくれてそうだな。紳士でいい奴じゃないか。」


「誤解が解けて良かったわ。でもそのせいでジュリアス様に風邪を引かせてしまって…今お見舞いに来たのよ。」


「ああ。その点は改善するように伝えておいたぞ。」


「は?その点って何の話??」


腰に手を当て胸を張るダンヒュールの姿に、嫌な予感しかしない。



「軟弱だから騎士団の朝練に混じって鍛え直せって言ってきた。お前も嫁に行くなら強い男の方が良いだろう?」


ダンヒュールが物凄く綺麗な顔でどやった。


彼も本業の隠れ蓑として一般騎士の身分で従事しており、日々鍛錬していることから筋肉への信頼が厚い。そのため、自分基準でジュリアスにも体力強化を強要したらしい。



「なっ……相手は公爵令息よ!?また勝手なことをしてっ………………」


頭に血が上って怒鳴りつけそうになる一歩手前、アレナはふとあることに気付く。


(あ…もしかしてこれ…差し入れイベントを実行するチャンスでは……?)


「お兄様ありがとう!直情的な行動もたまには役に立つわね!」

「ああ、お前のお兄ちゃんだからな。」


妹に褒められることは無条件に嬉しいらしく、ダンヒュールは言葉の意味を深く考えることなく喜んでいた。



「お前が嬉しそうでお兄ちゃんは幸せだ。さて、一緒に帰ろう。」


「うん…って、私お見舞いに来たのよ!まだ花も渡せてないわ。」


「は?婚約者の身分で異性の私室に入れるわけないだろ。その花は執事に渡せば良い。ほら帰るぞ。」


「……………確かに。それもそうね。」


看病イベントのやり方が思いつかなかったため、アレナはダンヒュールの意見に乗っかることにした。


こうして見舞いの花だけ執事に託し、二人は仲良く一緒に公爵邸を後にしたのだった。





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